民医連新聞

2012年4月2日

駆け歩きリポート 町会とともに「孤独死」防げ 「高齢者安否確認システム」に連携 千葉・新松戸診療所

 千葉県松戸市の二つの町会(幸谷・新松戸東)が三月、ひとり暮らしや老老世帯の住民向けに、インターネットと電話を使った「高齢 者安否確認システム」(呼称・あんしん電話)を始めました。この提携医療機関を引き受け、地域とともに高齢化の問題に挑むのが、民医連の事業所・新松戸診 療所(東京勤医会)です。町会がこのような見守りにとりくむのは千葉県内でも初。発足にあたっては市長まで診療所にやってくるなど注目度大です。(木下直 子記者)

「あんしん電話」軸に

 診療所の受付裏に、真新しいパソコンが二台並んでいました。安否確認システムを始めた松戸市の幸谷町会と新松戸東町会、それぞれのもの。画面には、安否確認対象者の一覧と各人の状態が色で表示されています。
 システムは、(1)パソコンに組み込まれたソフトで対象者宅へ電話が自動発信され、(2)電話を受けた高齢者は、状況を電話のプッシュボタンで回答。 「異常なし」の場合は[1]、「気になる症状あり」は[2]、「医師からすぐ連絡がほしい」は[3]を押します。[2][3]の人がいれば、画面に黄、赤 で表示されます。診療所に設置したパソコンに表示が出て、診療所が電話を入れ、対応します。
 なお自動電話は、対象者が希望した曜日・時刻に、週一度発信されています。応答がない状態が二日続いた場合、診療所が町会の担当役員に連絡、町会からボランティアの「相談員」が、当事者宅の状況確認に走ります。
 運用経費として厚生労働省の「地域支え合い体制づくり事業」に申請し二七二万円の補助を受け、六五歳以上の住民なら誰でも無料で利用可能です。現在、両町会で計四四人が登録しています。

2年ごしの苦労で

 町会が見守りのしくみについて検討を始めたのは二年前。立案者は幸谷町会前副会長の樋口剛さん(79)です。目立ち始めた孤独死のニュースを他人事ではないと受け止め、各地の見守り活動について調べました。実現にはいくつかの「難関」があったといいます。
 ひとつは資金。「良いと思っても、カネがかかってはダメ。町会も貧乏ですから」と。これは市内の開業医が患者の安否確認用に開発した自動連絡ソフトを見つけ、使用許可をもらいました。先述の国の補助金をパソコン購入など準備にあてました。
 次は、協力してくれる医療機関探し。これには町会役員が「さんざん苦労した」と口を揃えました。昨夏、猛暑の中を近隣病院や診療所へ町会の計画を携え、 協力要請に歩きましたが、引き受けてくれるところはなかなかありませんでした。「あの診療所ならこういう問題には熱心だよ」という町会員の助言で、たどり ついたのが新松戸診療所でした。
 「医は算術、という時代で…。経済的メリットのない我々の相談を引き受けてくれた新松戸診療所には本当に感謝しています」と樋口さん。「システムが最終目的ではないんです。住民間の関係を強め、年をとっても住み続けられる地域にしたい」。

開設には市長まで来た

 飛び込んできた樋口さんたちの話を聞いた三浦聡雄所長は、その場で応じようと決めました。「診療所に来る患者さんだけでなく、地域まるごと診ようと掲げている民医連らしい役割です。なにより、町会の熱意に動かされました」。
 協力はボランティア。専用の電話回線も診療所で設置しました。
 こうして三月三日からシステムがスタート。三月二日に診療所で開かれた発足式には、町会関係者や診療所職員のほか、社会福祉協議会やソフトを提供した開業医、各派の地方議員や松戸市長、市の福祉部長などの幹部までやって来ました。取材もたくさん。
 松戸市の年齢構成は、人口五〇万人中、六五歳以上の住民が一〇万人というもの。同じ市内にある常盤平団地の自治会が孤独死防止にとりくんでいますが、町 会がこのような形で行うのは初めてです。「ここまで期待されるとは思わなかったから、がんばらないとね」と、野口輝美看護師長と児玉宏行事務長が顔を見合 わせました。
 またこのニュースが地元紙などで紹介されると、「私の住む地域でもやってほしい」という意見や、他の医療機関からの問い合わせなどが入っています。

 二月末の試行段階から約一カ月。あんしん電話で診療所が対応したのは一三件です。登録者は町内の六五歳以上の住民の約一割程度、自動電話の頻度もいまは週一回。利用者や電話の回数を増やすことなども今後の課題です。
 「孤立や孤独死の問題が相次いで報じられているいま、意義ある活動だと思います。ささやかな一歩ですが、非常に貴重な一歩」と三浦所長。「とりくむ地域も参加者も広がってほしいです」。

(民医連新聞 第1521号 2012年4月2日)

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