いつでも元気

2006年12月1日

特集2 腸閉塞ってどんな病気? おう吐、腹痛、排便・排ガス停止… 我慢せず、早めに病院へ 青森・健生病院外科科長 鈴木隆太

図1 消化器の全体図
genki182_03_01
図2 イレウスによる腹部の膨満

genki182_03_02
大腸の中程度の膨隆
genki182_03_03
階段状の腹部膨隆

腸閉塞(イレウス)は、何らかの原因で、腸の中で食べ物や消化液など内容物の流れが止まってしまう状態です。外来ではよくぶつかる急性疾患のひとつです。
 正常な腸では、内容物が肛門に向かって、一方通行で流れています。大量に分泌される消化液は、下流に進むなかで再吸収され、最終的に最小限の不要物のみが排泄されるようにできています(図1)。
 ところが腸管が閉塞する(ふさがる)と消化途中の食べ物だけでなく、消化液も再吸収されずに貯まってしまい、腸がふくれてきます。そのため、腹痛、おう 吐、便が出ない、ガス(おなら)が出ない、お腹がはるなどの症状が出ます。
 おう吐は、閉塞した部位により程度が異なり、上部の閉塞ほど気持ち悪さや吐き気が強い傾向があります。おう吐物は、閉塞個所が下流に向かうにつれ、胃液、胆汁、食物の残りかす、便汁と変化していきます。
 また、腸管に消化液が貯まったまま再吸収されないため、脱水と電解質異常(ナトリウムや塩素、カリウムなどのバランスが崩れる)が現われます。重篤にな るとショック状態や意識障害を起こすこともあります。

原因で分けると

 原因は多岐にわたりますが、大きく分けて、腸管が変形して閉塞した機械的イレウスと、腸の動きの異常による機能的イレウスがあります。
 うち機械的イレウスは、イレウス全体の約9割を占め、腸管の血行障害があるかないかで、単純性と複雑性に分けられます。

単純性イレウス
 ―手術後の癒着が一番多い

 単純性イレウスは腸管の閉塞のみで、血行障害はないものをいいます。最もよくある 原因は、腹膜炎や腹部の手術後に起きる癒着(腸と腹腔壁や、腸同士がくっつく)がもとで、腸管が曲がったりふさがったりするものです。近年は、進行大腸が んによる大腸イレウスが増加傾向にあります。まれですが、寄生虫や胆石など外からの異物が、閉塞の原因となることもあります。
 症状は、消化管の運動にともなう周期的・間欠的な激しい痛みです。痛みは徐々に強まっていき、腹部が膨張するにつれて、聴診器を当てるとキンキンと響く 金属音をともなうようになります。小腸上部での閉塞のほうが小腸下部での閉塞より痛み方がやや強い傾向があります。

複雑性イレウス
 ―緊急手術が必要に

 複雑性イレウスは、腸管が癒着したり、索状物(癒着でできるヒモ)で締めつけられたりねじれたり、腸管に栄養を送る血管がつまったり(腸間膜動脈血栓症)して、血行障害を起こしているイレウスで、緊急手術が必要です。
 血液が腸に十分送られないため、腸が壊死して穴があいたり、敗血症(血液が細菌に感染して全身に損害を与える)や、多臓器不全になったりする原因になります。
 複雑性イレウスの腹痛は急激に始まりどんどん増強します。腹部の膨満は目立たず、腸管全体がまひします。ねじれて締めつけられた部分が硬いこぶのように なり、押すと痛み、触診でわかることがあります。壊死が進むと、おなか全体に腹膜炎が起こり、危険な状態に陥ります。

機能的イレウス
 ―まひやけいれんが原因

 機能的イレウスは、一部あるいは広範囲に、腸管がまひまたはけいれんを起こし、内容物の流れが止まってしまった状態です。
 まひ性イレウスは腹膜炎や、血液中の電解質異常、各種中毒症などがもとで起きます。
 けいれん性イレウスは、局部的な炎症や結石発作による腸管への刺激などがもとで起きます。腸管をコントロールする自律神経のはたらきの異常が原因になることもあります。

