いつでも元気

2013年7月1日

特集2 変形性膝関節症 多くは保存療法で症状改善

正しい理解と早期からの運動療法を

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木村 和正
愛知・みなと医療生協・協立総合病院
(整形外科部長)

 変形性関節症は整形外科で多く見られる病気の1つです。なかでも膝に起こる変形性膝関節症は、変形性関節症の中でもっとも多く、X線(レントゲン)検査では2000万人超に見られ、そのうち症状がある方は約800万人と推定されています。
 変形性膝関節症は、膝の関節にある軟骨が徐々に摩り減って下の骨が露出し、「骨の棘」ができたり、骨が変形してしまう病気です。膝を動かすと痛んだり、膝の曲げ伸ばしができにくいなどの症状が現れます。
 膝に炎症が起き、関節中に関節液が過剰にたまる方もいます。さらにひどくなると、立ったり歩いたりする動作が困難になります。介護保険で「要支援」と判 定される病気で最も多いのが変形性膝関節症など関節の病気と言われ、高齢の方の生活の質(QOL=Quality of Life)を維持する上でも予防が重要です。

原因と症状

 変形性膝関節症には、ほかの病気やけがなどが原因のもの(二次性)もありますが、直接的な原因が明らかではない「一次性」がほとんどです。
 一次性の変形性膝関節症には、多くの研究者の努力により、蛋白分解酵素・一酸化窒素が軟骨の破壊に関与していたり、遺伝子が関係していることなどがわ かっています。しかし、予防や治療に結びつくところまでの原因解明には至っていません。
 一方で関節に過剰な力(ストレス)が加われば、軟骨が傷んでくることは明らかです。肥満、重度のO脚やX脚、職業・スポーツによる酷使などによる膝へのストレスを軽減することは、予防上・治療上も重要です。
 中心となる症状は、膝の痛みです。動かしたときに痛むことが多く、歩き始めや、いつもより長時間歩いた後などに感じる場合もあります。
 また、いすからの立ち上がり、階段の昇り降りなど、平地を歩くより負担のかかりやすい動作で膝に痛みや引っかかりを訴える方もいます。

診断は

 まずは問診で症状を聞き取り、X線検査をおこなうのが一般的です。変形性膝関節症では、関節のすき間が狭まっていたり、軟骨の下の骨が硬くなった部分が 白く写ったり、骨の棘や骨内部の嚢包(小さな袋状の空洞)などがあるのが確認できます。
 痛みが強い場合、MRI検査(電磁波による画像診断)をおこなうことがあります。大腿骨の膝のすぐ上の部分が壊死する病気(大腿骨顆部特発性骨壊死)と区別するためです。
 関節の腫れが強い場合は軟骨石灰化症や痛風、関節リウマチなどの病気と区別するため、血液検査をおこなったり、膝関節に針を刺して関節液を調べたりすることもあります。

治療の基本は保存療法

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いすから立ち上がるときなどに痛みを感じる人も

 手術をおこなわない保存療法で様子をみるのが基本です。変形性膝関節症の多くは軽度で、日常生活上の注意や保存療法で対応できます。
 治療上、最も大切なのが、病気に対する理解です。変形性膝関節症は長期間を経て徐々に進行しますが、現時点では軟骨を若返らせるような根本的な治療法は ないため、治療の目的は「進行防止」「症状の改善(症状緩和)」にあります。この点を理解していただくことが重要です。

最も大事な運動療法

 私は病気の進行防止・症状改善の上で最も大事なこととして、患者さんに次の3つをお話ししています。
 第1に、症状が強くなる動作を一時的に避けることです。痛みが強くなる動作を短期間避け、症状を緩和することは、後述する運動療法を早期に開始するためにも重要です。
 第2に、減量などの生活改善が重要です。肥満の患者さんが食事療法、運動療法を適切におこない、減量することは、変形性膝関節症の治療においても効果的と言われています。
 第3に運動療法で、3つのなかでも最も重要だと思います。運動療法は、筋力を高めて膝を安定させます。最近の研究では軟骨の細胞の炎症を和らげたり、関 節内や周囲に炎症を抑える物質を産み出す効果があることも明らかになっています。

