健康・病気・薬

2016年4月12日

【新連載】7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点

一般名トラマドール塩酸塩(商品名トラマールなど)、アセトアミノフェン(カロナール)、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン(トラムセット配合錠)、プレガバリン(リリカ)、ブプレノルフィン貼付剤(ノルスパンテープ)など

 神経障害性疼痛や慢性疼痛の適応をもつ治療薬として、2010年から2011年にかけて神経細胞の過剰興奮を抑制するプレガバリン(商品名リリカ)、癌性疼痛以外の慢性疼痛の適応をもつオピオイド(opioid:麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を有する内因性または合成ペプチド類の総称)の一種であるトラマドールとアセトアミノフェンの配合錠(商品名トラムセット配合錠)や、オピオイド系のブプレノルフィン経皮吸収型製剤(商品名ノルスパンテープ)などがあいついで発売され治療の選択肢が広がりました。適応症の拡大とともに使用量も大幅にふえ、疼痛管理の中心的な治療薬となってきています。副作用モニター情報では、おもにプレガバリンと、トラマドールとアセトアミノフェンの配合錠の副作用について取り上げてきました。

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1、プレガバリン(商品名リリカ)による副作用
 プレガバリンは、過剰に興奮した興奮性神経系において、電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットと強く結合し、神経シナプスにおけるカルシウム流入を阻害し、グルタミン酸等の興奮性神経伝達物質の放出を抑制することにより神経性疼痛を緩和するとされています。
 抑制系の神経伝達物質であるγアミノ酪酸(GABA)の類縁物質であり、そのルーツは抗てんかん薬のバルプロ酸(商品名デパケンなど)で、非常に類似した構造を持つガバペンチン(商品名ガバペン)の4倍の力価を持つとされています。ベンゾジアセピン系薬剤とちがいGABA受容体には作用しないといわれていますが、臨床的にはGABA様作用=中枢抑制作用が発現することは容易に推察されます。
 民医連副作用モニターでは、2015年7月時点での直近の過去1年間の副作用報告が、68症例95件あり、その内、めまい・ふらつき28件、眠気・傾眠15件、意識消失2件、頭痛・頭重・感倦怠感など中枢抑制作用によるものと思われる副作用は合計51件と約半数をしめていました。その他の主な副作用とし、悪心・嘔吐、口渇・下痢などの消化器系の副作用が11件、浮腫・体重増加などの副作用が13件、視力低下など視覚障害5件、肝障害2件、低血糖2件、認知面の低下・注意力障害2件などが複数で報告されています。

1)めまい、傾眠、意識消失の副作用ついて
 プレガバリン(リリカ)の高齢者における「めまい、傾眠、意識消失」の副作用について2012年7月にメーカーから適正使用情報が発出され、「腎排泄型の薬剤で高齢者では腎機能が低下していることが多いため、低用量から開始する」との注意喚起がなされました。
 民医連副作用モニターでは、メーカーの適正使用情報がだされる以前の、発売直後の2011年6月と2012年5月にモニター情報第1報<353>および情報第2報<371>において高齢者への投与量は25㎎から開始すべきとの注意喚起を行いました。
 しかし、メーカーの適正使用情報以後も添付文書上での初回投与量が75㎎のままのためか、同様の報告がその後も多数よせられており、2015年2月に改めて第3報<430>で、下記の注意喚起をおこなっています。

 「副作用報告の70%が70歳以上の高齢者で、ほとんどが75mgから開始し、投与初期に中止していました。75mgは、添付文書通りの開始用量ですが、使用上の注意として、腎機能別による用法用量の追記がされています。添付文書上の用法用量は治験での承認用量でもあり、変更は難しいそうですが、第1報、第2報でも提起したように、腎機能に関係なく、高齢者の場合は25mgからの開始が望ましいのではないかと考えます。また、「食事の影響を検討した国内外の臨床試験で、空腹時服用で発現率が高く、発現までの時間も短くなる傾向が認められています。これは、Cmax(最高血中濃度)が高くなる影響と思われ、服薬説明時に注意が必要かもしれません。」

 これらの副作用は、投与初期、増量時などに用量依存的に発現しています。自動車事故や転倒や骨折などの事故にもつながりかねません。高齢者への初回投与時や増量時には特に注意が必要です。

2)思考障害・認知面の低下の副作用について
 前述の副作用モニター情報第3報<430>では思考障害の副作用についても注意喚起しています。今回あらためて調査した過去1年間の副作用報告の集計でも「認知面の低下」や「注意力障害」の症例が報告されており注意が必要です。

