医療・福祉関係者のみなさま

2010年9月17日

【2010.09.17】子宮頸がん予防とHPV ワクチンに関する現時点での見解

2010年9月17日
全日本民医連産婦人科医療委員会

<はじめに>
 わが国では現在、年間10000人以上が新に子宮頸がんに罹患し、約3500人が死亡していると推定される(HPV ワクチン接種の普及に関するステートメント 日本産科婦人科学会他2009年)。国立がんセンターの統計によると、子宮頸がんの罹患は10 歳代後半から始まり、20 歳代で急上昇し、30歳代後半でピークに達する。このような年代での子宮頸がん発症数は、2001年には20年前の約3倍に増加し、30歳代は1980 年以降死亡率も上昇している。生殖年齢での罹患は、治療によって妊孕性を損なう点からも重大である。

<子宮頸がんとHPV(ヒトパピローマウイルス)感染>
 近年子宮頸がん発生のほとんどにHPV(ヒトパピローマウイルス)感染が関与していることがわかってきた。HPVは、性行為を通じて子宮粘膜に感染する が、女性の80%が一生の間に一度は感染すると言われるほどありふれた感染であり、多くの場合、自然にウイルスが排除される。HPVには約100種類が知 られており、そのうち、約15種類が子宮頸がんの原因になるハイリスクHPVである。これらが子宮頚部粘膜に持続的に感染すると、前がん状態(子宮頚部異 形成)となり、その一部が数年以上かけてがんになる。
 そこで、子宮頸がんを予防するには、HPV感染を防ぐ一次予防と、がん検診で早期発見し前がん状態のうちに治療する(=子宮摘出せずに治療できる)二次予防が考えられる。

<子宮頸がん検診>
 子宮頸がん検診で行われる細胞診は非常に精度が高く、最新のがん検診ガイドラインでも、「子宮頸がん検診死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、推 奨する」とされている。しかし、我が国の受診率は諸外国に比し、極端に低い。(欧米70~80%、日本23.7% OECD 調査 2007)「検診率が85%になると、子宮頸がんの発生は86%抑制される。(今野良「産婦人科の実際」Vol.59 No42010)」とされる。
 日本では、2003年から、老人保健法に基づく子宮頸がん検診は20歳以上、2年に1度となり、対象年齢が10歳引き下げられたが、未だ、若い世代の受 診が少ない。2009年度、検診無料クーポン券が配布され、若い世代の受診が増えたのは望ましいことであったが、対象年齢は5歳刻みであった。

<子宮頸がんワクチン>
 子宮頸がんのほとんどがHPV 感染に起因することから、HPV感染を予防するためにワクチンが開発された。2009年12月に日本でも販売が開始されたのは、商品名サーバリックスとい う、2価ワクチン(ハイリスクの中でも特に発がん性が高いとされる16型、18型の感染を予防するワクチン。日本では、ハイリスクHPVに占めるこの2型 の割合が諸外国に比べて低く60~70%程度とされる。ただし、若い世代での頻度は90%というデータもある。(筑波大学 小貫ら 2003))である。感染性はなく、HPV16型、18型が関与する前がん病変の発生を90%以上予防する効果があるとされている。(子宮頸がん検診ガイ ドライン)
 一方、能書には、「ワクチンの効果・効能に関連する接種上の注意」として、以下の4点が記載され
ている。

 

(1)

HPV-16型及び18型以外の癌原性HPV感染に起因する子宮頸癌及びその前駆病変の予防効果は確認されていない。

 

(2)

接種時に感染が成立しているHPV の排除及び既に生じているHPV 関連の病変の進行予防効果は期待できない。

 

(3)

本剤の接種は定期的な子宮頸癌検診の代わりとなるものではない。本剤接種に加え、子宮頸癌検診の受診やHPV への曝露、性感染症に対し注意することが重要である。

 

(4)

本剤の予防効果の持続期間は確立していない。

<産婦人科医療委員会の見解>
 そこで、子宮頸がん予防に関して、民医連として以下の見解を述べる。

 

(1)

歴史の浅いワクチンであることから当然ながら、効果の持続期間や、長期的な安全性については今後の継続的な検証が必要である。接種された人以外にも全ての国民に対して国と製薬会社が責任を持って、情報公開することが求められる。

 

(2)

上記観点から医師および医療機関は充分なインフォームドコンセントのもとに、接種を行うべきである。

 

(3)

HPV ワクチン接種の有無に関わらず、がん検診は不可欠であり、検診率が極端に低い現状では、啓蒙活動及び子宮頸がん検診の無料化を推進し、検診率を向上させる ことが同時に必要であり、特に若い世代(希望すれば10 歳代であっても)の検診を充実させることが大切である。

 

(4)

マスメディアや製薬会社の宣伝により、国民の子宮頸がんに対する関心が急速に高まっているが、一方で子宮頸がんが「性病」であるかのような誤解もうまれており、性感染症に対する正しい知識の普及など、性教育の充実が求められる。

 

(5)

HPV ワクチンは非常に高価であり、ワクチン接種を希望しても実施困難な家庭が少なくない。製薬会社にワクチンを適正価格にすることを求めると同時に、ワクチン希望者には無料で接種がうけられるような補助が必要である。

以上

(PDF版)

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