健康・病気・薬

2017年8月31日

【新連載】29.糖尿病用薬剤の副作用 その2

 糖尿病治療剤の副作用モニターまとめの2回目です。ここでは、汎用されていても、どちらかというと「脇役」に位置する2系統の薬剤をまとめました。副作用が多彩で注意が必要な薬剤だからなのか、治療における必要性が決して高くない、という認識でいたほうがよいかもしれません。

 ボグリボース(商品名ベイスン)・アカルボース(商品名グルコバイ)による腸閉塞。
 ミグリトール(商品名セイブル)による低血糖・消化器症状・腸管嚢胞性気腫症。
 ピオグリタゾン(アクトス錠)による浮腫および心不全。

αグルコシダーゼ阻害剤(α-GI)

 α-GIは、腸管内での糖鎖の分解を抑制することで急激な血糖上昇を抑えることを目的として開発されています。糖尿病だけでなく、胃切除後のダンピング症候群にも応用されています。消化酵素の働きを抑制し、消化機能に影響を与える作用機序なので、消化器系、主に腸に関連する副作用、特に放屁が発売当初から指摘されていましたが、当モニターでは、消化管障害の報告だけでなく、全身性副作用も数多く集まっています。アカルボース(商品名グルコバイなど)は合計で105件、そのうち、腹部膨満感24件、放屁18件、下痢10件、便秘・腹痛が各4件、食欲不振2件、軟便1件、そして肝機能障害14件、発疹6件、掻痒感3件と、これらだけで報告の半数以上を占めました。最も使用されているボグリボース(商品名ベイスンなど)も同じ傾向がみられ、合計394件、そのうち、腹部膨満感81件、放屁42件、下痢52件、便秘25件、腹痛12件、食欲不振6件、軟便7件、そして肝機能障害の40件、倦怠感4件、発疹8件、掻痒感9件など、という内容でした。最も新しいミグリトール(商品名セイブル)では、合計111件、そのうち、腹部膨満感は18例、放屁9件、下痢45件、便秘1件、腹痛6件、軟便2件、肝機能障害7件、倦怠感2件、発疹・掻痒感各1件、と明らかに下痢が多いのが特徴でした。
 この他に重篤な副作用も報告されています。以下、副作用モニターの記事を紹介します。

イレウスを呈した症例

 症例1)ボグリボース(商品名ベイスン)錠0.2mg2錠2回/日を服用。開始初日から腹部膨張感、1日中ガスが出る。服用5日目で服用中止するも動けないほどの腹痛、膨満感。中止3日後に受診し、腹部レントゲン撮影で、ガスの貯留が判明。浣腸、点滴、センノシドを2日間服用し改善。
 早い段階で服用中止、受診したため無事回復しましたが、次の受診予約日まで服用を続けていたら重症化していた可能性が高い症例でした。メーカーには、2005年の時点で麻痺性イレウス9件(重症5件)、閉塞性イレウス77件(重症40件)が報告されていました。
 症例2)アカルボース(商品名グルコバイ)錠100mg3錠3回/日を服用中。腹部単純レントゲンで大腸ガス貯留(+)、便秘(+)。グルコバイによる腸閉塞様症状を疑い服用中止。グルコバイからインスリンに変更。大腸カメラ、注腸造影検査では異常なし。絶食・輸液で回復。中止後5日目に流動食、7日後に普通食にもどった。服用期間は約10年だった。
 メーカーには、麻痺性、閉塞性を合わせたイレウスが48件報告されていました。

 両薬剤ともに服用開始半年以内に発症することが多いですが、服用直後そして1年以上の経過での発症も報告されており、約10年という長期服用中に発症したケースもあります。服用期間中は常に注意が必要で、強い腹部膨満感、便秘が続くなど、消化器症状の異常があればすぐ受診するよう説明することが重要です。

(民医連新聞 第1354号 2005年4月18日)

ミグリトール(商品名セイブル)による低血糖・消化器症状

 ミグリトールは、日本で3番目に承認された食後過血糖改善剤です。臨床試験の段階でも他のα-GIに比べ、下痢、腹部膨満が多く見られました。市販直後調査でも同様の傾向が認められたほか、他の糖尿病薬と併用で血糖値が30mg/dl以下になった重篤な低血糖が2件と腸閉塞1件が報告されています。2008年度の当副作用モニターには、低血糖の疑い1件、下痢6件、腹部膨満、胃部不快、吐き気が各1件、の報告がありました。そのうち、低血糖の疑いと下痢の症例について紹介します。

