副作用モニター情報(薬・医薬品の情報)

2016年11月16日

【新連載】16.降圧剤(血圧を下げるお薬)の副作用の注意点

 カンデサルタン シレキセチル(ブロプレス錠など)、ロサルタン カリウム(ニューロタンなど)、テルミサルタン(ミカルディス錠など)、カルベジロール(アーチスト錠など)、アムロジピンベシル酸塩(ノルバスク錠など)、スピロノラクトン(アルダクトンA錠など)、バルサルタン(ディオバン錠など)、フロセミド(ラシックス錠など)、インダパミド(ナトリックス錠など)、ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジド(フルイトラン錠など)、ニフェジピン(アダラート錠など)、カプトリル、エナラプリル(レニベース錠など)、アラセプリル(セタプリル錠など)

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 降圧剤関連でこれまでに民医連新聞に掲載された副作用モニター注意喚起事例は、カンデサルタンによる意識消失を伴う眠気(04年8月)、ロサルタンの高カリウム血症(06年7月)、テルミサルタンの薬物性肝障害(08年5月)、カルベジロールによる喘息(08年9月)、アムロジピンの歯肉肥厚(09年10月)、配合降圧剤による副作用(09年3月と12年9月)、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬ACE-I)と利尿剤およびNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の3剤併用による薬物性腎障害リスク(13年6月)などがあります。
 降圧剤は長期に服用する薬剤ですのでそれぞれの薬理作用に基づく軽微な副作用報告が大部分をしめますが、合併症や腎機能などの患者側の条件や併用薬の影響などによっては重篤な副作用となる場合もあるので注意が必要です。

1、利尿剤およびARB製剤(アンジオテンシン受容体拮抗薬)よる電解質異常に注意
 過去5年間によせられた副作用モニターで、重篤度がグレード3として報告された症例は43件ありましたが、電解質異常の報告が多く認められました。
 高カリウム血症が13件(スピロノラクトン9件、バルサルタンなどARB製剤が4件)、低カリウム血症が5件(フロセミド1件、インダパミド2件、ヒドロクロロチアジドとARBの配合剤2件)あり、またトリクロルメチアジド(フルイトラン)によるADH分泌過剰症(SIADH)に伴う低ナトリウム血症が2件ありました。
 利尿剤やARB製剤およびその配合剤を長期に使用中の患者については、定期的に電解質のチェックを行い重篤化させない注意が必要です。

 過去の警鐘事例では、グレードは1~2の症例ですが、ARB製剤のロサルタンによる高カリウム血症について取り上げました。服用期間はすべて2年以上でした。
 〔症例1〕80代女性。高血圧以外に甲状腺機能低下症、糖尿病あり。K(カリウム)値5.5mEq/Lとなり、被疑薬を減量し、K値は4.4 mEq/Lと正常になる。
 〔症例2〕70代女性。高血圧以外に頻脈性不整脈、糖尿病、糖尿病性腎症あり。K値5.3 mEq/Lとなった時点でカルシウム拮抗剤に変更後、K値は4.3 mEq/Lと正常になる。
 〔症例3〕70代女性。高血圧以外にうっ血性心不全、糖尿病あり。K値は、5.4~4.7 mEq/Lを推移しており、腎機能も低下していたため被疑薬を中止。その後、K値は4.3 mEq/Lと正常になる。

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 アンジオテンシンII(A-II)は、生体内のA-II受容体と結合することにより血圧を上昇させ、副腎皮質ではアルドステロン産生作用をもちます。ARB製剤が高カリウム血症を起こす作用機序はA-IIの作用を阻害し、副腎皮質でアルドステロンを分泌抑制し、腎からカリウム排泄を抑制するためです。
 高K血症出現時には、すでに体内の総K量は増加していると考えられるので本剤を中止、減量することが必要です。高K血症に注意が必要な人は、腎機能低下、糖尿病、高K血症を起こすほかの薬剤を併用中の患者、および高齢者です。また、外来患者では食事からカリウムの過剰摂取も起きることがあるので、食事内容に注意する必要があります。(民医連新聞2006年7月より)

