民医連新聞

2003年12月1日

医療従事者が戦争に協力させられる

伊藤和子弁護士

代々木総合法律事務所所属 自由法曹団前事務局次長

 自由法曹団※は、「有事三法案はアメリカが起こす無法な戦争に日本国民を動員する危険な法律」と警告していま す。昨年来、自治体、医療、建設など四の分野で何が起こるかを詳しくレポートし告発しています。「医療」分野を担当したのは伊藤和子弁護士です。イラクに 自衛隊が派遣されようとする緊迫した状況にあるいま、戦争動員は人ごとではありません。伊藤弁護士の話が現実味をおびてきます。鐙(あぶみ) 史朗記者/ 荒井 正和記者

有事とはアメリカの戦争のこと?

 「有事」とは戦争のことです。戦争になったときに米軍に追随して自衛隊を動かし、日本の施設、物資を調達し、国民をどう動員するかを決めたのが有事立法です。

 いま、戦争を好んで起こしている米国と日米共同作戦を行い、後方支援をすれば、参戦と見なされます。相手国から攻撃され、核戦争にも巻き込まれかねません。その現実感をみなさんに持ってほしいのです。

医療従事者が協力義務を負うのですか?

 武力攻撃事態法の第二条の七「対処措置」には、「日本の自衛隊と米軍が円滑に活動できるよう、物品、施設、役務の提供」を定め、第五条、六条は地方公共団体、指定公共機関に戦争協力の義務を課しました。

 地方公共団体には、都立、公立の病院すべてが含まれます。しかし、国が「公共的な責務、機能がある」と指定すれば、民間病院も指定公共機関になるのですから、民医連のような医療機関も例外にはなりません。

医療機関に何を協力させるのですか?

 医療の場合、「物品」にあたるのは医薬品、輸血用の血液、医療材料などです。国が必要だと判断すれば、製薬会社に流通をストップさせ、病院に使わせず保管させることができます。

 「役務」はサービスにあたります。自衛隊や米軍の傷病兵を優先的に治療することになります。入院患者を強制的に退院させても、傷病兵を入院させなければなりません。国民のいのちを守る医療はズタズタにされます。

 勤務する病院が指定公共機関にされた場合、病院から医師や看護師に指令がきます。今のところ、拒否した場合の刑事罰は決められていませんが、業務命令を拒否すれば解雇されるか、不利益な処分などが予測されます。

 また、大学病院では、戦争に利用するための医療技術研究に医師が従事させられることもありえます。

もし、 命令に従わなかったら?

 物資の保管命令に違反した人には、懲役刑の罰則が規定されています。患者に必要な医薬品を使おうとする場合、罰則を覚悟しなくてはなりません。その場で一人ひとりが判断を問われます。

 また、保管命令違反の調査のため、自衛隊などから病院に立ち入り検査ができます。この保管命令は「戦闘地域で事 態にてらして緊急を要すると認める時」には都道府県知事に通知するだけで権限の行使が可能です。立ち入り検査を拒否すれば、罰則です。病院の判断で拒否し たのであれば院長、個々の労働者の判断なら、その人が罰せられます。

医療従事者が戦地に派遣される恐れは?

 日米新ガイドラインには、日本の対米協力として医療救援活動や衛生活動があげられています。

 朝鮮戦争とベトナム戦争時、アメリカは傷病兵の手当に従事させるため、日本政府に赤十字の救護班の派遣を要請。朝鮮戦争で、日本赤十字社が九州各地の国立病院などに勤務する看護婦を集め治療にあたらせました。

 アメリカはアジア、太平洋地域における戦争に日本の医療従事者を派遣してほしい、と要求しています。米国から医療班を連れてくるよりは、日本の優秀な医療関係者にあたらせるほうが、金もかからず、日本の貢献としてふさわしいと考えているからです。

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すでに召集状がつくられている

戦争の実態に 「正義」 なんてない?

