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2016年4月6日

【新連載】6.非ステロイド性鎮痛消炎剤 (NSAIDs)の注意すべき副作用

一般名ジクロフェナクナトリウム(商品名 ボルタレン、ジクロフェナック坐薬など)、ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニンなど)、アセトアミノフェン(カロナールなど)、アスピリン(バイアスピリンなど)、ケトプロフェン(モーラスなど)、セレコキシブ(セレコックスなど)

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非ステロイド性鎮痛消炎剤(以下、NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drug)による腎機能障害と高カリウム血症

 一般名ジクロフェナクナトリウム(商品名 ボルタレンなど)をはじめNSAIDsによる腎障害の発生機序のひとつとして、プロスタグランジン(PG)合成の抑制が考えられています。PG合成が抑制されると、腎血流量が減少し、ナトリウムの再吸収や抗利尿ホルモン作用が亢進することなどによって、ナトリウムおよび水分が貯留します。その結果、尿量が少なくなり、顔や手足が浮腫むなどの症状や、それに伴う体重増加がみられます。また、NSAIDs投与により、レニン、アルドステロンの分泌が抑制され高カリウム血症をきたす場合もあります。
 過去3年間で民医連副作用モニターに報告のあったNSAIDsによる腎障害の重篤度2、3のものは7件。うち、カリウム上昇を伴うもの4件。被偽薬の内訳は、一般名ロキソプロフェンナトリウム(商品名 ロキソニンなど)6件、ジクロフェナクナトリウム2件でロキソプロフェンはいずれも180mg分3で投与されており、ジクロフェナクナトリウムでは75mg分3  1件、屯用1件となっています。高齢者への投与は6件、50代の1件では身長170cm 体重43.6kgとかなりの痩せ形で服用翌日にクレアチニン(Cr)0.86→1.48と急上昇しています。発現期間は1~2ヶ月以内で、ロキソプロフェンは翌日~1週間以内が4件、2ヶ月以内が1件でロキソプロフェンでは早期に発現する事が多いですが、ジクロフェナクナトリウムでは服用後少し経過したのちに発現しています。

症例1)80代女性 体重42kg 心不全あり 整形外科にてロキソプロフェン180mg分3で処方。服用翌日より浮腫、心不全悪化あり。

症例2)80代男性 心不全、腎不全あり クレアチニン(Cr)2.5前後 ジクロフェナクナトリウム75mg分3服用。服用約3週間後Cr3.54 カリウム(K)5.9 ジクロフェナク中止、アーガメイト(急性および慢性腎不全に伴う高カリウム血症治療薬)にてCr2.5 K4.7に改善

 民医連副作用モニターへの報告例では、高齢、低体重、腎不全や心不全のある患者に初回から通常量投与され、腎不全、カリウム上昇を来している例が多くみられました。これらの患者へ投与する際は少量から開始し、痛みや腎機能をみながら用量調節していくことが必要です。また、脱水も腎機能悪化の引き金になりやすいので注意が必要で、特に夏や下痢など脱水を起こしやすい場合には水分摂取の指導なども必要となります。

NSAIDsと利尿剤、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗剤)・ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害剤の併用による腎障害に注意
 カナダのJewish General HospitalのFrancesco Lapi氏らによるコホート内症例対照研究:ネステッドケースコントロール研究(Nested Case-Control Study)の結果、降圧薬であるARBまたはACE阻害剤、利尿剤およびNSAIDsの3剤併用療法は、急性腎不全のリスクを増大することが報告されました。『2剤併用療法では急性腎不全のリスク増加と関連しておらず、一方で、3剤併用療法は、急性腎不全の発生率増加と関連しており(発生率比1.31,95%信頼区間1.12~1.53)、併用療法開始から30 日以内のリスクが最大(1.82,1.35~2.46)でした。降圧薬は心血管系にベネフィット(効能)をもたらすがNSAIDsを同時併用する場合は十分に注意が必要である』としています。過去3年間に当モニターに寄せられた、NSAIDsによる腎障害の報告では、利尿剤の併用は2例〔うち1例は一般名スピロノラクトン(商品名 アルダクトンなど)〕、ACE阻害剤1例、なし3例、不明1例で、3剤併用例はありませんでしたが、今後も引き続き注意が必要です。
 ALLHAT(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)試験〔冠動脈心疾患(CHD)のリスク因子を有する高血圧患者において,Ca拮抗剤、ACE阻害剤による降圧療法が利尿薬による治療よりもCHDあるいは心血管疾患(CVD)を抑制するかを検討した試験〕以降、利尿剤が見直され、高血圧ガイドラインなどでもレニン・アンジオテンシン系降圧剤と利尿剤の併用が推奨されています。最近ではARBと利尿剤の配合剤も多用されるようになり、これら3剤を併用する患者や、常時2剤を併用しており3剤目(通常NSAIDs)が追加される患者も増えていると思われます。豪州ADRAC(Adverse Drug Reactions Advisory Committee:医薬品副作用諮問委員会)では、「ARB・ACE阻害剤、利尿剤およびNSAIDs(COX-2阻害剤を含む)の組み合わせをできる限り避け、高齢者や腎機能障害のある患者についてARB・ACE阻害剤とNSAIDsを使用する場合は細心の注意を払うべき」としています。