2、Ca(カルシウム)拮抗剤による浮腫と歯肉肥厚に注意
 アムロジピンやニフェジピンなどCa拮抗剤の副作用として、浮腫(下腿浮腫など)と歯肉肥厚の症例が多数よせられています。薬理作用に基づく副作用といえますがそれと気がつかずに見逃されている場合もあり注意が必要です。

1)浮腫(下腿浮腫)について
 Ca拮抗薬による浮腫は局所性であることが多く、足の甲やくるぶし等がむくむ下腿浮腫のほか、まぶたや手指などに生じることもあります。薬の量が多いほど、服用期間が長いほど、確率は高くなります。
 発現機序としては、Ca拮抗薬の末梢動脈における血管拡張作用が静脈での作用に比べて強いため、細動脈の拡張に細静脈の拡張が伴わず、細静脈が拡張する事なく細動脈が拡張し、毛細管内圧が上昇するためと考えられています。
 Ca拮抗剤による浮腫には利尿剤は効果がなく、L型だけでなくN型Caチャネルにも作用するシルニジピンなどへの変更や、ACE阻害薬やARBとの併用などが効果的との報告があります。

2)歯肉肥厚について
 歯茎がはれる、口の中が痛い、食事がしにくいは薬のせいかもしれません。
【症例1】60代女性、高血圧でアムロジン2.5mgを開始。約1年後、歯肉炎が気になりだし、歯が何本も抜けた。年齢のせいと思い歯科を受診したが治らず、副作用かはっきりしないままアムロジンを中止、レニベーゼ(ACE阻害剤)に変更した。その後約4カ月で歯肉炎が治り、副作用だったことがわかった。
【症例2】以前よりアムロジン2.5mg服用(開始時期不明)。同薬を5mgに増量した1カ月後、歯肉が腫脹しはじめ、その3カ月後に歯肉が増加。同薬を中止し歯科に通院、2カ月かけて歯肉を少しずつ切除。その後歯肉肥厚はない。

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 副作用の発症機序は不明ですが、細胞内へのカルシウム流入が減少するため、歯肉の線維芽細胞でコラーゲンの分解が抑制され、歯肉肥大が起こる、また末梢動脈と静脈の拡張がアンバランスになり、うっ血や浮腫が発現し、ブラッシングなどの刺激で炎症が起こるためと考えられています。
 アムロジピンのメーカーの市販後調査では、ほてりが0.8%、めまい、ふらつきが0.7%、頭痛、頭重感0.6%ですが、歯肉肥厚は0.1%以下しかありません。その理由は、歯肉肥厚が長期服用後に起こるため、患者や医師も副作用と気づきにくく中止しても回復までに時間がかかるため報告されにくいことが考えられます。
 副作用のグレードは局所的なので1(軽症)とされていますが、ほっておくと上記症例のように歯が抜けたり、外科的切除術が必要となるほど重症化するため、患者のQOLに大きな影響を及ぼします。
 もともと歯肉炎のある人や糖尿病を合併する人で発生頻度が高くなり、歯垢の除去やブラッシングなど口腔衛生を保つことである程度予防できるとも言われていますが、患者からの訴えだけでなく、医師、歯科医師、看護、リハビリ、栄養、薬局が協力して早期に発見していくことが大切です。(民医連新聞2009年10月より)

3、RA(レニン-アンジオテンシン)系降圧剤による副作用
写真1)ACE阻害剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)による咳、ARB製剤にも注意
 副作用モニターに今も多く報告される副作用の一つにACE阻害剤による咳の副作用があります。歴史的には、1986年にカプトリルによる咳の副作用5件を集約し、メーカーから「添付文書記載はあるが日本ではめずらしい」といわれた時期から、民医連として独自の患者背景の全国調査や学会発表もおこなってきた副作用です。
 今日ではその発生機序や対処法が確立され、この作用を利用して誤嚥性肺炎の予防に投与される場合もある副作用です。服用継続や夕食後投与に変更することにより軽快する場合もあり直ちに中止すべき副作用とはいえませんが、ARB製剤に変更となる例が多いようです。しかし、ARB製剤も咳の副作用が全くないわけではなく、過去5年間のモニター報告のなかで11件の症例が報告されており、頻度はすくないものの注意は必要です。

