民医連綱領、方針

2015年8月28日

特別決議 戦後70年、被爆70年、平和と人権をさらに高く掲げて

2015年8月23日
全日本民医連41期第3回評議員会

 第二次世界大戦の終結から70年、日本は平和憲法のもと海外で戦争することなく、あの広島・長崎以来、武力としての核兵器使用も世界で一度もありませんでした。この到達点は、戦争と原爆投下という凄惨な加害と被害を経験した日本人と平和、人権、社会進歩を求める世界の人々が連帯し、努力してきた結果です。しかしそれは、日本においても決して平坦な道程ではありませんでした。ポツダム宣言に掲げられた日本軍国主義根絶と国内民主化は、米ソの対立構造の中で変質を迫られ、日本国憲法施行のわずか数年後から「憲法改正」を主張する国家権力、政治勢力とそれに抗い憲法を守ろうとする人々のせめぎ合いが始まりました。
 2015年、再び海外で戦争をする国に向かうのか否かの攻防が熱くたたかわれている戦後70年目の夏。全日本民医連は、戦争をしない国の歴史を守り、人権としての社会保障の充実を求め実践することを宣言します。
 憲法危機の根本にある日本の政治指導者の歴史認識
 「戦後50周年の終戦記念日にあたって」という村山富市総理大臣談話は、植民地支配と侵略によって与えたアジアの人々への損害と苦痛に対して痛切な反省と心からのお詫びを表明しました。それから20年が過ぎ、戦争時代の鮮烈な記憶を有する人々はすでに日本人の1割程度となり、アジアにおける日本の植民地支配や軍の蛮行を直接知る人はごく一握りとなっています。「植民地支配と侵略」の正確な歴史認識と二度と過ちを繰り返さない責任の継承は、歴史研究者や教育者の努力とともに歴代政権の意識的な追求なしには困難ですが、今日の政権はまったく逆の動きをみせています。
 村山談話と同じ年の8月15日、安倍晋三氏も参加する自民党の「歴史・検討委員会」が「大東亜戦争の総括」を発行し、「大東亜戦争は正しい戦争、南京大虐殺や軍『慰安婦』はでっち上げ」と侵略戦争を美化しました。史実をねじ曲げる歴史修正主義が台頭し、「植民地支配と侵略」を肯定する教育のための「新しい歴史教科書をつくる会」の運動、米連邦議会下院による日本軍『慰安婦』問題批判決議に対抗する「歴史事実委員会」のワシントンポスト意見広告(2007年)などにエスカレートしていきました。こうした中で、軍『慰安婦』問題を含む日本の政治指導者の歴史認識を問うアジア諸国、そして世界の批判が高まりました。
 あらためて、史実に基づく検証と正しい歴史認識の確認、そして「過去の克服」への真摯な努力を政府に求めます。「植民地支配と侵略」の事実とそれを犯罪と認める歴史認識に立つことは過去のことではなく、これからの日本が世界の国々と平和に共存してゆくための礎であり、いまの日本人に問われていることです。そして、国家による戦争を日本人はなぜ止められなかったのか、どうすれば止め得たのかを問うことが、戦争のない未来にとって大切だと考えます。
 医療・介護従事者の倫理的行動の出発点としての戦後
 戦後70年の年月は、平和とともに人権の歴史でもありました。今日、患者の人権や社会保障制度が当然のこととされますが、これに対応する倫理的な原点も第二次世界大戦の総括によることは歴史の事実です。
 ニュルンベルグ裁判では、強制収容所での生体実験からホロコースト(数百万人のユダヤ人虐殺)まで戦争時代の医学犯罪について国家指導部だけでなく、加担した医師・医学者を訴追し、罪を問いました。そこから導かれたニュルンベルグ綱領は、現代の医の倫理原則であるヘルシンキ宣言に結実しています。
 ドイツでは、自国法によるナチ犯罪裁判を時効なく継続してきました。1950年にドイツ医師会は痛切な反省の声明を発表しました。ベルリン医師会は、「人間の価値?1918年から1945年までのドイツの医学」(1998年)を刊行し、その後医学教育においても医師の戦争犯罪に関する講義を一般化するなど、医療界における「過去の克服」が続けられています。
 ところが日本では、戦争時代の医学犯罪の検証はきわめて不十分です。東京裁判では、関東軍731部隊による細菌兵器の開発・実施や生体実験などは、訴追されませんでした。アメリカ政府が実験データと引き換えに戦争犯罪に加担した医師・医学者を免罪したことが背景にあります。そして今日に至るまで、日本の医学・医療界は加害の歴史を検証し、反省と謝罪を述べることはありませんでした。
 こうした中、医療界の有志により「戦争と医の倫理」の検証を進める会が設立(2009年)され、民医連の医師も参加して、よりよい未来のために過去から学ぶ努力がされています。今年の医学会総会には、医の倫理企画?過去・現在・未来?を申し入れましたが、受け入れられず独自開催となりました。
 また、「人権としての医療・介護をめざす民医連の提言2013」では、戦争時代の医学犯罪の自覚と反省を原点に医の倫理を確立してゆくことが、医療界の自律性、国民と医師、医療者の信頼関係構築の礎となると提案してきました。全日本民医連は、未だ歴史的に十分な検証と反省をなし得ていない日本の医学・医療界の一員であることを自覚し、戦争時代の医学犯罪についてアジアと世界の人々に心からお詫びするとともに、二度と同じ過ちをおかさない努力と運動を続ける決意を表明するものです。
 過去を克服し、東アジアの友好と連帯を求める行動を
 全日本民医連は、戦前命がけで戦争政策に反対した無産者診療所を源流とし、民医連綱領に「いっさいの戦争政策に反対する」ことを明記しています。改憲策動とのたたかい、被爆者医療の実践や被爆者の実相を世界に知らせた国際シンポジウム、被爆者援護法制定や核兵器廃絶への行動、自衛隊海外派兵反対や辺野古支援連帯行動など、一貫して平和と憲法擁護の行動を続けてきました。2015年のNPT再検討会議では、過去最高の159カ国が核兵器の非人道性を告発し全面廃絶を求める共同声明を発表し、最終文章合意にいたらなかったものの、核兵器禁止の法的枠組みを求める意見を大勢にすることが出来ました。また、ベトナムの枯れ葉剤に苦しむ子どもたちへの支援、中国で日本軍が遺棄した毒ガス兵器の被害者支援、在韓被爆者の支援や韓国の医療従事者との交流など、平和と人権を求める東アジアの人々とともに活動し今日あることに誇りと希望を持ちたいと考えます。
 戦争させなかった70年、核兵器を使わせなかった70年は、憲法9条と被爆者の運動なしにあり得ませんでした。全日本民医連は、平和と民主主義を求める勢力の一員として奮闘し、さらに広範な人々との連帯をめざします。そして、戦後70年の節目の夏、再び海外で戦争をする国に向かおうとする違憲の企てに抗い、戦争のない世界、核兵器の廃絶に向かって行動する決意を新たにします。

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