いつでも元気

2013年1月1日

特集2 子どもの救急 発熱・嘔吐・けいれん・頭部打撲の場合

受診のタイミング、家庭でのケアのポイント

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國吉保孝
青森・健生病院
(小児科)

 小さなお子さんを持つお父さんお母さんにとって、子どもの急な発熱や嘔吐、ケガなどの対応は大きな悩みのひとつ。「こういう場合、どうすればいいの?」と、とまどう方もおられることでしょう。
 病気やケガのお子さんに対するケアでは、保護者と医療者の協力が不可欠です。診療する上で「いつもの様子とくらべてどうなのか」といった情報は非常に参 考になりますので、保護者の方がお子さんの観察ポイントを知っておくことは大切です。
 今回は、病気やケガをしたお子さんが診療時間外でも受診すべきタイミング、家庭でのケアのポイントについてお話しします。

具合を見る3要素

 最近、小児救急医療のなかでは、「小児患者評価の3要素」(図1)の重要性が強調されています。世界的な小児救急のための教育コースで導入され、日本でも小児救急に関わる医師・看護師の間で広まっています。
 これは診察前に30秒程度で様子を見て、緊急度と重症度を評価する手法です。評価に際しては目と耳だけを使い、特別な道具を使用しません。医療従事者で なくとも病気の子どもを目の前にしたとき、どのような点に着目すればよいのか、非常に参考になると思います。
 実際の手順として、まず全体の様子を見て(外観)、ゼーゼーしていないか呼吸の音を聞き(呼吸状態)、顔色(皮膚の色)と呼吸が苦しそうでないか(呼吸 状態)を目で見て確認します。各々の観察ポイントは以下のようになります。
genki255_03_02(1) 外観(見た目)
・おもちゃで遊ぶか
・ぐったりしていないか
・視線は合うか
(2) 呼吸状態
<呼吸の仕方>
・肩で息をしていないか
・肋骨が浮き出てこないか
<呼吸の音>
・ゼーゼーしていないか
(3) 皮膚の色
・顔色が蒼白くないか
・くちびるや指先の色が青黒くないか(チアノーゼ)
 これらは、いかなる病気・症状にも共通する観察項目です。(1)(2)(3)のうちいずれかに異常がある場合は、症状や原因にかかわらず、診療時間外でも受診しましょう。
 ここでは、子どもに多い発熱・嘔吐・けいれん・頭部打撲について受診の目安とケアのポイントをご紹介します。

発熱の場合

 発熱の原因の大多数は、ウイルスや細菌などの「病原体」が体に侵入したことに対する生体の防御反応として起こります。どのような病原体がどこの臓器に侵入したかどうかで、病気の重症度が変わってきます。
 子どもの発熱の原因となる病原体の大多数が「ウイルス」です。「細菌」はあまり多くありません。また、病院でしばしば処方される抗生物質(抗菌薬)は細 菌に対して効くもので、ウイルスには全く効果がありません。つまり抗生物質が効く発熱は非常に少ないということです。

◆受診の目安
(1)3カ月未満のお子さんの場合、早めの受診をおすすめします。
(2)「元気がなくぐったりしている」「水分をとろうとしない」「排尿が極端に少ない」場合は、早めに受診しましょう。
(3)発熱はあっても元気がある場合や水分・食事がとれている場合は、救急受診ではなく、診療時間になってから受診しましょう。

◆自宅でのケアのポイント
(1)水分補給をこまめにしましょう。
(2)気持ちよさそうにするならば、冷やしてあげましょう。
(3)汗で下着が濡れたら、こまめに着替えをさせましょう。

◆解熱剤を使用するタイミング
 発熱自体は悪い反応ではありませんし、発熱だけで「頭がおかしくなる」ことはありません。私は保護者の方に「体温が38・5℃を超えて、元気がないよう なら坐薬を使用しましょう」と説明しています。元気があって水分がとれているようなら、無理に使わなくてもよいでしょう。

嘔吐の場合

 嘔吐の原因はさまざまで、大きくは、(1)胃腸炎などの消化器疾患、(2)髄膜炎や脳腫瘍などの脳神経疾患があります。
 また子どもは鼻づまりや激しい咳、便秘などでも嘔吐します。わたしたち小児科医は「嘔吐の原因は何か」「嘔吐にともなう脱水症状はどの程度か」という点 を注意深く診察しています。お子さんが自分で症状を訴えられるようなら、いつもと違う頭痛や腹痛がないか、確認することも重要です。
 子どもは成人にくらべて、脱水症状を起こすと生命に関わる危険性が高い点も注意が必要です。次に、脱水症状に陥りやすい胃腸炎による嘔吐を中心に対処法を説明します。

◆受診の目安
(1)脱水症状が強い場合、ぐったりしている場合、非常に機嫌が悪い場合は、早めの受診をおすすめします。
(2)嘔吐はしているが水分を摂ろうとする意欲がある場合は、こまめに水分摂取を続けて、診療時間になってから受診することをおすすめします。