【症例】40代男性、薬剤師。末梢神経障害による足の痛みで、アミトリプチリン塩酸塩錠(商品名トリプタノールなど)10mg分1を就寝前に開始、4日後プレガバリン50mg分2に変更。その3日後、100mg分2に増量、さらに2日後からアミトリプチリン塩酸塩を併用し、4日後150mg分2に増量、さらに3日後200mg分2に増量。翌日の仕事中、計算機で割り算をしようとしたがその方法が分からず、ただ計算機を叩くことしかできなくなったため、プレガバリンの思考障害を疑い、その日の夕刻からプレガバリンを中止。しばらく思考障害は続き4日後に回復した。その後も頭がすっきりしない状態はしばらく続いた。

 この症例では、医療従事者であったため自身で気付く事ができました。しかし一般的には、家族など他者が異変に気がついて初めて薬を疑うことになり対応が遅れる場合もあります。本人だけでなく家族からも変わったことはないか聞き取ることが必要です。認知症と誤診されるケースがあるかもしれません。思考障害は用量依存的に起こり、回復まで時間がかかることもあり注意が必要です。

3)低血糖の副作用について
 2009年4月~2012年6月までの間に、メーカーに報告されたプレガバリンによる低血糖は3件あり、2012年8月使用上の注意に低血糖が追記されました。2015年7月現在では18件に増え、転帰は、入院3件、不明10件、中止4件、改善1件と入院にまで至る重篤な例も報告されています。
 当モニターでも、この1年間で、プレガバリン(リリカ)による低血糖の報告が2件あり、1件はグリメピリド(商品名アマリールなど)との併用でしたが、1件は血糖降下薬や低血糖を起こす可能性のある薬剤の併用はなくリリカのみによる低血糖が考えられる症例でした。

【症例1】50代男性 むずむず足症候群にてリリカ(25)2カプセル分2開始。開始4日後に3カプセル分3、開始8日後には6カプセル分3と増量し、服用開始10日目に低血糖発作あり、空腹時血糖(FBS)54。ブドウ糖補食にて改善。

【症例2】80代女性 グリメピリド(アマリール)0.5mg服用中。慢性腰部疼痛にてリリカ(25)2カプセル分2開始。服用開始より傾眠傾向あるも食事摂取は良好。服用開始4日目意識状態の低下あり、空腹時血糖(FBS)40 ブドウ糖注静注で対応するも意識回復せず、ブドウ糖持続注にて数時間後に回復。グリメピリド中止。

 プレガバリンによる低血糖の機序は現在のところ不明です。同様の作用機序を持つガバペンチンでは低血糖による死亡/再燃事例(WHOデータベース)の報告があり、膵β細胞のGABAA受容体の活性化により電位依存性カルシウムチャネルを開いて細胞内にCaイオンの流入を促進しインスリン分泌を促すことが示唆されています。リリカはGABAA受容体に結合しないと言われていますが、臨床的にGABAA様作用があることから同様の作用機序で発現している可能性も考えられます。
 当モニターへの報告例では服用開始後早期に発現しています。血糖降下薬もしくは低血糖を起こす可能性のある薬剤の有無に関わらず、低血糖を起こす可能性がありますので低血糖症状やその対応についての患者指導が必要です。

4)その他、肝障害・浮腫・体重増加、視力障害の副作用について
 その他、注意すべき副作用として、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の安全性情報No,317(2014年10月)では、死亡例もふくむ劇症肝炎・肝機能障害の症例が紹介され使用上の注意が改訂されています。
 また、浮腫・体重増加の副作用報告も多くよせられており注意が必要です。このうち体重増加に関しては、作用機序は明らかになっていませんがレトロスペクティブ解析の筆者は、プレガバリンがラットの視床下部からのグルタミン酸放出を抑制することにより、副腎皮質ホルモンの濃度低下をもたらす結果、食物摂取が増加し、体重が増加するとの仮説を立てています。なお、プレガバリンの視神経への影響と考えられる視力障害等の副作用については、別テーマの中で紹介していますのでご参照ください。
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2、トラムセット配合錠による副作用
 トラマドール(商品名トラマール)は、WHO三段階除痛ラダーでコデイン同様「ステップ2」に位置付けられた弱オピオイド鎮痛薬です。μ-オピオイド受容体へ作用すると同時に、ノルアドレナリンとセロトニンの再取り込みを阻害し、下行性疼痛抑制系を活性化するとされています。
 トラムセット配合錠は、1錠中にオピオイド(非麻薬)「トラマドール塩酸塩」37.5mgと解熱鎮痛剤「アセトアミノフェン」325mgが配合された鎮痛剤で、2011年7月に発売されました。適応症は、非オピオイド鎮痛剤では治療困難な非がん性の慢性疼痛と抜歯後疼痛です。とくにがん以外の慢性疼痛に使用可能な弱オピオイド剤として使用量が増大しています。民医連副作用モニターでは、2012年8月に情報<377>、さらに2013年8月にも情報<400>で副作用に関する注意喚起を行ってきました。