一般名アセトアミノフェン(商品名 カロナールなど)による肝障害に注意
 2011年1月より、鎮痛で使用する場合の、アセトアミノフェンの高用量使用が可能となりました。150~250mg/kg以上のアセトアミノフェンの経口投与では肝細胞壊死が起こる可能性があり、500mg/kg以上では高確率で発生すると言われています。とくに、アルコール常用者、栄養状態の悪化、肝代謝酵素であるCYP(チトクロームP)2E1誘導薬との併用でリスクは高まるので注意が必要です。このように、アセトアミノフェンの高用量使用では肝障害に注意が必要であり、定期的な肝機能検査が推奨され、アセトアミノフェンを含む薬剤との併用を避けるよう警告として追記されました。高用量使用例も増えてきており、また、アセトアミノフェン配合剤であるトラムセット(一般名アセトアミノフェンとトラマドール塩酸塩の2剤配合薬)との併用によって気づかないうちにアセトアミノフェンが高用量で使用される機会も多くなってきています。

 過去3年間に民医連副作用モニターに寄せられた、アセトアミノフェンによる肝機能障害の報告は5件。1200~1500mg/dayを定期服用している例や、200~400mgを屯服している例でも発現しており、年齢は60代~80代で70代が3例と最も多く、アセトアミノフェン単独での症例はなくいずれも他の被偽薬による可能性も十分に考えられる症例でした。アセトアミノフェンがより高用量になりやすいトラムセットでは、当モニターに挙げられた副作用症例では、アセトアミノフェンとして325~2600mg/dayまで使用されていましたが、肝障害は0件でした。添付文書に記載されている使用量を遵守し(最大4000mg/day、100mg/kg程度)、定期的な肝機能検査を行っていけば消化器障害、腎機能障害、血小板機能などの影響でNSAIDsが使用できない場合に安全に使用できる薬剤と考えられますが、総合感冒薬やトラムセットなど、アセトアミノフェンの合剤との併用は警告となっており、市販の風邪薬にも含まれていることから併用によって過量にならないよう患者への十分な指導と注意は必要となります。

アスピリン喘息(鎮痛解熱剤過敏喘息)に注意!
 NSAIDs不耐症・過敏症とは、NSAIDs全般に対する過敏症状を指し、蕁麻疹型と喘息型に分かれます。NSAIDs不耐症・過敏症の喘息型がいわゆるアスピリン喘息にあたりますが、一般名アスピリン(商品名 バイアスピリンなど)だけでなくNSAIDs全般に注意が必要です。アスピリン喘息では、気管支喘息が基礎疾患としてあり、NSAIDsで非常に強い喘息発作と鼻症状が誘発されるのが特徴です。アスピリン喘息は、内服だけでなく外用剤でも起こり得ます。これらを含む外用剤は多用され、市販薬も多く売られていますが、喘息発作が誘発されることには注意がおろそかになりがちですので患者指導が必要です。
 過去3年間に当モニターに報告されたNSAIDsによる喘息発作は9件で、うちアスピリン喘息と思われるものは9件(ジクロフェナクナトリウム坐薬1件、ロキソプロフェン6件、一般名イブプロフェン(商品名 ブルフェンなど)1件、アセトアミノフェン1件でした。

症例1)喘息患者。右脳出血発症。加療中に軽度~中等度の喘息発作あり。約2ヶ月後胃瘻増設し増設部の圧痛のためジクロフェナク坐薬使用。約1時間後に喘鳴と呼吸苦出現。サルタノール1吸入にて10分後喘鳴消失。翌日痛み止めの使用にて喘息発作が起こることがあると聞き取り。
症例2)喘息患者。約10年前に近医で処方された風邪薬で心停止、挿管の既往あり。痛みによりロキソプロフェン処方。疑義照会にて今までにNSAIDsの処方歴なく、禁忌項目やアレルギー(記載)なしと確認。ロキソプロフェン服用し約1時間半後に呼吸苦・結膜充血出現しサルタノール使用するも改善せず救急受診し入院となった。

 NSAIDsは、あらゆる診療科で処方される可能性があります。NSAIDsが処方された場合は、現在、喘息治療中であるか、喘息の既往がないかを確認し、喘息患者の場合は、必ず過去のアスピリン喘息歴(NSAIDs服用時の喘息発作の有無)の確認と、アスピリン喘息の可能性についての説明・指導が必要です。