自宅でできるエクササイズ

 運動療法の2本柱は、膝の筋肉運動と、膝の動きを硬くしないためにおこなう可動域(動かせる範 囲)訓練です。この2つの運動を膝を温める温熱療法を併用しながら自宅で続けることが重要です。生活の中にウオーキングなどの運動を組み込むことや、衝撃 の少ないエアロビクスなども効果があります。
 関節は動かさないと正常な新陳代謝が保てなくなり、関節に栄養も行きわたらなくなります。長期間の安静はかえって症状を悪化させます。
 膝の痛みや、それまで運動習慣がなかったことで、ランニングやウオーキング、エアロビクスなどの運動に、なかなかふみこめない方もいますので、私ははじ めにおこなう運動療法として、関節に負担がかかりにくい▽筋肉運動、▽温熱療法、▽可動域訓練の3種類をすすめています。
 繰り返し通院しなくても自宅でおこなえる「ホームエクササイズ」として実行できるよう、私は患者さんにリハビリを担当する理学療法士の指導を受けていただいています。

図1 SLR運動
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図2 外転筋運動
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図3 内転筋運動
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■筋肉運動 筋肉運動は、SLR(Straight leg raising=膝伸ばし)運動・外転筋(太ももの外側の筋肉)運動・内転筋(太ももの内側の筋肉)運動の3つが有効です。
 SLR運動ではまず、あお向けになります。そして筋肉運動をしない方の膝を立てて、筋肉運動をする方の脚のかかとを床からこぶし1つ分か2つ分浮かせて5~10秒間じっとします。これを10~20回繰り返します(図1)。
 外転筋運動では、筋肉運動をしない方の脚を下側にして横向きになり、膝を曲げた状態でバランスをとります。筋肉運動をする方の上側の脚のかかとを 10cmほど浮かせて5~10秒間じっとします。これを20回繰り返します(図2)。
 内転筋運動では、あお向けになって両方の膝を軽く曲げ、太ももの間にボール(サッカーボールなど)を挟んで、5~10秒間ボールをつぶすように力を入れます。これを20回繰り返します(図3)。
 これら3種類の筋肉運動を朝、晩2回おこないます。
■温熱療法と可動域訓練 可動域訓練では、膝の前側が少しはっ たような感じがするところまで膝をゆっくり曲げ、10秒間じっとします。数秒休んで、また10秒間じっとします。これを痛みのない範囲で10回繰り返しま す。すねの前側を抱え込んで、かかとを自分のおしりに近づけるような気持ちでおこなうとよいかもしれません(1日3回)。
 次に、手で膝の前側を膝の裏側が少しはったような感じがする程度までそっと押さえて伸ばし、10秒ほどじっとします。この繰り返しをやはり痛みのない範 囲で10回繰り返します。痛みが出るところまで無理をしたり、反動をつけたりするのはおすすめできません(1日3回)。
 可動域訓練は、膝が温まった状態でおこなうと効果的です。お風呂に入って十分温まった後に(温熱療法)可動域訓練をするとよいでしょう。
 たくさん歩いた日などに膝が熱を持ったり腫れたりすることもありますが、これは膝に炎症が起きている状態です。入浴後などに厚めのタオルでくるんだ氷 枕・アイスパックなどを膝に当て30分程冷やしましょう。冷えすぎて、しびれてきたり感覚がなくなってきたら一度外して休みます。