1)悪心・嘔吐、便秘、食欲低下など消化器系副作用について
  これらは、オピオイドの薬理作用にもとづく副作用で、承認時の国内臨床試験でも、悪心41.4%、おう吐26.2%、傾眠25.9%、便秘21.2%、浮動性めまい18.9%と高頻度に認められました。多くは投与初期に発現し時間の経過とともに減少する傾向があります。程度にもよりますが、事前に十分説明し、下剤や制吐剤の投与などの適切な対応をすれば、対処可能な副作用です。
 なお、がん性疼痛に用いられるトラマドール塩酸塩単剤のトラマールカプセルでは、1回25mgからの開始が推奨されており、このことから考えても、1錠中のトラマドール含有が37.5mgのトラムセット配合錠は、単剤と比較してトラマドールの量が多いのです。カナダの添付文書には、「本剤投与開始時に数日間の漸増期を設けることは一部の患者に有効である可能性がある」との記載があり、少量から開始し漸増する方法も考えられますが、1日投与量が2錠と、少量投与症例での報告もありました。「悪心、嘔吐、便秘」の発現頻度の高さを考えると、「悪心、嘔吐」の予防策として「就寝前1錠から開始し漸増する」ことや、「開始及び増量後3~7日で耐性が生じ、症状が軽減する」可能性を考慮しつつ、制吐剤や緩下剤等の適切な併用も必要に思われます。
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2)精神・神経系の副作用、その他の副作用について
 消化器系の副作用についで多いのが、「全身のふるえ、ふらつき、眩暈、眠気」の副作用です。90歳代の高齢な患者ばかりでなく、50歳代の2症例でも発現しており、自動車の運転等、危険を伴う機械の操作に従事させない等の注意も必要です。
 なお、トラムセット配合錠は麻薬指定されていないため、扱いやすいというメリットはあります。しかし、今回の副作用報告には含まれないものの、トラマドール塩酸塩の乱用や過量投与による呼吸抑制や昏睡、痙攣発作、心停止などには十分な注意が必要です。
 また、アセトアミノフェンによる重篤な肝障害にも注意が必要で、アセトアミノフェンの1日総量が1500mgを超す高用量や長期投与の場合は、定期的に肝機能がチェックされているかにも留意しましょう。

3)他のオピオイド系鎮痛薬との併用は避けるのが無難
 2014年2月の副作用モニター情報<410>では、ブプレノルフィン貼付剤(商品名ノルスパンテープ)との併用による副作用について紹介し、オピオイド関連薬の併用はさけることが無難との注意喚起を行いました。

【症例】80代男性、トラムセット配合錠を服用中にブプレノルフィン貼付剤を追加し、吐き気を起こした。両下肢の痛みで鎮痛療法開始、メトクロプラミド(商品名プリンペランなど)併用のもとトラムセットを漸増したが、さらなる除痛を希望したため、トラムセット4錠から2錠に減量したうえでノルスパンテープ5mgを追加。その2日後にめまいと吐き気がひどくなり、ノルスパンテープを剥がし、その後すぐに症状は改善した。

 非経口投与のブプレノルフィン製剤で起こる嘔吐や悪心作用は、化学受容器引き金帯(CTZ)を介する機序、前庭を介した機序の2通りで説明が可能です。症状を軽くするためには、ドパミンD2受容体阻害作用のあるメトクロプラミドやプロクロルペラジン(商品名ノバミン)などの使用だけでなく、前庭症状への対策として抗ヒスタミン剤の使用や両方の作用を持つペルフェナジンペルマレイン酸塩(商品名ピーゼットシー)の使用などの方法が考えられます。
 Goodman&Gilman薬理書(グッドマン・ギルマン薬理書―薬物治療の基礎と臨床―)には、ブプレノルフィンは「作用の発現はモルヒネより明らかに遅く、一方でμ受容体からの解離半減期は166分と非常に長いため、臨床効果は血中濃度と一致しないのが特徴」と紹介されています。ブプレノルフィンとトラマドールにおける受容体親和性を比較したデータは掲載されていませんが、早期に吐き気の症状が治まったのは、トラマドールがブプレノルフィンの受容体からの解離を促進したからかもしれません。相互作用を予測し難いオピオイド関連薬の併用はしないのが無難でしょう。

<画像提供>大阪民医連・耳原総合病院
http://www.mimihara.or.jp/sogo/

**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました(下記、全日本民医連ホームページでご覧になれます)。今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。

◎その他の副作用関連記事は下記からご覧いただけます。
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

<【薬の副作用から見える医療課題】当面連載予告>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗けいれん薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用

以下、57まで連載予定です。

<下記もご覧下さい>
◎民医連副作用モニター情報一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話し〕一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k01_kusuri/index.html

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