副作用モニター情報(薬・医薬品の情報)

2016年9月13日

【新連載】12.点眼剤の副作用

 ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレイン点眼液・ティアバランス点眼液・ヒアール点眼液など)、 プロスタグランジン系点眼剤/ラタノプロスト(キサラタン点眼液・ラタノプロスト点眼液など)、タフルプロスト(タプロス点眼液)、トラボプロスト(トラバタンズ点眼液)、ビマトプロスト(ルミガン点眼液)、ジクアホソルナトリウム(ジクアス点眼液)、カルテオロール塩酸塩(ミケラン点眼液)、βブロッカー点眼剤/ベタキソロール塩酸塩(ベトプティック点眼液%、ベトプティックエス懸濁性点眼液など)、チモロール マレイン酸塩(リズモンTG点眼液など)、 ドルゾラミド塩酸塩/チモロール マレイン酸塩(コソプト配合点眼液など)、ブリンゾラミド(エイゾプト懸濁性点眼液) 、レバミピド(ムコスタ点眼液) 、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム(アイドロイチン点眼液など)

写真点眼剤の変更時には注意

 点眼剤の変更による副作用がときに見られます。当副作用モニターに過去1年間で報告された点眼剤の副作用は24例あり、そのうちの約半数近くが変更によって発生しています。

 【症例1】ティアバランス点眼液からヒアール点眼液に変更後、眼痛、刺激感が生じた。

 【症例2】キサラタン点眼液からタプロス点眼液に変更後、目にしみてチクチクした。

 主成分が同じ先発品や後発品への切り替え、合剤への切り替えなどがありますが、症例2のように、室温保存可能な製剤への変更もよくあります。変更による軽微な副作用の理由の一つに、添加物(エデト酸ナトリウム・以下、EDTA)の関与が考えられます。
 点眼剤による眼の刺激は、個々の知覚状態(感受性)、浸透圧、溶液中のイオン、pH、主薬そのものや添加物などが関与すると考えられます。
○浸透圧:高張あるいは低張だと角膜損傷を起こします。塩化ナトリウムとして0.7%~1.5%、最大2.0%までが安全範囲と考えられています。
○イオン:金属イオン、それと結合する酸イオンは組織内に侵入して知覚神経末梢を刺激します。
○pH:点眼剤は涙液のpHに近いほど刺激が少なく、涙液には中和、希釈能、緩衝作用があるので、pH3.5~10.5に調整されます。
○眼の状態:ドライアイや目の炎症では刺激感が強くなり、個人差もあります。
○添加物:EDTAや塩化ベンザルコニウムには局所刺激性が知られています。
 提示した症例では、どちらも変更後の製剤がEDTAを含んでいます。報告の中には、逆にEDTAを含まない製剤への変更例もありますが、明らかにEDTAを含む製剤への変更の方が多くみられます。
 EDTAは0.34%の濃度で軽い刺激を与え、1.0%では強い刺激を与える、とする文献があります。しかし、製品のEDTAの濃度は未公開です。刺激原因の特定は難しいですが、1つの要因として注意すべきです。
 点眼剤は内服薬と異なり、「差し心地」がコンプライアンスにつながります。変更する際は軽微な副作用も注意する必要があります。

(民医連新聞 第1500号 2011年5月23日)

ジクアホソルナトリウム点眼液 3%による副作用

写真 ジクアホソルナトリウム点眼液3%(商品名;ジクアス点眼液3%)は、結膜で水分およびムチンの分泌を促進し、角膜上皮障害を改善する効果があるとして、ドライアイ治療剤として2010年12月に発売されました。
当モニターでは、発売開始以降、11例16件(眼瞼炎1件、眼痛3件、結膜充血2件、羞明2件、目脂1件、胃部不快感1件、刺激感3件、目の違和感1件、目のかゆみ1件、目のはりつき1件)の副作用報告が寄せられています。
【症例】 80代後半女性 使用開始時から点眼のたびに痛みあり。指示通り継続していたが、約7カ月後、痛みが増強し涙がボロボロ出て充血、点眼後、パチパチした感じで痛みが強くテレビも観られなくなった。光も眩しくなり、自己中止。中止後 眼痛は消失し、他の症状も1週間で回復した。

