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2016年5月3日

医療倫理「事例集」発行 全日本民医連 医療倫理委員会 日常よくある悩みを読者と考える より良い患者支援のために

 全日本民医連は、三月に『医療倫理事例集2015』を発行しました。倫理問題は医療安全と同様、日々の活動で遭遇する、身近で悩み多い問題です。今、なぜこの事例集を発行したのか? 事例集のねらいや使い方、また現場からの感想について、企画、編集を手がけた第四一期医療倫理委員会委員長の堀口信医師(北海道・函館稜北病院)の寄稿です。

 事例集には一三の事例と五つの規定を掲載しています。テーマは、「終末期医療」、「判断能力が乏しい方の治療選択」、「栄養摂取方法の選択」、「身体抑制」などです。一三事例中、六つは身寄りのない事例で、民医連の事業所で日常よくみられるケースを取り上げています(別項)。
 またそれぞれ、経過、倫理的課題、倫理委員会での検討内容、読者への質問、著者のコメント、参考資料などで構成しました。職員や住民向けの学習教材としても利用できるよう、「読者への質問」の項を事例ごとにつくり、結論を読み手が考えられる工夫も。
 巻末には、病院、診療所で実際に使用している倫理規定も付けました。「倫理的問題の報告」、「終末期医療ガイドライン」、「事例検討会心得」、「胃ろうガイドライン」、「輸血拒否ガイドライン」を取り上げています。

■「患者の利益」を忘れない

 本事例集の巻頭に、東北大学の浅井篤教授に寄稿していただいています。その一部を紹介します。
 「医療専門職を悩ませる倫理的ジレンマは、本事例集で取り上げられているような意思決定能力を欠いた患者さんの診療・ケアで発生することが多い。しかし、そのような患者さんに関する倫理カンファレンスでは、いつのまにか患者さんが『どこかにいってしまう』ことが少なくない。患者さんが発言できず意向が不明な場合、患者さんの最善の利益とは何かという問いが、時に忘れられてしまう。医療倫理の原則や手続きについての知識が増えれば、そのような事態は防ぐことができよう。倫理的に適切な選択肢を知れば、そのプランの実現を阻んでいるバリアは何で、どうすれば実施可能になるのかを模索するプロセスに移ることができる」。

■気づき考える参考に

 この事例集は、「倫理を考える際は、答えを求めたり、出したりするのではなくて、考えるプロセスを重視する」、「様々な場面に倫理的な問題が隠れていること、そういった倫理的問題への気づきを大事にする」、「似たような事例があった時にどういう結論を出すか、他事業所の対応を参考にしてもらう」ことがねらいです。
 発行直後から、追加注文が全国から寄せられ、増刷することになりました。感想には、「全職員向けの学習教材に使用したい」、「職員食堂に置いたら、あっという間に手垢だらけになった」などが寄せられています。また、「熊本での大震災にふれて、非常時に普段の医療介護資源をどのように配分すべきか考えさせられた。二四時間対応ができるヘルパー、訪問看護師のような、限られた貴重な人的資源が、非常時にはどう動けばいいのかも、大事な倫理的課題として考えていきたい」といった、新たな倫理的課題の指摘もありました。

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 多くの方々に活用していただき、ご意見もいただければと考えています。

収載されている事例のテーマ
1)身寄りのない患者のDNAR指示(1)
2)身寄りのない患者のDNAR指示(2)
3)患者からの経管栄養中止の申し入れ
4)重度認知症患者への胃瘻造設
5)終末期での治療拒否
6)気管切開の拒否
7)人工透析の継続拒否
8)夫婦の生活を「死という常識的に納得しやすい理由」以外で他人が終了させて良いのか
9)身寄りのない人への対処
10)身寄りがなく判断能力が乏しい方の治療選択
11)開口しないときの食事介助
12)意識障害・嚥下障害があり、誤嚥性肺炎・窒息を繰り返している母親に、食べさせてしまう家族の行為は、やめさせるべきか
13)身体抑制

(民医連新聞 第1619号 2016年5月2日)

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