くすりの話

2020年9月30日

くすりの話 
新薬の開発の新型コロナ

執筆/中村 建(千葉・船橋二和病院・薬剤師)
監修/高田 満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)

 読者のみなさんから寄せられた薬の質問に、薬剤師がお答えします。
 今回は新薬の開発と新型コロナについてです。

 新薬の開発には莫大な費用と、通常約10年以上という長い時間がかかります。
 まず基礎研究で、病気の治療に効果がありそうな物質(成分)を発見したり、それを創り出すための研究をします。次にその成分の有効性や安全性を調べるため、試験管内での実験や動物を用いた非臨床試験を行います。さらに、健康な成人や患者に対して用法・用量・効果・副作用などを確認しながら投与する臨床試験(治験)に進みます。
 こういった試験を行った上で、製薬会社は厚労省に新薬の製造販売承認を申請します。新薬の公定価格が「薬価基準」(薬の価格の一覧表)に収載され、医療保険が適用されます。

「特例承認」された薬

 新型コロナに効く新薬の開発が待たれるなか、5月初旬に抗ウイルス薬「レムデシビル」が厚労省に「特例承認」されました。特例承認とは、(1)疾病のまん延防止のために緊急に使用が必要、(2)ほかに適切な方法がないこと、(3)海外で販売が認められていることを理由に、手続きを簡略化して最短期間での審査・承認が可能になることです。
 問題を含む制度と言われていますが、今回は国民からの反対はほとんどありませんでした。今後、副作用の情報などに目を光らせておく必要があります。
 同じく新型コロナの治療薬として大きな期待を寄せられた抗ウイルス薬「アビガン」は、安倍首相が5月中の承認を公言していました。ところが、臨床試験で新型コロナに対する有効性が確認されず、重大な副作用の可能性も指摘されました。多くの新型コロナの患者さんに使われているものの、現在は保険適用外です。

新薬の開発は急務

 新型コロナに対する新薬の開発をめぐって、激しい国際競争が展開されています。確かに多くの人々の生命を救うために、新薬の開発は急務です。ただ感染症を世界的に封じ込めるためには、最貧国を含む世界全体に新薬の恩恵を届ける必要があり、“自国第一”ではなく国際協調の姿勢が求められます。
 かつて冷戦下にあった米国とソ連は、協調して天然痘やポリオ撲滅に取り組みました。民医連も参加した日本でのポリオ生ワクチン獲得運動を覚えている方も多いでしょう。1961年、ソ連から緊急輸入された生ワクチンが、日本でのポリオ撲滅につながりました。このような国際協調や社会運動の歴史に思いを馳せながら、新薬開発の推移を見守りたいと思います。

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話〕一覧

いつでも元気 2020.10 No.347

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