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 国内臨床試験でも、投与中止となった主な有害事象は、眼刺激、眼痛、羞明、結膜充血などでした。他のドライアイ治療剤と比較すると、本剤は刺激感や眼痛が多い傾向にあります。添付文書では、刺激感は本剤(6.7%)>レバミピド(製品名:ムコスタ)懸濁点眼液 (2.5%)>ヒアルロン酸(製品名:ヒアレイン)点眼液(0.36%)の順になっています。
 本剤は発売後に防腐剤の含有量を下げると同時に、保存剤エテド酸ナトリウム水和物(EDTA)を追加しており、刺激感の一因とも考えられます。なおEDTAはレバミピド点眼液には含まれておらず、ヒアルロン酸点眼液に関してははメーカーによって異なります。
 また本剤は、結膜上皮及び杯細胞膜上のプリン受容体に作用して、水分及び粘膜を潤すムチンの分泌を促すことでドライアイ症状を改善させます。しかし、最近プリン受容体と神経障害性疼痛との関連性を示唆する研究もあり、受容体を介した副作用発現の可能性もあります。
 報告症例は全て50歳以上の女性でした。中止後は改善しており、ヒアルロン酸点眼液のみで様子を見ている例もありました。痛みや刺激感の症状があればがまんせず、早めに相談するよう促しましょう。
 【症例】70代女性。ドライアイ治療のためにヒアレイン点眼液を使用していたが、ジクアス点眼液3%が追加処方された。その翌日から「気持ちが悪い」「喉がつかえた感じ」などの症状が出現したため、2日目からは点眼回数を減らした。しかし、5日目になってもまだ「悪心が続く」ため、自己中止。その後、悪心は回復した。 

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 点眼液による副作用は局所症状が多く、ジクアス点眼液3%も、眼刺激感(6.7%)、眼脂(4.7%)、結膜充血(3.7%)、眼痛 (2.7%)、眼掻痒感(2.4%)などの副作用の頻度が高いですが、全身症状の副作用にも注意が必要です。
 消化器系副作用については、添付文書に記載はありませんが、臨床試験(655例)で歯肉炎1例、市販直後調査で口唇炎1例、使用成績調査 (~2012.4)では悪心1例の報告が見られます。上記症例では、ムコスタ錠やタガメット錠を服用しており、原疾患に胃炎があるため、消化器系副作用を発現しやすかった可能性も考えられます。
 点眼液は涙点から涙嚢を通って鼻涙管へ排出され、一部が鼻粘膜などから吸収されます。そのため、点眼での1回投与量は非常に少ないにもかかわらず、緑内障治療薬であるβ遮断点眼薬では死亡例を含む重篤な呼吸器系障害や心血管系障害などの全身性副作用が報告されています。
 点眼液では、眼関連の副作用に注意が向きがちですが、全身性副作用を見逃すことのないよう、患者の声を拾う感性を磨きつつ副作用報告を集積することが大切です。
 同時に、目頭を軽く圧迫し鼻涙管への薬物の流出を防止する事は、薬効を高め全身性副作用を防止する効果もありますので、「点眼滴数を守る」「点眼後は静かにまぶたを閉じ1分間程目頭を軽く押さえる」等の服薬指導も必要です。

プロスタグランジン系点眼剤の特徴的な副作用に注意

プロスタグランジン系点眼剤では特徴的に『色素沈着、まつ毛の伸張や増毛、まぶたのくぼみ』等の副作用がみられます。
当モニターに報告されたものでは、色素沈着23件、まつ毛の伸張・増毛10件、まぶたのくぼみ3件でした。薬剤別ではキサラタン点眼液21件、トラダバンズ8件、ルミガン3件とキサラタンでの報告が多いですが処方件数が影響している可能性もあります。

○色素沈着
【症例】緑内障のためキサラタン点眼使用。転院に伴いトラダバンズ点眼に変更。点眼後洗顔していたが徐々に色素沈着が気になり8か月後にミケラン点眼に変更。中止7日後に症状改善

プロスタグランジン系点眼剤による色素沈着の機序は、メラニン合成の律速酵素であるチロシナーゼに遺伝子転写段階で影響を及ぼしメラニン合成の亢進を起こし色調の暗色化を来すと言われています。

○睫毛伸長・増毛
【症例】緑内障にて治療中。右目のみ眼圧上昇しキサラタン点眼追加。コントロール良好のため一時中止するも視野狭窄の進行があるとのことでルミガン点眼開始し眼圧安定。点眼後は洗顔を行っていたが、半年後右目のみ睫毛が長くなっていることを自他覚的に確認。色素沈着なし。

まつ毛伸張・増毛の機序は、リモデリングを生じさせる際に毛母細胞の分化の決定やアポトーシス抑制を導くこと、毛包発育に関与する接着分子ICAM-1の産生を亢進することが睫毛の異常に関係していると考えられています。ルミガンの場合これに加えて毛包周囲のKチャネルの開口作用があるため、血流が良くなりキサラタン以上に睫毛の発育が良くなることが示唆されています。

○まぶたのくぼみ

症例)正常眼圧緑内障にてキサラタン点眼開始。採用薬変更にてキサラタン点眼からラタノプロスト点眼へ変更。その後2~3か月で眼のくぼみ発現。目を開けるのもつらくなりラタノプロスト点眼中止。中止後徐々に改善。

プロスタグランジン系点眼薬によるまぶたのくぼみは、眼窩脂肪細胞の縮小又は萎縮ではないかと言われています。細胞のアポトーシスではなく脂肪酸燃焼によるもので、被偽薬開始3か月くらいから現れやすく中止後3か月から半年で元に戻ります。                       機序から考えると、睫毛の伸長・増毛に関してはラタノプロストよりビマプロストで出やすいのではないかとも考えられるようですが他の副作用については特にどの薬剤で出やすい等はわかっていないようです。