2)ACE阻害薬・ARB製剤による血管浮腫・咽頭浮腫
 ACE 阻害薬やARB製剤で注意すべき副作用として血管浮腫・咽頭浮腫があります。重篤副作用疾患別対応マニュアルによれば、「じんま疹を伴わない。頭頸部、特に口唇、舌、口腔、咽喉頭に生じることが多い。初発症状として口唇、口腔内の違和感や腫脹として出現することがある。咽頭や喉頭に腫脹が出現することが他の薬剤性血管性浮腫よりも多く、気道閉塞のため挿管や気道切開を必要とした症例や死亡例も報告されている。内服を継続しているにもかかわらず間歇的に出没することがある。通常、発症は投与開始後約1 週間以内に発症するが(約60%)、なかには内服6 年後に発症した例も報告されている。」
 「発生頻度はアンジオテンシン変換酵素阻害薬内服患者の0.1~0.5%である。発症機序として、アンジオテンシン変換酵素阻害薬はキニン分解酵素であるキニナーゼを阻害するため、血中ブラジキニンが上昇する。ブラジキニンは血管拡張や血管透過性の亢進を引き起こし、血管性浮腫が発症すると考えられている。」とされています。
 副作用モニターの過去5年間のグレード3の副作用報告のなかで、エナラプリル105日間服用後ロサルタンへ変更12日目に咽頭浮腫が発現した症例と、アラセプリルを10年以上服用して舌の肥大が発現し血管浮腫と診断された症例が報告されています。

4、医療用配合剤の副作用の注意点
 医療用配合剤の規制緩和により、降圧剤分野ではARB製剤を含む医療用配合剤が2006年12月のプレミネントを皮切りに続々と発売され、今日では降圧剤市場で一定の割合を占めるようになりました。
 全日本民医連薬剤委員会では、2011年1月に「循環器領域・糖尿病領域など用量調節が常に求められている薬剤の配合剤は国民の利益になるか~採用にあたっての民医連としての留意点~」を発表し、安全性の観点から民医連としての留意点をまとめて問題提起をおこないましたが、モニター報告にみられた副作用では次の点に注意が必要です。

1)配合成分ヒドロクロロチアジドによる光線過敏症に注意
 利尿剤成分のヒドロクロロチアジドによるものと思われる光線過敏症の報告がふえています。サイアザイド系利尿剤の副作用に光線過敏症があります。利尿剤単独では、光線過敏症のリスクがより低いトリクロルメチアジドが主流でしたが、ARBとの配合剤ではほとんどの製剤が単剤では使用されることの少なくなったヒドロクロロチアジドを配合成分としているため、それに起因する光線過敏症等の副作用が増加したものと考えられます。(民医連新聞 2009年3月より)

2)配合剤へ変更後の副作用発現に注意
症例1)「エックスフォージ配合剤による発疹・浮腫」 
 70代女性 アムロジピン5mg、バルサルタン40mgにて血圧上昇の為、バルサルタン増量のエックスフォージ配合剤に変更し60日分処方。4日後、顔に発疹・浮腫発現。2か月間何度か服用し、同一の症状を繰り返す。もとのアムロジピン5mg、バルサルタン40mgに戻し症状改善し血圧も安定。
症例2)「ユニシア配合錠による非新・掻痒感」 
 50代男性 カンデサルタン8mgとアムロジピン5mg服用中。血圧が高いためにユニシア配合錠HDにアムロジピン2.5mgを追加。1カ月後、手に皮疹が出現、痒みをともなった。カンデサルタン8mgとアムロジピン7.5mgに戻し症状改善。

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 症例1)と症例2)は、いずれも同一成分単剤から配合剤に変更し副作用が発現。いずれもアレルギー症状でしたが、もとの単剤に戻して症状が改善しています。
 症例1)のように浮腫については、バルサルタン増量による副作用の発現の可能性もあり、配合剤に変更する場合は、同一成分用量で問題がないかを確認することが必要です。また添加物等の違いもあるため、再度新たな副作用の発現がないかにも注意が必要です。(民医連新聞 2012年9月より)