手術か否か迅速に判断

 複雑性イレウスは、緊急手術を要します。
 単純性イレウスでも腸管の拡張が強いときや、全身状態への影響があり、手術でなければ改善が見込めない場合、速やかに手術することが必要です。
 ただし腸閉塞状態にあることは比較的容易に判断できますが、手術が必要かそうでないのかの判断は、必ずしも容易ではありません。問診や全身状態の判断を もとに、いくつかの検査をおこない、総合的に治療方針を決めます。治療時期を逸すると生命の危険があるため、迅速で慎重な判断が要求されます。
 全身状態の判断のために、血液検査をします。炎症の強さ、脱水の程度、電解質異常、臓器障害の有無などを判断します。
 画像診断には単純X線写真、超音波検査、CT検査、小腸造影、注腸検査、内視鏡検査、血管造影、MRIなどがあります。
 内視鏡検査も、大腸イレウスでは必要なことが多い検査です。
 判断上、必要な検査を、体に負担の少ない順におこなっていきます。

genki182_03_04
癒着によるイレウスの腹部CT画像。上部の黒く見える部分が貯留ガス。中央が拡張した腸管(小腸)

■単純X線検査

 最もよくおこなわれる検査で、腸閉塞の状態をとら えるのに最も適しています。通常では出現しない異常ガス像、消化液とガスで形成される鏡面像(液体とガスの境目が直線になって写る)や、拡張した腸管像を 確認します。ガスの貯留が少ない状態では写真に所見が現れないことがあります。
 解像度は低い検査なので、原因疾患が直接画像で見えることはありません。ガス像から間接的に原因を推測します。

■超音波検査

 超音波を使って、腸管内の液体貯留、腸管の拡張、腹水の存在などを観察します。腹 部の身体所見が同時に判断できる利点があります。腫瘍性病変やヘルニア(脱腸)のかんとん状態(はまりこんで抜けない状態)などが観察できる場合もありま す。超音波の性質上、貯まっているガスが多いと、観察が困難となります。

■CT検査

 腹部の断面を撮影するX線撮影検査で、画像も鮮明なため、腹腔内の状態、原因、閉 塞個所部位を客観的に検討できます。造影剤を用いると血行状態もわかるため、複雑性イレウスの診断に有効です。ただし腸管内部の腫瘍や、そもそも体積のほ とんどない癒着部分やねじれなどの診断には限界があります。

■小腸造影

 鼻から入れたチューブを通じて、あるいは口から飲んで小腸に造影剤を入れ、撮影するX線検査で、腸管の通過状態、拡張状態、運動状態を確認できる検査です。治療中、治療後の経過観察として実施します。腸の機能をみる上で重要な検査です。

■注腸検査

 大腸のイレウスのとき、閉塞個所や原因の特定のために、肛門から造影剤を注入して おこなう検査です。機械的イレウスか、機能的イレウスかの判断に役立ちます。病変部の腸管全体を観察するのに役立つ検査です。閉塞のため内視鏡が通りにく くなっている場合でも、その奥の腸管がどうなっているのか情報が得られることがあります。

■内視鏡検査

 大腸のイレウスのとき、診断や腸内の圧力を減らす目的でおこなわれます。病変を直接カメラで観察でき、腸管内部の組織を取って、精密検査をすることもできます。

■血管造影

 造影剤を血管内に注入して血液の流れを見る検査で、腸間膜動脈血栓症を疑うときに おこないます。診断確定すること、血栓を溶かして治療することが目的です。ただし血栓症では、受診時すでに腸管壊死、腹膜炎を起こしていることも多く、 ちょうどよい条件下で検査できる例は少ないと思われます。

■MRI

 電磁波を使って人体の断面を自由に撮影できる検査です。腸閉塞では、腸管全体の運 動状態を動画で見ることができるようになりました。しかし撮影、画像処理に時間がかかることと、体内に金属(ペースメーカー、義歯、整形外科手術用の固定 金具など)がある場合は撮影できないなど撮影時の制約事項が多いことから、緊急時には適さない検査です。

