医療・看護

2015年1月19日

【見解2015.01.17】新専門医制度に対する全日本民医連の見解

2015年1月17日
全日本民医連理事会

【はじめに】
 日本の専門医資格制度が大きく変わろうとしています。
 日本の専門医資格制度は1960年代から各学会で随時整備が進められ、専門医資格数は2000年代に入り急速に増加し80を超すまでになりました。 2008年から社団法人日本専門医制評価・認定機構に集約され、2011年から厚生労働省の下に設置された「専門医の在り方に関する検討会」(以下「在り 方検討会」)で関係団体の意見を集約し議論が重ねられてきました。
 2017年度開始予定の新専門医制度は、超高齢社会に対応した医療提供体制の再編とあいまって、単なる資格制度に止まらない、日本の医療の在り方に重大 な影響をもたらす内容を伴っています。現在資格毎に研修プログラムの整備指針が順次発表されていますが、その内容をみると、これまでの日本の地域医療を支 えてきた医師の在り方を大きく変化させる可能性があります。全日本民医連理事会は、地域医療の維持・発展の観点から現時点での新専門医制度についての見解 を表明し、計画の見直しを要望するものです。

【新専門医制度の特徴】
 一般社団法人日本専門医機構(以下「機構」)はその整備指針で制度設立の理念を(1)専門医の質を保証できる制度(2)患者に信頼され、受診の良い指標 となる制度(3)専門医が公の資格として国民に広く認知される制度(4)医師が、プロフェッショナルとしての誇りと患者への責任を基盤として、自律的に運 営する制度、と表現しています。
 新専門医制度は以下の点で従来の制度と異なる特徴を有しています。
1) 「専門医」を「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて、患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」と定義し、医師は基本領域のいずれか1 つの専門医資格を取得することを事実上努力義務と規定したこと(在り方検討会の答申では、取得した資格のみを広告可能とする方向が示され、自由標榜制の制 限を予告しているようにもとれる)。
2) 19番目の基本領域として「総合診療専門医」を創出し、その期待される役割を「日常的に頻度が高く、幅広い領域の疾病と障害等について、わが国の医療提供 体制の中で適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的に提供する」と(在り方検討会答申)したこと。
3) 研修プログラムや個々の医師の資格の認定・更新については、国でも学会でもない第三者機関(機構)が行うこととし(「学会専門医」⇒「機構専門医」)、資 格認定・更新条件として診療実績をより重視するように定めたこと。
4) 専門研修「基幹施設」の認定基準のハードルを上げ、大学や大病院を中心に新たに病院群を形成することを推奨し、その養成数については地域事情を勘案し「定 員」を設定する可能性を示唆(在り方検討会答申)していること。

