健康・病気・薬

2016年10月27日

【新連載】15.抗不整脈薬の副作用 

シベンゾリン コハク酸塩(商品名:シベノール錠など)、ジソピラミド(リスモダンなど)、メキシレチン塩酸塩(メキシチレン・メキシチールなど)

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低血糖(シベンゾリン、ジソピラミド)

 抗不整脈薬による低血糖の発現機序は膵β細胞のK(カリウム)ATPチャネルを抑制し、インスリンの分泌を促進するためと考えられています。この作用は用量に依存し、特にシベンゾリン血中濃度ピークが800ng/ml以上で低血糖が起こりやすくなると言われます。腎排泄型のため高齢者や腎障害患者では用量調整が必要です。以下、具体的な症例を紹介します。

【症例1】年齢不明の男性。シベンゾリン投与し、10日目に低血糖症状が出現。1日1~2回の低血糖が続き、投与21日目に中止。その後、症状は改善。

【症例2】慢性腎不全の70歳台、男性。ジソピラミドを3年間服用していた。肺炎で入院し、抗生剤を投与。入院2日目の血糖値が20mg/dl台であり、ブドウ糖を投与。翌日、ジソピラミドを中止した。中止翌日の血糖値(朝)50mg/dl台、(昼)120mg/dlとなり、その後は低血糖症状なし。

(民医連新聞 第1369号 2005年12月5日)

【症例1】80代後半女性。シベンゾリン300mg/日服用中に退院、在宅管理4カ月目に食欲低下がみられ、その2週間後に急な意識消失発作があり、低血糖状態で入院。入院時の血清Cr値は0.96mg/dl。血糖値の最低値は1日目が51mg/dl、2日目が42mg/dlだった。同薬を減量したが、入院3日目のシベンゾリンの血中濃度が1713ng/ml(正常トラフ値70-250又は正常ピーク値200-800)だったため中止。その後は症状改善。食欲低下はシベンゾリンの抗コリン作用の影響も考えられた。

【症例2】80代後半女性。慢性腎不全とII型糖尿病の合併症あり。シベンゾリン150mg/日を服用していた。1週間前から手足の震えがあり、その後、手や全身の脱力感が現れ入院となる。血清Cr値2.4mg/dl、BUN57mg/dlで、腎性貧血と診断された。血糖最低値は94mg/dlと正常値範囲にあり、シベンゾリン血中濃度は317ng/mlだったが継続となった。退院にむけ持参薬を自己管理していたが、体調不良で夕食が摂れなかった日のよる、手の震えがひどくなり翌朝の血糖値が35mg/dlまで低下。聞き取りからその日のシベンゾリンを重複(倍量)服用していたことが判明。同薬を中止し症状は改善した。

(民医連新聞 第1496号 2011年3月21日)

 低血糖症状は意識消失なども伴う重篤な副作用です。高齢者の場合、症状が遷延化し食欲不振などの体調変化として現れたり、腎機能の悪化によって低血糖が急激に生じることもあります。常にその危険性を念頭におき、定期的な血糖値をモニタリングする必要があります。また、抗不整脈薬の有効性には個人差があり、添付文書の通常用量に固執することを避け、リスクがある患者へは、解析ソフトを活用し、定期的な血中濃度測定をすべきです。

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過敏症症候群(メキシチレン)

【症例1】60代女性。糖尿病の既往歴なし。メキシチレン300mgを服用開始後、25日目に発疹が出現。服用を中止し皮膚科受診、抗ヒスタミン剤などが処方される。中止後9日目、全身に発疹が出現。発熱、食欲低下、茶色尿、尿閉、口腔内乾燥も伴う。12日目に再受診、プレドニゾロン10mgと塗り薬を処方される。いったん解熱したが、18日目に意識障害で救急搬入される。このとき高血糖(BS 1310)で、全身にトマトを塗ったような重度の紅斑、ウイルス抗体価の上昇も認められたことから、メキシレチンの副作用でDIHSと劇症I型糖尿病が発症したと診断された。

【症例2】40代男性。メキシレチン300mgを服用開始後62日目に、皮疹、発熱、白血球増多、黄疸、肝機能値上昇があり、薬剤性肝障害の疑いで入院。翌日、同薬を中止。中止6日目、顔面の鱗屑、全身の紅斑を認め、DIHSを疑い、プレドニゾロン30mgを開始。9日目、肝障害と紅斑は改善傾向になったが、16日目も腎障害は持続。

(民医連新聞 第1444号 2009年1月19日)

 薬剤性過敏症症候群(DIHS)は、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)と並ぶ重症型の薬疹です。通常の薬疹とは異なり、投与後2週間以上たって発症し(遅発性)、中止後も症状が進行し、多くは軽快までに1ヶ月以上を要します。発熱、全身の紅斑、リンパ節腫脹、肝臓などの多臓器の障害、血液検査値の異常、ヒトヘルペスウイルス(HHV-6)の再活性化を起こし、アレルギー反応と免疫異常の複合した症状と考えられます。メキシレチンは、その原因薬剤に比較的考えられます。SJSやTENも起こすので、投与に際し、これらの発現に注意し、異常に気づいたら直ちに服用を中止し医師や薬剤師に相談するよう指導が必要です。また、中止後も症状が増悪する場合は、入院施設のある皮膚科専門医に紹介することが必要です。

画像提供 石川民医連 ヘルスプランニング金沢 http://nanohana-pharmacy.com/

**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 

全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました。

 今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。

(下記、全日本民医連ホームページで過去掲載履歴ご覧になれます)
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用     
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤        
  4.睡眠剤の注意すべき副作用                 
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用            
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用 
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点      
  8.抗パーキンソン薬の副作用           
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用     
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用 
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用 
  以下、57まで連載予定です。

 ★医薬品副作用被害救済制度活用の手引きもご一読下さい↓
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/data/110225_01.pdf

◎民医連副作用モニター情報一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話し〕一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k01_kusuri/index.html

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