声明・見解

2022年2月15日

【要請書2022.02.15】「看護職員等における処遇改善」についての要請書

2022年2月15日

内閣総理大臣 岸田 文雄 様
厚生労働大臣 後藤 茂之 様

全日本民主医療機関連合会
会長      増田 剛

 2021年11月19日に閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」に基づき、2022年度診療報酬改定において、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、10月以降収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための処遇改善の仕組みが創設された。また、2月から前倒しで、賃上げ効果が継続される取り組みを前提とし、収入を月額4,000円引き上げる措置(看護職員等処遇改善事業)が実施された。医療従事者の処遇の低さを政府が認め、その改善に取り組み始めたことは、重要なことである。しかし、今回の「看護職員等における処遇改善」は、岸田政権が掲げる分配戦略の柱とされたものであるが、場当たり的な対応の側面が非常に強く、医療現場に新たな分断と対立、そして混乱をもたらすものとなっている。
 当会は、対象が一部に限定されている「看護職員等における処遇改善」の制度改善を求めるとともに、看護師の大幅増員を実現するための財政補償を、政府の責任で実施することを求める。

【要請事項】

1. 対象となる医療機関を、すべての医療機関とすること

 対象となる医療機関は、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関であること(救急医療管理加算を算定する救急搬送件数200台/年以上の医療機関及び三次救急を担う医療機関)と定められており、それ以外の医療機関は対象外となっている。しかし、救急搬送件数が200件以上ある医療機関や三次救急を担う医療機関だけが、新型コロナウイルス感染症への対応を行っているわけではない。入院することができないコロナ患者の在宅での対応は訪問看護が担う等、地域の医療機関が協力しあい、必要な医療を面として提供することで、新型コロナウイルス感染症に対応している。対象となる医療機関を、すべての医療機関とすることを要請する。
 また、病院や診療所など複数の事業所を経営している法人では、法人内の同一職種であっても処遇が改善される職員と処遇改善の対象外となる職員が生まれ、働く事業所によって給与が異なり、賃金体系が分かれることとなる。このことは、職員の団結上の問題や法人内異動など混乱を招くとともに、労働組合・職員との合意形成にも多大な労力を費やすこととなる。少なくとも、同一法人内においては、対象となる医療機関以外で働く「賃金改善の対象となる職種」についても、処遇改善の収入を充てることができる対象とすることを強く求める。

2. 看護職員等の処遇改善の安定的実施及び看護師の大幅増員が可能な財政的支援や診療報酬の引き上げ(再改定)を行うこと

 医療機関の経営は、この間の医療費抑制政策による診療報酬引き下げにより厳しさを増し、コロナ以前から約半数の医療機関が赤字という状況である。日本病院会等が実施した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2021年度上半期)」においても、「コロナ禍以前の一昨年との比較では赤字病院の比率は大幅に上昇し、病院の経営状況は改善傾向にあるものの、まだ大幅な赤字基調が継続しており、厳しい状況が続いている」と分析がなされている。
 令和4年4月分以降の「看護職員等処遇改善事業」は、賃上げ効果の継続に資するよう、補助額の2/3以上を基本給又は毎月支払われる手当による賃金改善に使用し、賃金規定改正にも触れられている。しかし、多くの医療機関が、コロナ以前から厳しい経営状況であり、コロナ禍においてさらに厳しさが増していること、さらに政府の支援がいつまで続くかわからない中で、賃金規定を改定し賃上げを行うことは、今後の経営を逼迫させる可能性があると言わざるを得ない。
 また、病院の体制の脆弱さや看護師不足は、看護師が働き続けられるための労働条件改善、とりわけ人員増による体制補強なしには改善されない。今、コロナ禍の中で、従来からの少ない人的体制によりギリギリの看護を強いられている。さらに、2022年度診療報酬改定においても、新興感染症に備える医療提供体制構築の議論や構想が示されないまま、重症度、看護・医療必要度項目の厳格化が行われ、看護体制の後退を迫られる病院が少なくない。今回の改定は、コロナ禍での病院の実態を無視した改定となっており診療報酬の再改定を強く求める。必要な医療を提供するためには、余裕のある体制確保が必須であり、そのためには看護師の大幅増員及びそれを支える財政的援助や診療報酬の大幅引き上げが必要である。

3. 医療機関で働くすべての職種を処遇改善の対象とするとともに、そのために必要な財源補償を行うこと

 今回の施策において賃金改善の対象となる職種は看護職員(看護師・准看護師・保健師・助産師)以外にも医療機関の判断により、看護補助者や理学療法士・作業療法士等のコメディカルの賃金に充てることが可能とされているが、実際に対象とする職種や賃上げ額などの配分は事業所任せとなっている。同時に「医師・歯科医師・薬剤師や医療サービスを患者に直接提供していない事務職員」は対象外であり、職種により処遇改善の違いが生じる。
 支給対象を看護職員のみに限定すれば、看護職員と他の職種との分断につながり、対象を広げた場合、2月から実施の「看護職員等処遇改善事業補助金」の総額は、看護職員常勤換算1人あたり月額4,000円の賃金引上げに相当する額しか支給されないため、看護職員の引上げ額が減少し、一人当たりの処遇改善額は少なくなる。
 医療機関で働くすべての職種を処遇改善の対象とするとともに、そのために必要な財源補償を求める。

以上

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