くすりの話

2022年8月31日

くすりの話 
医薬品の承認制度

執筆/高田 満雄(東京・協立医師協同組合・薬剤師)
監修/金田 早苗(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)

 読者のみなさんから寄せられた薬の質問に薬剤師がお答えします。
 今回はコロナ禍で改めて注目された医薬品の承認制度についてです。

 日本の医薬品は薬機法(旧薬事法)※1などに基づいて審査・承認されますが、承認されるまでにいくつかのプロセスがあります。
 まず医薬品の候補となる物質について、動物実験を行って臓器毒性や胎児毒性などを確認します。次に少数の健康な成人に投与して、吸収や代謝、排泄などを見ます(第I相試験)。さらに少数の対象疾患患者に投与して、有効性や安全性を調べ(第II相試験)、のちに多数の患者に投与して、総合的な有効性や安全性を確認します(第III相試験)。
 第II相試験と第III相試験は、「二重盲検試験」※2と「ランダム化比較試験」※3を行います。疾患にもよりますが、第III相試験は約200人~1000人に対して半年から数年程度の期間がかかります。

◇特例承認制度

 新型コロナワクチンについて、「特例承認制度」が用いられたのは記憶に新しいでしょう。感染症などの健康被害の拡大を防ぐため、医療技術が日本と同程度の欧州や米国で使用されている医薬品について、日本での第III相試験を行わずに承認する制度です。2010年の新型インフルエンザ感染拡大時、欧州からワクチンを緊急輸入する際に創設されました。
 今回のコロナワクチンについては、有効性や安全性に人種による差があるとして、念のため日本での追加治験が行われました。これによってワクチン接種の開始が海外より数カ月遅れ、一部から批判の声があがりました。
 ただ、私は当時の海外との感染状況の違いを考えれば、厚労省が慎重に検討したことは正しかったと思います。

◇緊急承認制度

 今年5月に薬機法が改正され、「緊急承認制度」が創設されました。第II相試験相当の臨床試験で安全性が確保され、有効性が“推定”されれば、緊急に承認できるというものです。ただし、承認後2年間のうちにその有効性を証明する臨床試験データを示す必要があります。
 早速この制度を使って、国産初の新型コロナ治療剤としてゾコーバ(塩野義製薬)の承認審議が行われています。ゾコーバについて、第II相試験で体内のウイルス量を減らす効果は認められたものの、症状改善効果を達成できなかったことが報道されています。
 新型コロナの経口薬としては、すでに特例承認されたラゲブリオとパキロビッドパックが使用されています。国産初の治療剤への期待はありますが、慎重な審議を求めたいと思います。

※1 正式名は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」
※2 どの被験者にどの薬が投与されているか、被験者だけでなく医療スタッフにも知らせずに行う試験
※3 被験者を複数のグループに分ける際、無作為に割りふることで、さまざまな因子の偏りをなくして効果を公平に比較する試験

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話〕一覧

いつでも元気 2022.9 No.370

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