くすりの話

2018年6月29日

くすりの話 
薬の値段

回答/高田満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)

 厚生労働省は、保険診療に使う医薬品の公定価格(薬価)を2年に1度見直します。今年4月の改定によって、「薬は変わらないのに薬局の窓口で支払う値段が変わった」という方もいるかもしれません。今回は薬の値段の仕組みを解説します。

●オプジーボを契機に

 今回の改定の準備の論議では、オプジーボというがん治療薬が注目を集めました。オプジーボは患者が比較的少ない皮膚がん限定で2014年に保険適用されました(当時は100mgあたり約73万円)。その後、患者が数万人規模の肺がんに対象を拡大し、売上が50倍に。1人あたり年間3500万円もの費用が保険財政を圧迫しているとして、「皆保険制度の存続の危機」と社会的な問題になりました。緊急の措置として昨年2月に薬価が半額に、さらに今年4月の改定では約28万円へとトータルで60%以上も引き下げられたのです。
 オプジーボは、そもそも保険適用された時点で皮膚がん以外への臨床試験が進められており、「適用拡大を見越して薬価を設定すべきだったのでは」という指摘もあります。いずれにせよオプジーボの高い薬価を契機に世間の注目が集まり、厚労省は「薬価制度の抜本改革」に着手しました。

●「抜本改革」の中味とは

 「抜本改革」の最大の焦点は、高い薬価を維持するのに役立っている「新薬創出等加算」の見直しでした。新薬創出等加算とは「製薬会社が新薬開発の費用を回収しやすいように」と称して、一定期間薬価を下げずにすむ制度です。今回の改定で加算の対象を823品目から560品目へ減らしたものの、国内外の製薬団体の反発を受けて、厚労省の当初案からは後退して制度を温存しました。
 この他、後発品(ジェネリック医薬品)の登場から10年が経過した先発品は段階的に薬価を引き下げる制度や、薬価の決定に費用対効果を考慮する制度などが盛り込まれました。薬価が下がりすぎて製薬会社で採算がとれなくなった一部の医薬品を再算定して、薬価が上がる仕組みもあります。
 また、実勢価格をタイムリーに薬価に反映するため、薬価改定を2020年から毎年行うことも決まりました。

●必要とするすべての患者に

 今回の改定は「抜本改革」にはほど遠いものの、高すぎる薬価が見直される方向性については歓迎したいと思います。しかし、製薬企業の儲けを保障する新薬創出等加算の温存など、まだまだ不十分と言わざるをえません。
 抗がん剤や抗体製剤、新薬の窓口負担が高額なために、受診を控えたり薬を間引いたりする方が増えています。安全性、有効性、経済性に優れた医薬品が、必要とするすべての患者に届くように、さらなる改革が必要です。いっしょに声をあげていきましょう。

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話〕一覧

いつでも元気 2018.7 No.321

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