5、ARB(ACE阻害剤)、利尿剤、NSAIDsの3剤併用での急性腎不全に注意
 本シリーズ6「非ステロイド性鎮痛消炎剤 (NSAIDs)の注意すべき副作用」でも注意喚起しましたが、ARB(ACE阻害剤)、利尿剤、NSAIDsの3剤併用で腎障害のリスクが増大することに注意が必要です。

症例 60代男性 糖尿病・高血圧で通院中の患者。左上下肢の脱力としびれ、歩行困難あり脳梗塞疑いで精査・リハビリ目的で入院。MRIで脳梗塞は否定されMRAで右椎骨動脈遠位部閉塞の可能性ありと診断された。入院中の服用薬は、アムロジピン、オルメテック、ラシックス、バイアスピリン、ランソプラゾール、ヒューマログ、ランタスなど。入院20日後ころ右上腕の疼痛のためロキソプロフェンが頓用で処方され、その後全身疼痛もあり1日1~2回程度毎日服用。NSAIDs服用後4日目くらいから食事摂取量の低下(0割~4割程度)がみられた。その後持参薬のオルメテックがなくなり採用薬のブロプレスに切り替えたが、切り替え後4日目(ロキソプロフェン服用後約2週間目)の採血でK値:7.9mEq/L、血清Cr値:2.00mg/dL、BUN:61.1mg/dLと、高カリウム血症と急性腎不全がみとめられブロプレスが中止となった。中止後約1カ月で回復。

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 この症例はARBのみを被疑薬として報告されましたが、オルメテックやブロプレス(ARB)とラシックス(利尿剤)併用中の患者に、ロキソプロフェン(NSAIDs)が投与されたことが引き金となり急性腎不全を発症した典型例と考えられます。下痢や脱水などの軽いストレスが加わることにより誘発されやすくなるとの報告もあり、2剤併用患者にNSAIDsを投与する場合とくに使用開始30日間は十分な注意が必要です。

6、β遮断剤カルベジロールによる高度徐脈と喘息に注意
 β遮断薬では、徐脈と喘息の副作用に注意が必要です。過去5年間のグレード3の副作用症例43件のなかに、カルベジロールによる高度徐脈の症例が4件と、喘息悪化が1件ありました。喘息悪化の症例は喘息の既往歴(禁忌)を見逃して発現した例でしたが、既往歴がなくとも喘息様症状が発現する場合もあるので注意が必要です。

[症例] 80代女性、喘息の既往歴なし。ニューロタン50mg錠0.5錠をアーチスト2.5mg錠1錠に変更後約1カ月経過して咳が出現。その後、喘息様症状が出たため本剤を中止。中止後は速やかに回復した。(併用薬:ワーファリン、ジゴシン、ラシックス、アカルディなど)

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 カルベジロール(アーチスト)は 2002年、日本ではβ遮断薬として初めて、虚血性心疾患または拡張型心筋症による慢性心不全に対する適応が認められ、使用可能範囲が拡大しました。α1遮断作用による血管拡張作用と不全心筋への抗酸化作用を併せ持つ、非選択的なβ遮断薬です。(α:β遮断効力比=1:8,β1:β2遮断効力比=7:1)β2遮断作用は比較的弱いものの、気管支平滑筋のβ2受容体に作用し、気管支の収縮を起こすおそれがあり(非臨床試験モルモットで確認)、「気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者」には投与禁忌となっています。
 また、本剤の特徴として、経口投与後の肝初回通過効果が大きく、絶対的生物学的利用率が健康成人男性で19%と低いことがあげられます。従って肝機能障害のある患者では、初回通過効果が減弱し、生物学的利用率が上昇し(肝硬変患者では83%、分布容量は2.8倍)、副作用症状が発現しやすくなると考えられます。そのため減量の必要性があります。
(民医連新聞 2008年9月より)

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■画像提供 広島民医連 (株)ピーエムシー企画
 http://www.pmc-kikaku.jp/about/index.html

 薬学生の部屋

**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました。
 今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。

(下記、全日本民医連ホームページで過去掲載履歴ご覧になれます)
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点

 <【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用 

以下、60まで連載予定です。

 ★医薬品副作用被害救済制度活用の手引きもご一読下さい↓
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/data/110225_01.pdf

◎民医連副作用モニター情報一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話し〕一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k01_kusuri/index.html

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