その他の保存療法

 そのほかの保存療法を次にご紹介しますが、私はあくまでも運動療法を補うものと位置づけています。
■内服・外用剤 薬物療法として最もよく使用されるのは、非ス テロイド性の鎮痛消炎剤です。痛みを和らげるのに効果的ですが、胃腸・腎臓障害などの副作用を起こす可能性があります。60歳以上、ほかの病気の治療中、 胃潰瘍や十二指腸潰瘍を患ったことがある、ほかの病気の治療でステロイド剤や抗血小板剤を用いている方などには、非ステロイド性の鎮痛消炎剤の中でも比較 的副作用の少ないCOX─2阻害剤や、アセトアミノフェンなどを使用します。胃粘膜の保護剤を併用したり、飲み薬の代わりに非ステロイド性鎮痛消炎剤の外 用タイプ(パップ製剤や塗り薬など)を用いることも有効です。
■関節内注射 関節内注射に用いられる薬剤に、ステロイドとヒアルロン酸があります。ステロイドは痛みを短期間抑えるには非常に有効ですが、化膿性関節炎など重篤な合併症を起こす可能性があり、慎重に用いる必要があります。私は変形性膝関節症にはほとんど使っていません。
 ヒアルロン酸は週1回関節内注射にて使用し、5回程度継続して効果を判定します。その上で必要と判断された場合には2~4週に1回の注射を続けます。た だしどの程度の変形性膝関節症に対して使用すべきなのか、議論のあるところです。
■装具療法他 足の下に板を挟む外側楔状足底(挿)板などの装具療法は、以前は広くおこなわれていました。一時的に痛みが和らぐ場合もありますが、長期間その効果を持続させることは難しく、推奨できません。
 グルコサミン、コンドロイチンなどのサプリメントに変形性関節症にによる痛みや軟骨の摩耗を抑える効果があるという話もよく耳にしますが、十分な科学的 検証に基づいたものとは言えません。研究者の間でも軟骨保護作用を持った根本的治療法であるとする論文がある一方、多施設が参加した二重盲検試験()では痛みを和らげる効果は認められなかったとの報告があり、膝関節の機能やQOLへの影響も今のところ一定した見解は得られていません。

)医師・患者双方から使用する薬・サプリメントが何かわからないようにした試験

手術治療

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 保存療法の効果がない・期待できない場合は、手術治療を選ぶことが可能です。主に関節鏡視下の半月手術等、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術があります。手術法は、年齢と病気の進行度により決定します。
■関節鏡視下の半月手術等 半月板の損傷や関節内遊離体(軟骨や骨の破片が関節内を動き回る)などによる症状がある場合に、関節鏡視下で半月板を部分的に切除したり、遊離体を摘出する場合があります。
■高位脛骨骨切り術 O脚がひどく、変形が一部に限られている場合におこなうことがあります(図4)。
■人工膝関節置換術 現時点で変形性膝関節症に対する手術治療 の主体になっている方法で、関節の機能を改善させることが可能です。最近では、10cm程度以下の小さな切開で筋肉にあたえるダメージを最小限におさえた 最小侵襲人工関節手術(MIS)の技術を取り入れた、人工膝関節置換術がおこなわれています。
 写真1は人工膝関節置換術前、写真2は 同じ方の術後のX線写真です。手術前は外出も避けるほどの痛みがあり、閉じこもりがちな日々をおくられていました。手術前は膝の軟骨が摩り減り、ふともも の骨と、すねの骨がお互いに擦れ合うような状態になっています。この患者さんは、手術と術後のリハビリテーションをがんばり、現在は買い物や旅行なども楽 しめるようになって、表情も非常に明るくなられました。
 当院でも、最小侵襲人工関節手術の技術を取り入れています。80歳以上の方でも、内科・麻酔科などの整形外科以外の医師、看護師・理学療法士・薬剤師な どの協力で、安全に手術・リハビリテーションをおこなえるよう努力しています。

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【写真2】術後 【写真1】術前

おわりに

 国際的に認められた治療の指針でも、有酸素運動(呼吸しながらできる軽い運動)や太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)強化、可動域訓練・柔軟運動が推奨さ れています。筋力トレーニングは変形性膝関節症の痛みを軽くし、身体機能を改善させることが明らかになっています。患者さんがこの病気を理解し、主体的に 運動療法にとりくまれることを期待します。
 末期の状態で運動療法が奏功しない場合も、手術などで関節の働きが改善できますので、担当医とよく相談することをおすすめします。
イラスト・いわまみどり

【参考文献】黒澤尚「変形性膝関節症の治療:運動療法の有効性、機序とその方法」(『運動器疾患の予防と治療』財団法人長寿科学振興財団109~124ページ、2013年)

いつでも元気 2013.7 No.261

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