 症例1)80歳代女性。HbA1c7.5%。グリベンクラミド2.5mg錠併用。ボグリボース0.3mg錠からセイブル50mg錠に変更し、1回目の服用で冷や汗、悪寒が生じ、低血糖を疑いブドウ糖を服用。翌朝、症状は回復した。以後はボグリボース錠に戻した。
 症例2)70歳代女性。午前7時にセイブル50mg錠を初回服用した。8時ごろから下痢が3回あり、18時にも水様便があったため、夕食直前分の服用を中止した。その後は回復した。

 下痢については、今回報告のあった6件中5件が24時間以内に発現し、中止後は速やかに回復しています。また、副作用の発現は用量依存的で、報告例の多くが70歳以上でした。高齢者には1回25mgの低用量から開始するなど、慎重な投与と経過観察が必要です。
 なお、本剤は2008年12月からインスリン製剤との併用が認められました。併用時の国内臨床試験では、2型糖尿病で血糖値60mg/dl以下の低血糖が35.5%に発現、1型糖尿病で86%というデータもあります。本剤は半量が小腸上部から吸収され、メリットはわかりませんが、血糖抑制効果が食後約1時間でピークを迎えるなど、他のα-GIと異なる動態を示します。低血糖が発現したら直ちにブドウ糖を服用するよう患者に徹底し、その用意を確認することが必要です。

(民医連新聞 第1455号 2009年7月6日)

ミグリトールによる腸管嚢胞性気腫症

 症例)90歳代女性、糖尿病、合併症は高血圧、認知症、多発性筋炎など。多発性筋炎に対してステロイドが処方されており、インスリンで血糖コントロールしていたが、内服薬としてミグリトールのほか、ビルダグリプチン、ピオグリタゾンを投与開始。服用開始98日目、腹部膨満あり。CTで腸管壁、腸間膜、腹腔に多量のガスが認められた。ミグリトールの副作用を疑い、服薬を中止し入院。絶食管理となる。中止後9日目、症状軽快し食事再開した。

 腸管嚢胞性気腫症は、消化管の粘膜下漿膜下に多房性または直線状の含気性嚢胞を形成する比較的まれな疾患です。しかし近年、α-GI投与患者で発症報告が散見されます。
 山本らの研究※によれば、「α-GIは腸管で二糖類から単糖への分解を担うα-グルコシダーゼを選択的に阻害し、糖質の消化管吸収を遅らせることで食後の過血糖を抑制するが、腸内細菌の働きで腸管内に残った糖質が発酵し、ガスが発生するため、副作用として腹部膨満、鼓腸などが起こる可能性がある。そうして過剰に発生したガスが、糖尿病性神経障害により蠕動障害がある腸管の内圧を高めてしまい、腸管嚢胞性気腫症が発症する」とされています。
 同文献では本邦報告36例のうち8例(22%)にステロイド内服歴がありました。ステロイド投与で腸管粘膜が脆弱になり透過性が亢進するため、さらに腸管嚢胞性気腫症を発症しやすくなる可能性が指摘されています。当モニターの症例もステロイドの服用歴がありました。
 α-GIの投与例の腸管気腫症は、多くは中止による保存的治療で軽快し、予後は良好と報告されています。しかし、消化管穿孔や腸管壊死など重篤な合併症の可能性もあります。疑われる症例があれば直ちに投与を中止し、慎重に経過観察することが必要です。

 引用文献:山本ら「α-グルコシダーゼ阻害剤による腸管気腫症の一例」京都医大誌 123(4)、2014

(民医連新聞 第1615号 2016年3月7日)

チアゾリジン系薬剤
ピオグリタゾン(商品名アクトス)、トログリタゾン(商品名ノスカール)、ロシグリタゾン(商品名アバンディア)