◆自宅でのケアのポイント
(1)経口補液療法について
 脱水の予防には、水分だけでなく塩分(ナトリウム)の補充が必要です。これは水分が失われると体内の塩分も不足するためです。最近では医療用のイオン水などもあります。
 脱水の症状がある場合は、なるべく早く水分補給を開始しましょう。診察室で保護者の方から「吐くから飲ませていなかった」と言われることがあります。た しかに胃腸炎の早期の段階では、胃が非常に敏感になり、嘔吐しやすい状態にありますが、それでもスプーンやスポイトで一口ずつ水分を補給しましょう。とて も根気の必要な介助ですが、これで水分がとれていれば、急いで点滴をしなくて済むことも多くあります。
(2)感染対策について
 感染性胃腸炎の原因として有名なのは、ノロウイルスやロタウイルスによる胃腸炎です。これらのウイルスは非常に感染力が強いため、看病している親御さん や兄弟にも感染します。吐物やおむつの処理、介助のあとの手洗いを心がけましょう。

けいれんの場合

 けいれん発作の原因は、さまざまです。発熱をともなっているかどうかで想定するべき病気が異なります。熱が高い場合は熱性けいれん(ひきつけ)や髄膜 炎、脳炎・脳症などが疑われ、発熱をともなっていない場合はてんかんなどの可能性があります。
 ここでは、最も頻度が高い熱性けいれんと、見逃すことができない髄膜炎や脳炎・脳症を含む「発熱をともなうけいれん発作」を中心にお話しします。

◆受診の目安
(1)けいれん発作が5分以上続いている場合、けいれん発作が停止した後も意識の回復がおそい場合、くちびるの色が青黒い場合は、救急車を呼びましょう。
(2)けいれん発作が5分以上続いた場合や生後6カ月未満のお子さんのけいれん発作、繰り返しけいれん発作が起こる場合などには、早めの受診をおすすめします。
(3)熱性けいれんを起こしたことがあり、ふたたび同様のけいれん発作を起こして発作後に機嫌が良い場合は、診療時間になってからかかりつけ医を受診しましょう。

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◆自宅でのケアのポイント
 保護者のみなさんが慌てないことが大切です。後遺症が残るかどうかは、けいれんの持続時間よりも、けいれんの原因によることが大きいと思います。
 呼吸ができるよう気道を確保し、吐いた物による窒息に注意すれば、30分未満のけいれんで後遺症が残ることは稀だと言われています。けいれんを起こして いるときは今にも窒息するかのように見えますが、気道確保ができていれば、呼吸はできていることが多いのです。
(1) けいれん発作の持続時間やけいれんの様子を確認してください。
(2) 口の中に指や割り箸を入れることは危険です。
(3)けいれん中は、呼吸がしやすく、吐物で窒息しないような体勢(回復体位:図2)をとらせましょう。

頭部打撲の場合

 つかまり立ちやつたい歩き、ひとりで歩けるようになったお子さんは、本当によく転びますね。一見、軽微な外傷に見えても頭蓋骨を骨折している場合や、そ の反対に大きな傷や出血があってもあまり心配ない場合など、重症度を正確に評価する目安はありません。
 また、1回だけのCT検査では正確に異常を確認できないこともあり、何よりも症状の経過を注意深く観察することが大切です。

◆受診の目安
(1)受傷直後に意識を失った場合や嘔吐を繰り返した場合、ぐったりしている場合は、直ちにCT検査を受けられる病院を受診しましょう。
(2)一度でも嘔吐した場合、1メートル以上の高さから墜落した場合、こぶが大きくブヨブヨしている場合、出血が止まりにくい場合は、注意深く観察する必 要があります。本人の様子を見ながら、元気に遊んでいるようなら診療時間になってからの受診でも良いと思います。
◆自宅でのケアのポイント
(1)一見軽症でも、受傷後4時間は注意深く観察する必要があります。
(2) 出血している場合は、傷口にガーゼなどを当てて、圧迫しましょう。
(3) 事故予防の意識も大切です。不注意で高い場所に乳児を寝かせていたために落ちてケガをさせたり、ドアを開けっ放しにしていたことで階段から転落しケガをするなどの例も多く見られます。十分に気をつけましょう。

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かかりつけ医と日常的に相談を

 小児救急患者の緊急度や重症度を正確に評価することは困難です。また重大な病気にかかっていた場合、子どもは成人に比べて病状の進行が速いと言われてい ます。ただ、時間外の小児救急患者は、ほとんどの場合が軽症で翌日の受診で間に合うことも事実です。お子さんも、寒い冬や暑い夏の夜遅くに病院に連れて行 かれるよりも、自宅でゆっくり静養するほうが良い場合もあるでしょう。病院や診療所に行くことで、別の感染症にかかってしまうこともあります。
 小児救急を担当する医師が少ない地域では、現場の医師が疲弊し、受診を抑制している地域もあり、救急医療体制には限界があります。適切に時間外診療を利用することは、地域医療を守ることにもつながります。
 ぜひ、かかりつけ医を受診した際には、再診のタイミングや自宅でのケアのポイントについて、日常的に相談しましょう。お住まいの地域の小児救急医療体制 と時間外の受診方法について、今一度確認しておくことをおすすめします。
 私たち小児科医は、保護者のみなさんが子育ての経験を通して、子どものケアの知識を深めていくお手伝いができればと思っています。
イラスト・井上ひいろ

いつでも元気 2013.1 No.255

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