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ケトプロフェン貼付剤(モーラスなど)による副作用
 民医連副作用モニターへのケトプロフェン貼付剤による副作用報告は、テープ剤による接触性皮膚炎20件、光線過敏症17件、急性腎不全1件(セレコキシブ、ロキソプロフェン併用)、浮腫2件、色素沈着1件、パップ剤による接触性皮膚炎1件、光線過敏症5件〔うちヒドロクロロチアジド(ニュートライドなど)との併用1件〕と報告件数はテープ剤の方が多くみられました。メーカー報告でもテープ剤の方がパップ剤より副作用報告件数は多いようですが、金額で比較した場合の売上げ自体、テープ剤はパップ剤の10倍となるため使用量がかなり異なる事もその理由のひとつかもしれません。光線過敏症のうちチアジド系利尿剤の併用は2件で、併用した方が発現しやすいというデータまではありませんが、チアジド系薬剤のようにその薬剤自体が光線過敏症の発症リスクが高い薬剤の併用時は特に注意が必要かもしれません。接触性皮膚炎や光線過敏症のようによく知られている副作用以外に急性腎不全や浮腫、色素沈着も報告されています。光線過敏症に関しては貼付部位が日光に当たらないようにすることや日焼け止めの使用等が予防策として推奨されていますが、洋服等で直接日光が当たっていない場合でも発症している例があることや、メーカーでは使用中止後4週間は引き続き注意することとしていますが、4週間以上、数ヶ月後に症状発現している例もありますので4週間以降でも起こる可能性があります。

症例)ケトプロフェンテープ使用歴あり。左手関節にケトプロフェンテープ貼付。翌日海水浴に行き貼付部位の浮腫、紅斑・発赤・腫脹あり。皮膚科受診しクロベタゾール・プロピオン酸軟膏(商品名 デルモベート軟膏などステロイド軟膏剤)にて改善

セレコキシブ(セレコックスなど)の副作用と注意点
 セレコキシブは、シクロオキシゲナーゼ(COX)のうち、炎症組織に誘発されるCOX-2選択的阻害剤です。その主な副作用として、ショック、過敏症状、消化器症状、肝臓、腎臓、血液系の障害、重い皮膚症状が報告されています。海外では、COX-2選択的阻害剤の投与が、心筋梗塞、脳卒中などの重篤で場合によっては致命的になる血栓塞栓性疾患のリスクを増大させ、そのリスクは投与期間とともに大きくなると言われています。
 民医連副作用モニターへ5年間に寄せられたセレコキシブの副作用は、湿疹・発疹など43件、発赤・紅斑18件、掻痒感21件、スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)1件、多形浸出紅斑1件、その他皮膚症状3件、浮腫6件、急性腎不全1件、腎機能低下1件、間質性腎炎1件、肝機能障害1件、間質性肺炎1件、食欲不振3件、胃部不快感3件、胃痛5件、消化管穿孔1件、出血性胃潰瘍2件、胃潰瘍1件、食道潰瘍1件、汎血球減少1件、好中球減少1件、その他34件 が報告されています。腎障害は70代、80代各1件で用量は200mg/day、発現期間は、急性では2週間後、もう1件は1年5ヶ月後の発症でした。心筋梗塞や脳卒中などの報告はありませんでした。

 セレコキシブはCOX-2選択的阻害という特徴より消化器症状が出にくいとされ、その点では他のNSAIDsより使いやすいとされていますが、当モニターでは消化管穿孔や出血性胃潰瘍など重篤な消化器障害の報告もあり、消化器症状について安全に使用できる薬剤とは言い切れません。腎障害は投与量により起こりやすくなるとも考えられ、当モニターへの報告例のほとんどが高齢者でした。セレコキシブは高齢者や腎機能低下患者に使用する場合の減量基準などありませんが、投与量、投与間隔等注意が必要かもしれません。消化器症状は直接刺激作用とプロスタグランジン阻害作用から起こると考えられます。当モニターへの報告での重篤な消化器症状例は高齢者に通常量もしくは80代女性に300mg投与された例などでした。セレコキシブの副作用の中で最も多くみられた副作用は皮膚症状で、スティーブンス・ジョンソン症候群や多形浸出紅斑など重篤な報告もあるので注意が必要です。副作用を回避するためにも、添付文書に記載されているように、最少有効量を可能な限り短期間に投与し、漫然と長期に使用しないことが重要です。

症例1)80代女性 腰痛にてセレコキシブ300mg分3で服用開始(リセドロン酸ナトリウム・商品名ベネットの併用あり)。服用4ヶ月後、検査にて出血性胃潰瘍認めセレコキシブ中止となる。

症例2)70代女性 148cm 48kg 腎不全の既往なし 胸椎圧迫骨折にてセレコキシブ200mg/日開始〔併用薬:オルメサルタン メドキソミル(オルメテックなど)、アムロジピン ベシル酸塩(ノルバスクなど)、アルファカルシドール(ワンアルファなど)〕。投与18日目BUN:51.9、Cr.:1.93、K:6、腎不全を疑い投与中止。中止4日目BUN:90.5、Cr.:3.32、K:7、アーガメイト開始。中止11日目で検査値正常化。もともとの疾患で腎不全はありませんでした。

<画像提供>宮城民医連 みやぎ保健企画
http://www.tsubasa-ph.co.jp/company/greeting.html

**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました(下記、全日本民医連ホームページでご覧になれます)。今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。

◎その他の副作用関連記事は下記からご覧いただけます。
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

<【薬の副作用から見える医療課題】当面連載予告>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗けいれん薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用

以下、57まで連載予定です。

<下記もご覧下さい>
◎民医連副作用モニター情報一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話し〕一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k01_kusuri/index.html

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