 ピオグリタゾン(商品名アクトス)をはじめとするチアゾリジン系薬剤は、脂肪細胞PPARγ受容体に作用し、インスリン抵抗性を改善させる薬剤として鳴り物入りで登場しました。しかし、この系統の薬剤は発売早々から有害な副作用が問題視され、最初に承認されたトログリタゾン(商品名ノスカール)は、米国では1997年に販売開始されたものの2000年に販売中止、日本では米国より一足早い1995年に承認されましたが、副作用を理由に販売開始は1997年にずれ込み、加えて、2000年には米国に歩調を合わせて販売中止になりました。ロシグリタゾン(商品名アバンディア)は米国の市民監視団体パブリックシチズンの運動により医療現場で使用頻度が激減、日本では承認されないまま現在に至っています。日本で唯一使用されているのがピオグリタゾンですが、これも使われ始めてから膀胱癌をはじめとする重篤な有害作用があることがわかり、次第に積極的に使われる薬剤ではなくなりました。
 当副作用モニターに寄せられた報告を見ても重篤な症例がいくつか見られます。集計すると、合計534件、そのうち、浮腫が309件と圧倒的多数を占めました。次に多かったのが体重増加の41件(浮腫との重複を含む)、以下、動悸19件、心不全8件、眼瞼浮腫7件、呼吸苦5件、息切れ4件、顔面浮腫4件、胸水2件と、水分貯留が背景にあると考えられる副作用が目立ちました。ついで、消化器関連と考えられる症状では倦怠感8件、肝機能障害と腹部膨満感が各6件、悪心、吐き気、嘔吐が各4件、過敏症関連では発疹8件、かゆみ4件、血糖関連では食欲亢進4件、低血糖6件(2件は症状のみ)、その他では頭痛7件、ふらつき5件、眠気、しびれ各3件、眩暈2件、筋肉痛4件、CPK上昇3件など、でした。気になるところでは、関節痛関連は2件、膀胱癌は1件でした。
 トログリタゾンの報告がなかったのは、民医連の院所ではほとんど使われることなく販売停止になったからと推測しています。では、副作用モニターで紹介された症例を見ていきましょう。

ピオグリタゾン錠による浮腫・心不全

 インスリン抵抗性改善薬ピオグリタゾン(アクトス錠)は2000年10月に緊急安全性情報が出されており、心不全の患者および心不全の既往歴のある患者には禁忌となっています。また、重大な副作用として心不全の増悪および発症があります。
 2001年下期、新薬で最も多かった副作用報告はインスリン抵抗性改善薬のアクトスによる浮腫でした。アクトスは緊急安全性情報が出されて以来、対象患者を絞り、かなり注意して使用されてきたのですが、最近になって新たに採用する事業所もあり使用が増えつつあります。あらためて注意を喚起したい薬剤です。
 浮腫は女性に起こりやすいのが特徴で、発現時期は80%が4週目以降にみられ、部位は下肢、顔面に多く見られます。今期も14例中12例が女性で、不明5例を除くすべてが4週目以降に発現したものでした。また、用量に比例して起こりやすくなるので、15mg/日以下より開始するのが望ましいでしょう。糖尿病性合併症がある場合には合併症を併発していない例に比べ浮腫の発現が高い傾向にあるので、より注意が必要です。
 類似薬トログリダゾンにて劇症肝炎の報告があるので、白目・皮膚が黄色くなる、吐き気、食欲不振、全身倦怠感、持続する発熱などの初期症状の確認と定期的な肝機能検査も必要です。

(2001年下半期新薬のまとめより)

 2005年度の1年間に当モニターに寄せられたアクトス錠によると思われる副作用は、合計15件でした。浮腫が12件、他に動悸、顔のほてり、消化器症状が各1件でした。
 本剤による浮腫は以前より報告されていますが、処方の増加に伴い、副作用発現症例も増加としていると思われます。あらためて注意が必要です。浮腫は高齢の女性に多く発現しており、投与中止、減量、休薬、ループ利尿剤の投与で全例軽快・消失しています。また増量時に浮腫が発現した例が多く、用量依存的と考えられます。添付文書によると浮腫は7.6%にみられ、男性では3.9%、女性では11.2%と、やはり女性に多く発現しています。
 浮腫の発現するしくみは、本剤がインスリン作用を増強し、腎尿細管でナトリウムの再吸収を亢進させ、循環血漿量を増加させる、と考えられています。この循環血漿量の増加は、心臓にも影響をおよぼす可能性があります。つまるところ、心不全が増悪または発症する恐れがあり、心不全および心不全の既往歴のある患者は禁忌となっています。
投与中は、顔や手足の浮腫、急に体重が増える、動悸、息切れ、などの症状に注意し、定期的なチェックが必要です。特に心疾患がある患者、高齢者、女性、糖尿病の合併症がある患者は、1日1回15mg以下の量から投与を開始するなど、経過を十分に観察しながら慎重に投与してください。

(民医連新聞 第1379号 2006年5月1日)

 心臓への影響が、糖尿病によるものなのか薬剤性なのか判断に迷うのであれば、真っ先に中止すべき薬剤のひとつといえるでしょう。併用薬をチェックし、利尿剤を併用しているようなケースではピオグリタゾンによる副作用が出ているかもしれない、という視点で処方の見直しをしてみるのもよいかもしれません。

■画像提供 神奈川民医連 一般社団法人メディホープかながわ
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**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
 
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>
  30.糖尿病用薬剤の副作用 その3           
  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用    
  32. ATP注の注意すべき副作用        
  33. 抗癌剤の副作用              
  34. 医薬品によるアナフィラキシー

以下、60まで連載予定です。

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