民医連新聞

2004年12月6日

なぜいまねらう 「混合診療解禁」?!

 政府の規制改革・民間開放推進会議が「混合診療の解禁」をうちだし、小泉首相は「年内にも結論を出す」としています。日本医師会はじめ保険医団 体、医療団体から反対の声があがり、全日本民医連も「混合診療の解禁は、保険診療の根幹を崩す」との声明を出しました。混合診療とは何か、急浮上してきた 理由は何か、実施されるとどうなるのか、鈴木篤副会長に聞きました。

混合診療のしくみは今とどう違いますか?

 日本の公的医療保険は、一つの病気に対して必要な医療サービスをまるごと提供することを大原則にしています。これを「療養の給付」や「現物給付」といいます (※1)。その費用は後で医療機関にまとめて基金から支払われます。

 これに対し、基本的な薬や検査、治療は保険で給付するが、新しいあるいは高い薬、治療については給付せず、私費 負担とし「代金も自由に決めて結構」というものが、混合診療です。患者さんは、保険診療の自己負担分(三割 ※ 2)と、保険給付外の診療代(一〇割)を支払うことになります。

混合診療が禁止されている理由は何ですか?

 国民皆保険がスタートしたとき、日進月歩する医療を国民に平等に提供することを原則にしました。そのため、自費 との混合診療が禁止されました。混合診療を認めると、新薬やすすんだ技術は、自費で払える人だけのものになってしまいます。また今の公的保険の原則のもと でなら、新しい薬を開発した製薬会社は、保険で認められるように、安全性をチェックし値段も安くする努力を、それなりに払わねばなりません。

「乳房再建術」 の例で何が問題なのでしょう?

 今は、乳がんの摘出手術は保険診療で行い、時期をあらためて行う乳房再建術は自費です。「乳房再建を混合診療 で」と主張する人たちは、乳がん摘出と乳房再建を続けて手術するときのことを言っています。舌がん術後の形成術も同じですが、そもそもこれらの技術は「好 みの問題」ではありません。すべて保険診療にすればすむ話です。患者さんも学会もそのように要求してきました。

保険と私費の使い分けも混合診療ですか?

 手術のような特殊な場合でなく日常でも、保険診療と私費との使い分けは、よくあります。たとえばバイアグラとか ニコレットの処方は、疾病治療と言えないため、処方前の検査も含めて私費となります。お産の場合も、正常分娩は医療保険の対象ではありません。しかし分娩 異常(疾病)で帝王切開することになれば保険が適応されます。

 これは、医療保険が、疾病の治療を対象とし、予防注射や、健診、生活改善のサービスは含まないからです。このような使い分けは、混合診療とは言いません。

「特定療養費制度」との違いは何ですか?

 原則禁止されている「混合診療」を、法律で例外的に認めたものが特定療養費制度です。高度先進医療や選定療養 (差額ベッドなども)という限られた領域だけに自由診療を認めたものです。そのため「ある新技術が特定療養費の対象になりそうだ」という情報が「混合診療 解禁へ」などと報道されることがあります。

 これは特定療養費の対象拡大と「混合診療の解禁」をごっちゃにした報道です。

 民医連は、「特定療養費制度」を拡大すること、特に一八〇日を超えた入院料のように、医療の本体にまでに広げることに反対して、運動しています。

推進しているのはどんな人たち?

 患者や国民ではなく、財界の側、特に混合診療解禁でもうけが増える保険会社です。規制改革・民間開放推進会議の 議長は、オリックスの宮内義彦会長で、傘下に大きな生命保険会社を持っています。また推進室員二七人中一四人が保険会社など民間企業の出向者です。このこ とは自民党でさえ批判しています。

混合診療の解禁のため法律まで変える?

 いまの保険制度が「現物給付」を前提にしている限り、全面的に「混合診療」を成り立たせるには、公的保険も「現 金給付」に制度変更しなければなりません。そのためには法律も変えなければならず、全面解禁をねらって、次の国会に法改正が出される可能性もあります。こ の問題を大いに国民に知らせていくことが必要です。

国民皆保険の理念に関わりますね?

 医療界の大部分が「混合診療解禁」に反対です。東京都医師会などが主催した「国民医療を守る東京大会」のスロー ガンは、「いつでも、どこでも、誰でも平等な医療を」というもの。民医連が掲げてきたスローガンそのものでした。混合診療を解禁させてしまうか否かは、 「国民に医療を保障する責任を、公的な医療保険で、国と保険者が負う」という、憲法二五条の理念に関わる根幹の問題です。

 財政諮問会議やマスコミは、ある特殊事例を取り上げて、混合診療が解禁されないからだ、というキャンペーンを展 開しています。まず私たち医療従事者が、ことの本質を理解し、地域の方がたに説明していく必要があります。医師会や多くの医療団体、住民団体が共同し、理 解を深め、国民皆保険を守る運動を展開することが大事な時期です。

※1 介護保険では「必要な介護は、まるごと介護保険で給付する」とはなっていず、介護保険からは金額の上限を決めたうえ、九割分のみ出すというしくみです。だから上限以上のサービスを求める場合は全額自己負担です。今回の混合診療は医療保険の介護保険化と言えます。

※2 〇~二歳は二割負担
    七〇歳以上は一~二割負担

クイズ 混合診療に該当

「する?」 「しない?」

(1)血液検査をした際、患者の依頼に応じて血液型を調べた。血液型の分だけ自費徴収した。

(2)定期受診中の患者にインフルエンザワクチンをして、ワクチンは自費とした。

(3)診療中の患者に、保険適用外の薬を使って、その分だけ自費とした。

(4)丸山ワクチンを注射したが、診察料は保険、注射料は自費とした。

(5)健診中に内視鏡でポリープを発見して治療、健診料は自費、内視鏡治療は保険扱いにした。

答え:(1)該当しない (2)該当しない (3)該当 (4)該当 (5)該当しない

保団連「保険診療の手引」より

(民医連新聞 第1345号 2004年12月6日)

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