MIN-IRENトピックス

2018年10月31日

けんこう教室 
胸が痛いんです!

北海道 道東勤医協釧路協立病院 石川 晶

北海道
道東勤医協釧路協立病院
石川 晶

 これまで胸の痛み(以下、胸痛)を一度も感じたことがない方はいらっしゃいますか? みなさんはきっと、大なり小なりの胸痛を感じたことがあるのではないかと思います。今回、みなさんに少しでも役に立つお話ができれば、私の胸のつかえ(これも胸痛というのか?!)も和らぐと期待しております。

胸ってどこ?

 みなさんが想像する「むね」とはどこを指しているのでしょうか? 「胸はどこですか?」と聞くと、大抵はホッと胸をなでおろした時に手が行く所を指す方が多いです。
 一方、医療現場ではみなさんがさまざまな病気で「胸が痛い」と訴えることに気づかされます。胸痛を訴えて受診し、「どこが痛いのか詳しく教えてください」と聞くと、乳房が痛いとおっしゃる方がいれば、心臓や肺とおっしゃる方もいるからです。

胸痛を起こしうる体の部位

 胸痛として考えられる体の部位を列挙してみましょう。皮膚、乳房、筋肉、骨、消化管、胆のう、肝臓、横隔膜、膵臓、肺、胸膜、血管、心臓、精神……。
 ご覧になって、どう思いましたか? 「こんなにあるの?!」とビックリしませんか? ここに挙げた体の部位から生じる病気は、重症度も緊急度もさまざまです。
 医療現場ではみなさんのお話を伺い、診察や必要な検査をして、原因を突き詰めていきます。当然のことですが、原因となりうる体の部位は多彩なので、ほぼ全身を隅々まで診なければなりません。

胸痛から考えられる病気の例

 胸痛の症状から考えられる病気の例をにまとめました。
 重症な胸痛の原因として最も多いのは心筋梗塞です。ただ、胸痛イコール心筋梗塞ではありません。医師が胸痛を診察するときは、考え得る最も重いものから順番に可能性を探っていきます。
 この胸痛は速やかに入院して精密検査が必要な、急性の致命的になりうる状態か?→急性心筋梗塞、肺塞栓症、大動脈解離、気胸
 もし1でなければ、この胸痛は重症な病状の悪化を引き起こす、慢性的な病気によるものかどうか?→安定狭心症、大動脈弁狭窄症、肺高血圧症
 もし2でもなければ、この胸痛は特殊な治療を必要とする急性の病気によるものかどうか?→肺炎、胸膜炎、心膜炎、帯状疱疹
 もし3でもなければ、この胸痛は治療可能な、慢性の病気かどうか?→食道逆流症、食道けいれん、消化性潰瘍、胆のうの病気、他の消化器の病気、頚椎椎間板の病気、肩または首の関節炎、肋軟骨炎、他の筋骨格系の障害、不安状態

心筋梗塞と狭心症

 普段感じたことのない胸痛を感じた場合、自宅では重症度や緊急度が分からないと思いますので、すぐに医療機関を受診してください。特に、急に発生した胸痛、どんどん悪化する胸痛、血圧が下がる胸痛などは緊急を要する場合があります。
 特に危ない胸痛の例として、心筋梗塞と狭心症について特徴をまとめました。
 心筋梗塞とは、心臓に酸素と栄養を送る血流がほとんど止まってしまい、心臓を構成する筋肉の一部が死滅するほど悪化した状態を言います。狭心症はその手前の状態で、心臓が一時的に酸欠になって起こります。狭心症の症状を下記にまとめました。

胸の痛みを感じた時にみなさんが注意を払うこと

 胸痛の原因は幅広いので、みなさんの話を伺ってある程度原因を特定しなければ、検査が膨大になり、無駄な検査も増えてしまいます。よって、みなさんの「証言=症状の説明」が医療者にとっては大変重要な手掛かりになるのです。
 そこで、胸痛を感じたら症状をメモし、伝えられる範囲で医師や看護師に説明することが大切です。以下に症状の観察ポイントを紹介します。これらは医師からよく質問される項目です。
●症状はいつからで、どのくらい続いているのか?
●症状の始まりは突然だったのか?(何をしていた時に症状が起きたかがハッキリ分かっていたり、症状が起きた時間を特定できたりした場合は、「突然起きた症状」であることが多い)
●痛みの強さは、今まで経験した最悪の痛みを10としたらどの程度か?
●症状には良くなったり悪くなったりの波があるか?
●痛みの場所はどこか? また、痛みの場所は時間が経つごとに移動したか?
●症状は何をすると良く/悪くなるのか?

日頃の生活で気をつけること

 ところで、みなさんは自分の体のことをどの程度ご存知ですか? 日頃から自分の体をいたわり大切にしていますか?
 健康は空気のようなもので、体調を崩して初めて健康のありがたさを実感する方も多いのではないかと思います。「ありがたい」の対義語は当たり前です。当たり前だと思っていることは、実は「ありがたいこと」を日々紡いで、奇跡の上に成り立っていると考えることもできます。
 この記事をご覧になって、自分の健康のありがたみを実感されたなら、せっかくの機会ですから、自分の体をいたわってあげてください。その一つの方法として、健康診断はいかがでしょうか? 自分の体に無理をかけていないか、ひそかに体調を崩していないかをぜひ確認してみましょう。
 大事なことは、実際に胸痛を起こして近くの医療機関を受診するのではなく、体調を崩さぬように日頃から体調管理を行うことです。そして、この記事で紹介した病気が杞憂で済むように、自分らしい人生を歩めたら素敵なことです。
 一方で、普段から胸痛を伴う病気をお持ちの方は、普段と違う症状が出てきた場合には注意が必要です。胸痛を引き起こす病気は多いので、普段かかっている病気で説明できない症状が出たら、原因を見直す必要があります。
 健康診断の結果にホッと胸をなでおろすことができるよう、普段から食事や運動など生活習慣に気をつけて過ごせるといいですね。


息抜きに一句

 地域の医療懇談会で「健康かるた」を作りました。道東勤医協友の会のみなさんと有志の職員が読み札、北海道教育大学釧路校の学生有志が絵札を作製。壮大なコラボ作品です。


■参考文献
●『ハリソン内科学』(デニス L.カスパーほか編、メディカル・サイエンス・インターナショナル)
●『聞く技術(下)』(ローレンス・ティアニー/マーク・ヘンダーソン著、日経BP社)

いつでも元気 2018.11 No.325

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