プロスタグランジン系点眼剤の特徴的な副作用では、瞼のくぼみに関しての予防法はないと思われますが、色素沈着と睫毛の伸長・増毛に関しては1滴の点眼に留めることや使用後のふき取り、洗顔等が予防法として挙げられています。当モニターに寄せられた症例では、予防しても発症している例もある(予防していた例5件/32件:15.6%)ことや、実際予防して防げたのかどうかのデータはないこと、また、発現後予防したのは13件で、予防によって、やや改善4件、改善なし2件、悪化1件でした。必ずしも予防できるとは限りませんが、予防法について指導しておく必要はあります。

βブロッカー点眼剤の全身的副作用に注意

・循環器、呼吸器その他全身の副作用、抑うつ症状
点眼剤では、全身的な副作用の可能性は考えにくいですが、当モニターでは点眼剤による全身性の副作用も報告されているので注意が必要です。160913_03

○βブロッカー点眼による喘息症状
βブロッカー点眼薬による喘息の当モニターへの報告は、喘息様症状1件、喘息2件、喘息発作2件でした。
【症例】 40代女性 喘息の既往あり。緑内障にてベトプティック点眼使用開始。使用後10~15分で喘息様症状発現。2回目使用時も同様の症状発現し翌日にはキサラタン点眼に処方変更となった。

当モニターへの報告例では、必ずしも喘息の既往があるわけではありませんでした。喘息の既往がある方ではとくに注意が必要ですが、そうでない場合も注意が必要となります。

○点眼剤による抑うつ症状
【症例】 50代 男性 緑内障にてキサラタン点眼使用するも色素沈着がみられリズモンTG点眼に変更。約8か月後抑うつ状態発現のためキサラタン点眼に戻す。約1か月後には抑うつ症状改善した。

点眼剤でも全身の副作用は起こる可能性があり、点眼剤だからといって初めから否定するのではなく、原因として考える必要があります。
全身症状を回避するには点眼後目頭を押さえるなどの予防が必要となります。

○点眼薬による全身硬直

【症例】 70代男性 緑内障のためコソプト点眼処方。点眼後全身硬直や動悸、胸痛、胸が苦しいなどの症状により倒れ救急受診。点眼薬の副作用である可能性は低いとのことでコソプト点眼継続。その後も点眼1~2時間後に毎回心臓の痛みや背筋のこわばりあり。1か月後にも自室で倒れ救急受診。コソプト点眼中止しエイゾプト点眼に変更。変更後症状改善。

コソプト点眼は炭酸脱水酵素阻害薬とβ受容体遮断薬の合剤であり、今回の動悸、心臓の痛みはβ受容体遮断作用によるものと考えられます。

このように点眼剤での重篤な副作用も起こり得る可能性がありますので投与のタイミング毎に症状発現するような場合には点眼剤による副作用も念頭におく必要があります。

点眼剤のその他の副作用

当モニターに報告のあった点眼剤の副作用として、ムコスタ点眼による苦味、いびき、キサラタンによる関節炎・関節腫脹、舌のしびれ、鼻痛、声枯れ・眼球が固まる感じ、デタントール点眼による、喉のヒリヒリ感、冷や汗など点眼剤が原因であると気づきにくいような副作用もありました。

○ムコスタ点眼による副作用

【症例】 60代 女性 ドライアイにてムコスタ点眼開始。10日後、点眼して3時間くらいに口の中に苦味を感じる。約1.5か月後、ムコスタ点眼使用開始後より、朝起きると苦いものが落ちてくるとの訴えあり。

この副作用は点眼剤が涙液と混ざり涙点から涙嚢を通り鼻涙管へ排出される時や、瞬きした際に起こります。点眼後しばらく目を閉じ目頭を軽く抑えることで予防できるようです。

【症例】 60代 男性 ドライアイのためアイドロイチン点眼使用していたが、ムコスタ点眼追加となり約1か月後、ムコスタ点眼開始後よりびっくりするくらいのいびきや急に鼻が詰まったような感じがあったと聞き取った。今までにいびき、鼻炎、花粉症なし。ムコスタ点眼中止しジクアス点眼へ変更。中止後すぐにいびき、鼻閉感改善。

 

点眼剤が原因であると気づきにくい副作用もありますが、最初から否定せず他の薬剤の中止等でも変化が見られないような場合には、点眼薬を疑う必要があります。

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画像提供 群馬民医連 株式会社 群馬保健企画
http://www.g-hokenkikaku.co.jp/8yakugakusei/yakugakusei.html

**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました。
 今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。

(下記、全日本民医連ホームページで過去掲載履歴ご覧になれます)
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用     
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤        
  4.睡眠剤の注意すべき副作用                 
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用            
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用 
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点      
  8.抗けいれん薬の副作用           
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用     
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用 
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用 
  以下、57まで連載予定です。

 ★医薬品副作用被害救済制度活用の手引きもご一読下さい↓
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/data/110225_01.pdf

◎民医連副作用モニター情報一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話し〕一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k01_kusuri/index.html

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