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2016年7月5日

日本の奨学金制度は世界の常識外れ 奨学金問題対策全国会議 共同代表 大内裕和教授(中京大学)の講演から

 年々上がる大学の学費や、大学卒業後の若者に重い負担を強いる奨学金が問題になっています。どんな問題が起き、何が原因なのでしょう。奨学金問題対策全国会議共同代表の大内裕和さん(中京大学教授)の講演を紹介します。(土屋結記者)

 今、学生が一番集まるイベントが何か分かりますか? 文化祭ではなく奨学金説明会です。一九九〇年代半ばまでは少数だった奨学金利用者は、今や大学生の半数を超えました。
 日本の高等教育への予算は、OECD平均の半分以下(GDP比)。そのため、学費は上がり続けてきました。例えば、国立大学の授業料はうなぎ上り(図上)。一九七〇年に一・六万円だった国立大学の初年度学費は、二〇一〇年は八一万七八〇〇円に。一方で、世帯年収の中央値はピークだった九八年から一〇〇万円も下がり、奨学金が無ければ子どもを進学させられない家庭が増えました。
 奨学金を利用する大学生の約八割が使っているのは日本学生支援機構です。もともと奨学金は無利子のものしかありませんでしたが、八四年に自民党政権が有利子の奨学金導入を強行しました。その際、「無利子を補うもの。財政が好転したら廃止も検討」という付帯決議がつきましたが、無利子の枠は横ばい、有利子の枠だけ一〇倍に拡大しました(図下)。
 無利子枠の希望者は近年、毎年二万人ずつ増えていますが、こんな状態なので、〇九年には無利子希望者の七八%が不採用でした。教職に就いた場合の返還免除制度は九八年に廃止、大学の研究職についた場合の返還免除制度も〇四年に廃止されました。さらに、〇七年度からは民間資金が導入され、金融機関が奨学金で儲けています。

図

「返せない」の悲鳴

 奨学金の返還額は、だいたい月額一~二万円台。「正規雇用で給与一九万円」の設定でうちの学生がシミュレーションすると、実家から通勤しない限りほぼ全員が赤字になります。
 そして現実はより厳しい。大学を出ても就職は困難で、非正規雇用が増え正規でもボーナスが無いなど“名ばかり正規”も増えています。
 返還滞納者は三三万人、総額二六六〇億円です。返せるのに返さないのではありません。日本学生支援機構には、平日、三~四〇〇〇件の電話があり、そのほとんどが「返せない」という相談です。
 返還が不安で借りる額を抑えたり、奨学金を使わない学生もいます。ところが、不足分を埋めるために、バイト漬けの学生生活を強いられます。「ブラックバイト」という別の問題に突き当たります。

日本の未来に打撃

 この問題は、人口減少・自治体消滅にまでつながります。このまま放っておけば、少子化問題は絶対に解決できません。
 まず、結婚できません。世代の半数以上が借りているので、自分が借りていなくてもパートナーが借りていたり、夫婦合わせて二重の負担になる可能性が高いからです。インターネットの相談掲示板で「奨学金 結婚」で検索すると、「返還額は計一三〇〇万円。結婚に踏み切れない」など、一万件以上も表示されます。
 結婚をためらうくらいですから、出産はとても困難です。私のゼミ生の半数は「返還だけならなんとかなる」と答えましたが、そこに子育てを加えると全員が「無理」と言いました。これが日本の将来の姿です。

異常を正そう

 世界の奨学金は原則給付です。返還が問題になる奨学金というのは、世界的にはきわめて例外なのです。アメリカでも七〇%が給付です。ニューヨークでこの問題を話した時、「それは奨学金ではなくローンだ」と言われました。
 「奨学金」の名にふさわしい制度に変えなくてはなりません。近年、マスコミが取りあげ、国会でも質問されるようになり、悪くなる一方だった流れに一石を投じることができました。
 今後の課題は、返せば必ず元本が減る充当順位に変える、年収を基準にした猶予・免除制度の導入、返せない人にさらなるペナルティを課す延滞金制度の廃止、そして、無利子枠増加と給付型奨学金導入です。将来的には有利子枠は廃止し無利子と給付型のみに、最終的には、世界標準である給付型のみの奨学金制度にすべきです。

(民医連新聞 第1623号 2016年7月4日)

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