【新制度施行への懸念】
 こうした特徴を持つ新制度ですが、在り方検討会の答申や順次発表されている研修プログラム整備指針などの情報からは、その理念を実現する制度設計になっ ているとは言い難く、むしろ現在の地域医療の現場に混乱をもたらす可能性が高いと言わざるを得ません。新制度施行により日本の医師養成と地域医療を支える 医師体制に以下のような影響が出ることが懸念されます。
1) 地域医療を担う医師体制をめぐる諸問題
 基本領域の資格の多くは大学や大病院でないと「基幹施設」になりにくい内容になっており、かつ、個々の専門医は資格維持の為により専門に特化した仕事に 従事可能な環境を求めて大学や大病院へ集約化され、医療機能と医師の「偏在」が深刻化する。加えて、「地域を診る医師」として期待されている「総合診療専 門医」から(主に内科系)サブスペシャル領域へ進む道が事実上閉ざされていることによって、「総合診療専門医」選択の障害となりかねない状況があり、地域 医療を担う(特に中小病院の)医師体制が一層困難に陥る。
2) 臨床教育での総合性欠如・初期臨床研修軽視の懸念と医師の在り方への影響
 領域別専門医が過度に特化した仕事に集中するようになると、一方でますます専門外の患者や複合的な症状に対応出来なくなる恐れがある。併せて、この新専 門医制度発足の動きが作りだしている「後期研修・資格取得重視」の風潮は、初期研修の段階から専門分化された大病院を指向するという医学生の選択動向を既 に生み出しており、プライマリケアの基本を学ぶことが高く評価された、新医師臨床研修制度(初期臨床研修)の理念・設計が形骸化することが懸念される。こ うした事態は、専門医が専門以外の仕事を分担して担うことで地域の多様なニーズに応えてきた、これまでの日本の医師の在り方を変貌させかねない。
3) 事実上の「定員化」がもたらす影響
 専攻医の定数上限を設定すること(事実上の「定員化」)は資格制度を利用した新たな医師数統制に繋がる恐れがあり、実際の地域ニーズと乖離した医師養成 数目標が設定されれば医療提供サイドからサービス総量を決めることになり、新たな「医療難民」を生み出すことに繋がる。更には、「定員」の枠から漏れた医 師は他領域を選択せざるを得ず、専門医資格間の(地位的、経済的)序列を生み出す恐れがあり、「序列上位」に対するインセンティブを求める動きが出現する ことが懸念される。
4) 地域医療を担う現役医師の資格をめぐる諸問題
 「学会専門医」資格を有する現役医師も順次新基準に沿って更新を義務付けられており、2020年以降は全て「機構専門医」になる予定とされているが、多 くの開業医や地域で総合的な仕事に従事している領域別専門医の資格更新が実際に可能なのかどうかが不透明である。関連して、日本医師会が地域医療の守り手 として重視する「かかりつけ医」や、専門医資格を持たずとも地域医療の維持・発展に寄与している医師の位置づけが明らかにされておらず、実際の地域医療の 主戦力である医師たちの意欲を低下させる恐れがある。

【国民のための専門医制度を創るために】
 日本の医療の特徴は、大小様々な医療機関が地域に存在し、それぞれの専門分野を持つ医師たちが協力し合い、多様なニーズに応えてきたことです。この特徴 が国民皆保険とあいまって、平均寿命の延びや乳児死亡率の低下など質の高いアウトカムを実現してきました。
 民医連は、機構の目指す専門医像「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて、患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」に賛同し、各専門 医が必要な臨床能力を習得することを支援する専門医制度が必要であると考えています。しかし、研修施設と専門医取得後の働き場所を細分化された専門に特化 した環境にあまりにも限定してゆくことには反対です。
 民医連は、総合診療専門医の研修プログラムの準備を重視し、一定の領域別専門医の研修プログラムについても可能性のある施設で準備しつつあります。機構 のめざす新制度設立の理念を達成するためにも、超高齢社会に対応できる国民本位の医療・介護を実現するためにも、現在の地域医療の実情を見据えて、その担 い手を確実に育成し、結果として日本の地域医療の水準を今以上に引き上げることを目的とした制度を創り上げることが求められます。

 全日本民医連は国と日本専門医機構に対して以下の点を要望します。

  1. 地域医療を担う医師が不足している現状を直視し、「基幹施設」認定条件を現行の研修施設の持つ機能と大きく乖離しないように設定することで、地域医療を担う専門医を地域で養成可能な制度設計にすること。併せて、資格制度を利用した医師数抑制、医療費抑制は行わないこと。
  2. 地域医療を支える為に多忙な診療に従事している現役の専門医の資格更新が可能になるような設計にすること、併せて、日本の医療の特質を考慮し、総合診療専門医が(主に内科系)サブスペシャル領域に進めるように関係者の合意を形成すること。
  3. 日本専門医機構の第三者性を維持し、内部での議論内容を公開すること。それにより国民や医学生、現場の医師の声を新制度に反映させるとともに、十分な議論が無いままで拙速に開始しないこと。
  4. 新専門医制度を法制化しないこと。併せて、専門医資格を診療報酬上位置付けないこと。

(PDF版)

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