 アメリカは「不必要に民間人を攻撃してはならない」「将来的に害を残す非人道兵器を使ってはならない」などと定 めたジュネーブ条約を無視しています。イラクやアフガンでクラスター爆弾や劣化ウラン弾を使用し、罪もない人を大量に殺しているのです。その戦争に、医療 従事者が参加させられるのです。

 イラクでは劣化ウラン弾が八〇〇トン以上使われたといわれ、広島型原爆のウラニウム量の一万三〇〇〇回分の放射能物質で汚染されました。その地域に自衛隊を派遣しようとしているのです。戦闘による犠牲とともに、ガンなど放射能障害も生じかねないのです。

戦地に医師が徴用される恐れは?

 自衛隊の医療班は数が少ないから、民間から徴用される可能性が高いです。

 また、政府は「自衛隊法施行令等の一部を改正する政令案」を一〇月三日に閣議決定し、一〇月八日施行しました。 この中で医師、歯科医師、看護師など「有事」の際に業務従事命令を出せる職種が明確に規定されました。ここでは「医療従事者個人」に対して「公用令書」 (左)で業務従事命令を出すことも決められています。心身の故障など相当な理由がない限り拒否できません。しかも、この手続きは、事態が緊迫した場合は、 「口頭」「電信」「電話」でできると規定しています(資料参照)。

 野戦病院は、日本国内に限らず海外にも設けられます。そこでは、「後方地域」ではなく、まさに、戦闘地域での医療活動です。

*   *

 いま有事法制を発動させないたたかいが重要です。

 前の大戦では国家総動員法で医師が戦争にかりだされました。戦前は六万人以上いた医者が敗戦時は一万人になって しまい、まともな医療ができなくなりました。「国民のいのちを守るための医療を破壊してしまう可能性がある」と、ひろく訴えてほしいのです。私たちも要請 があれば、話しに行きます。

 国民保護法制を含め、来年の通常国会から二年間で何百という法律が具体的にでてくるでしょう。どんな法律なのかを機敏に分析して、私たちも警鐘を鳴らしていくつもりです。

※自由法曹団…人権、民主主義、平和を擁護する弁護士団体。

 


〈資料〉
自衛隊法の一部を改正する政令(抜粋)

2003.10.8施行

(物資の収用等の要請の手続)

第128条 法第103条第1項から第4項までの規定による処分の要請は、処分を要請する事由その他必要な事項を記載した文書により行うものとする。ただし、事態が急迫して文書によることができない場合には、口頭又は電信若しくは電話によることができる。

 前項ただし書の場合においては、事後において速やかに文書を提出するものとする。

(医療等に従事する者の範囲)

第130条 法第103条第5項に規定する医療、土木建築工事又は輸送に従事する者の範囲は、次に掲げるとおりとする。

1)医師、歯科医師又は薬剤師
2)看護師、准看護師、臨床検査技師又は診療放射線技師
(以下略)

(公用令書を交付すべき相手方)

第131条 法第103条第7項の規定による公用令書の交付は、次の各号に掲げる処分の区分に応じ、当該各号に定める者に対して行うものとする。

1)施設の管理 管理する施設の所有者及び占有者
2)土地、家屋又は物資の使用 使用する土地、家屋又は物資の所有者及び占有者
3)取扱物資の保管命令 物資を保管すべき者
4)物資の収用 収用する物資の所有者及び占有者
5)業務従事命令 業務に従事すべき者
6)立木等の移転又は処分 移転し、又は処分する立木等の所有者
7)家屋の形状の変更 家屋の所有者

(業務従事命令の取消し)

第134条 都道府県知事は、法第103条第2項の規定による業務従事命令を受けた者が、心身の故障その他の事由により業務に従事することができない旨を申し出た場合において、当該申出に相当の理由があると認めるときは、当該業務従事命令を取り消すものとする。

「防衛庁ホームページ」より

(民医連新聞 第1321号 2003年12月1日)

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