健康・病気・薬

2016年10月26日

【新連載】14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用

ハーフジゴキシンの高齢者への過量事例

 ジゴキシン(商品名 ハーフジゴキシンなど)は、強心剤です。ジゴキシンの高齢者への過量投与による副作用の事例を紹介します。

【症例1】70代女性、3年前からジゴキシン0.125mg/日服用(血清クレアチニン値=sCr 2.0)。受診は数ヶ月に1回程度にとどまり、血中濃度測定もできていなかった。めまいで受診(sCr 3.56)。食事もあまりとれていなかった。いったん帰宅。約30日後、めまい継続、食事もできておらず受診。脈拍63、sCr 4.95、本人が持参したことでジゴキシン服用中であると発覚、血中濃度2.73ng/ml。ジギタリス中毒の可能性があると判断し中止。中止3日後、脈拍68、sCr 4.38、血中濃度1.64ng/ml。中止5日後、食事もほぼ全量摂取、めまい、吐き気の症状もほぼ改善傾向、脈拍70-90台で推移。中止10日後、sCr 4.31、血中濃度0.72ng/ml(注記 当該患者さんは他の施設で管理されておりもともとCKD指摘されていたためsCrが高値となっています)。

【症例2】80代女性。2年前より発作性上室性頻拍(脈拍113)で、ジゴキシン0.125mg/日開始。来院の1週間前から、ふらつき、息切れ、疲労感あり、食欲はあった。このときの脈拍56、sCr 0.89。約1ヶ月後の受診で、倦怠感、食欲低下を訴えジゴキシン中止、sCr 0.8、血中濃度2.29ng/ml。中止約30日後、脈拍85前後、倦怠感、ふらつき、下肢浮腫は続いていたが、食欲は出てきており、息苦しさもなく経過。

写真【症例3】90代女性。内服開始時期不明だが、ジゴキシン0.125mg/日服用継続。食事摂取は不良、来院前から下痢があった。嘔吐し、血圧測定できなかったため救急来院、BP70/40、脈拍42、脱水、腎障害もあり、sCr 2.07、ジギタリス中毒と推測し中止。血中濃度5.14ng/ml。中止4日後、脈拍60台、sCr 1.0。中止約14日後、sCr 0.74、血中濃度0.3ng/ml以下。

 有効治療濃度域は0.8~2.0ng/mlとされています。一般的に治療域は高く設定されており、心不全治療時では、0.5~0.8ng/ml、心房細動治療時では、1.2ng/ml未満が推奨されています。血中濃度は死亡リスクに相関し、0.9ng/mlを超えると死亡率も増えるとの報告もあります。ジゴキシンは腎排泄型で半減期が36~48時間と長いため、特に高齢者への投与には注意が必要です。食事量や水分摂取の低下などによる脱水状態に注意を払うとともに、腎機能を低下させる薬剤との併用の有無も確認しましょう。

(民医連新聞 第1594号 2015年4月20日)

在宅患者のジゴギシン中毒に注意

 在宅医療がすすむなか、往診で管理する患者が増えています。これらの患者は比較的検査が行われにくい状況のため、ジゴキシンなどモニタリングが必要な薬剤をコントロールするには特に慎重になる必要があります。

 過去に脱水を伴うジゴキシン中毒を来した症例を示します。

【症例1】90代男性。ジゴキシン内服用量0.83mg、精神的に食欲低下し、脱水傾向に陥る。ジゴキシン濃度2.23ng/mLまで上昇。輸液にて改善。

【症例2】70代女性。ジゴキシン内服用量0.125mg、徐脈症状の発現あり、脱水傾向BUN53.1、ジゴキシン濃度4.38ng/mLまで上昇。中止にて回復。

【症例3】90代男性。ジゴキシン内服用量0.125mg、心室性期外収縮発現あり、ジゴキシン濃度3.25ng/mLまで上昇。中止にて回復。

【症例4】70代女性。ジゴキシン内服用量0.0625mg、食欲低下が2~3日継続、脱水、肺炎にて入院。ジゴキシン濃度5.52ng/mLまで上昇。中止にて回復。

 在宅管理されていた患者が発熱を契機に脱水をおこし、体内循環量が減少し、血液濃縮が起こりました。結果的にジゴキシンの血中濃度が上昇し、不整脈などの中毒症状が発現しました。

 寝たきりの患者では、水分摂取の自己管理ができずに、感染症を契機に発熱から脱水になりやすい傾向があります。そのため、ジゴキシン中毒のリスクが高いといえます。発熱症状はとりわけ注意が必要です。

 介護施設入所者や在宅管理されている心不全患者について、26%の患者に潜在的なジギタリス中毒の可能性があるという報告もあります。ジギタリス中毒の症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢、めまい、不整脈等)と血中濃度の確認・投与量の調整、継続投与の是非など、添付文書に記載されている『ジギタリス中毒が現れやすいため、少量から投与を開始し、血中濃度を監視するなど、観察を十分に行い、慎重に投与すること』を徹底しましょう。今後も、居宅療養者が増えてくることも考えると薬剤師として関わる上では、服薬管理だけではなく、しっかりとしたモニタリングを行ない医師との連携を深めていく必要があります。

画像提供 石川民医連 ヘルスプランニング金沢http://nanohana-pharmacy.com/

**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 

全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました。

 今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。

(下記、全日本民医連ホームページで過去掲載履歴ご覧になれます)
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用     
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤        
  4.睡眠剤の注意すべき副作用                 
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用            
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用 
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点      
  8.抗けいれん薬の副作用           
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用     
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕
  15.抗不整脈薬の副作用 
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用 
  以下、57まで連載予定です。

 ★医薬品副作用被害救済制度活用の手引きもご一読下さい↓
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/data/110225_01.pdf

◎民医連副作用モニター情報一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話し〕一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k01_kusuri/index.html

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