図3
genki182_03_05
図4
genki182_03_06
図5
genki182_03_07

治療の基本は絶食と点滴

  先に述べたように、イレウスでは腸管に消化液が貯まって必要な再吸収が起こらないため、基本的に脱水と電解質異常が起こります。口から水分や食事を補給す るのは、病態を悪化させるだけで改善につながりません。絶食と点滴による水分・電解質の補給が必要となるため、通常は入院治療をおこないます。
 原因により治療は異なります。

単純性イレウス
 ―まずチューブで減圧

 単純性イレウスの8割は手術をおこなわない保存的治療で治ります。
 絶食、点滴治療だけで治ることもありますが、通常は腸管の減圧のためのチューブを鼻から通します。
 胃管と呼ばれる短い管(図3)と、イレウス管と呼ばれる十二指腸を越えた先に留置する長い管(図4)があります。深部に留置するイレウス管のほうが挿入 に苦痛をともないますが、閉塞の改善にはより効果的です。大腸の減圧には肛門から挿入する減圧チューブを用います(図5)。
 腸管に貯まった消化液は、腸管の壁の浮腫(むくみ)を増強し、より腸管内が狭まって流れが悪くなるという悪循環を起こします。また内容物が腸壁を通り抜 け血液中に入って細菌の増殖と拡散を起こすことがあり、こうなると減圧治療とともに、抗生剤投与が必要となることもあります。
 減圧により腸管の腫れがとれると、閉塞状態が改善されてきます。

■改善に時間かかれば手術

 こうした方法で治療できるのは1週間程度です。チューブによる治療が長期間に及ぶ と、のどや鼻の痛みにつながり、栄養管理も必要になります。点滴だけで体内の水分や電解質のバランスを補正し続けるのはむずかしいうえ、改善に時間がかか る場合は再発しやすいことから、手術で原因を取り除く必要が生じてきます。
 手術後の癒着は、程度の差こそあれ必ず生じます。単純性イレウスは癒着が原因のことが多いのですが、手術で癒着部分をはがしても再度癒着は生じます。中には繰り返し手術を受けざるを得ない人もいます。
 手術は優れた解決手段ですが一律に実施できるものではなく、十分な状況判断が必要です。手術では癒着をはがしたり、腸を切除したり、腸と腸をつなぐバイ パス術をおこなうなど、単独か、組み合わせて実施します。

複雑性イレウス
 ―腸管切除が必要なことも

 複雑性イレウスは、前述のように腸管の血行障害をともない急速に病状が重篤になるため、緊急手術が必要です。腸のねじれ、過度の締めつけ、血管の閉塞など、原因に応じて手術法を選択します。
 腸管切除が必要なことの多いイレウスです。

機能的イレウス
 ―基本的には保存治療で

 機能的イレウスは基本的に保存治療の対象ですが、腹膜炎など重篤な疾患により起きたものは、原因除去のため手術が必要です。慢性的に腸管の機能が低下したイレウスの場合、腸切除が必要なこともあります。

一般的な予防法なく

 腸閉塞には多様な原因があるため一般的な予防法はありませんが、腹部の手術を受け たことがある人は、単純性イレウスを起こさないよう、消化のよい食事をとる、下剤を使って便通を調整する、整腸効果があるとされる漢方薬(大建中湯)を内 服するなど、医師と相談してください。
 しかし、これらの工夫をおこない、十分気をつけていても、起こるときには起きます。過度に神経質にならず生活することも必要です。
 元になる疾患により治療後の経過は異なります。全国集計によれば、腸閉塞での死亡率は6・7%です。うち癒着イレウスの死亡率は1・4%、がん性腹膜炎、腸間膜動脈閉塞症のイレウスは40%台でした。
 急速に重篤化するイレウスもあるため、時期を逸せずに治療に入ることが何よりも大事です。排便・排ガスの停止をともなう腹部膨満や腹痛、おう吐が気になるときは、我慢せず、早めに受診しましょう。

いつでも元気 2006.12 No.182

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