民医連新聞

2008年1月7日

「自己責任」じゃない 自立生活サポートセンターもやい・湯浅誠さんに聞く 反-貧困 ANTI-POVERTY CAMPAIGN

 全日本民医連が〇六年に行った高齢者生活実態調査や国保死亡事例調査は、高齢者の貧しい生活や、お金がなくて病院にかかれず、亡 くなる人がいることを明らかにしました。全日本民医連SW委員会は「生活保護受給者の生活実態調査」を行い、今月、結果を発表。多くの職員が地域に入り、 広がる貧困を実感しました。マスコミにも注目され、国民にもその事実を伝えてきました。「解決のためにいま何が必要なの?」。千葉・船橋二和病院SWの橋 本亜紀子さんが、九〇年代から野宿者支援に携わり、「ネットカフェ難民」の火付け役ともなった湯浅誠さんを訪ねました。(川村淳二記者)

生活の全体ささえるノウハウの共有を

 「もやい」の活動は、どうしてはじめたのですか?

 野宿者支援を始めたのが九五年です。当時、渋谷には一〇〇人だったのが、九九年には六〇〇人。すごく増えました。彼らの背後に食いつめている人が膨大にいることは、肌身で感じました。
 その時に思いついたのが保証人の問題です。野宿者だけでなく、家庭内暴力被害者も外国人労働者も、部屋を借りるとき保証人で困っています。保証人になる 団体をつくれば助けられるし、当事者との接点が増えるのではないか。それで始めたのが「もやい」です。

 野宿者が月一~二人、私の病院にも相談に来ます。家があってもお金がない人もいます。

 「貧困で困っている」と相談にくる人はあまりいません。「医療費が払えない」、「アパートから追い 出されそう」と、みんな個別の問題に見えます。でも医療費を払えない人は借金を抱えていたり、パートで賃金が低く、ひどい労働条件におかれていたりと、複 数の問題を抱えていることが多い。
 共通点は「貧困」です。ですから、社会の中に個別の相談窓口をいっぱい広げ、生活全般の支援をしていく必要があります。例えば労働相談を受けた時、その 人の生活状態に気づいて支援するとか、民医連のような医療費の問題でがんばっている病院が、多重債務や労働問題も分かるというように、いろんな団体が協力 して包括的に対応するノウハウを蓄積したらいいですね。
 生存権裁判から五〇年。あの時、いろいろな団体が朝日茂さんをささえ、全国的な運動になったと聞きます。ただ、みんな自分の現場で大変ですから、工夫も いるでしょうね。医療費の相談に来た人が借金を抱えていた場合、「それは法律相談に行ってね」と言うだけだと、絶対に行かないでしょう? 私たちの場合、 自分で法律家に聞いて回り、その中で対応のしかたが分かったし、法律家とのつながりもできました。
 そうしたつながりを大きくしたくて、昨年、「反貧困ネットワーク」を立ち上げました。それぞれの活動を「貧困」を解決するという点で結びつけたいのです。

 貧困って伝えにくい。普通に暮らしているとピンとこないところがありますね。

 そうですね。例えばネットカフェで暮らしている人を見て、「ああなる前に何とかできたはず」と言う 人がいます。でも、そう考える人の頭には、親に頼ればいいとか、何かすがる道がある。「まったくすがるところがない」状態が想像できないのです。そこに自 己責任論が食いつくわけです。「そうだよ、あいつらは何もしなかったからだよ」と。
 しかし、少しずつ変わってきています。自分が貧乏になってもおかしくない現実があるからです。自分の責任じゃない、と気づきはじめています。

いま私たちにできること

 国保問題の交渉で、市の職員が「保険だから、保険料を払わない人に医療が提供できないのは当たり前」と。社会保障の認識がすっぽり抜けていると思いました。

 厚生労働省が一生懸命「社会保険方式は相互扶助だ」と言うのはそれです。国の責任逃れです。
  政府や与党は、「生活保護は制度疲労している。限界だ」と言うけど、そうじゃない。手前にある国民健康保険や雇用保険がボロボロになってきたから、みんな 生活保護まで落ちてしまうわけです。国保や雇用保険が、「保険料を払わない人は排除していい」という理屈で、運営されるようになったのが一番問題なわけで す。
 後藤道夫さん(都留(つる)文科大学教授)は、「国保裁判で生保裁判を取り巻くべきだ」と言っています。いま生保裁判が先行していますが、それだけ突出 すると、バッシングの対象になってしまう。「タダでもらっている人たちだろう」と。
 国保問題は、働けない人にも、ワーキングプアにも関係しています。パートや派遣労働者を社会保険に加入させないような企業が横行していますから。生保問題と国保問題を結びつけることは、一つのポイントになると思います。

 当事者に実態を語ってもらい、広めていくことも大事ですよね。

 何にしてもそうです。ホームレスも生活保護も社会的偏見が非常に強く、本人たちは言い出せない。ちょっと言うとバッシングを受け、ますます言い出せない。後ろ向きのサイクルがずっとあります。
 ところが最近、「ワーキングプアの逆襲」といわれますが、日雇い派遣の人や生活保護受給者が声を上げはじめた。それで運動が少しずつ広がり、また話す人 が増えていく。当事者同士が感化し合っています。ここ一、二年がんばれば、プラスのサイクルに変わるかもしれません。
 いま一番大事なのは、生活保護の切り下げをさせないことです。最低基準が下がると、税金の減免、最低賃金、就学援助、国民健康保険・介護保険料減免など、あらゆる基準が引き下がりますから。
 国は国民が知らない間に決めてしまおうと急いでいます。切り下げる根拠はない。いろんな方面からどんどん反対しましょう。

 いまはチャンス! と思えるようになりました。民医連は貧困問題をコツコツとりくんできましたが、もっと大きな力にしなきゃいけないですよね。

 そうですね。貧困問題にとりくんできたわれわれのノウハウを仲間に伝え、新たに生まれた非正規労働者の運動とも手をつないで、大きなうねりをつくりましょう。

橋本(はしもと) 亜紀子さん
千葉・船橋二和病院ソーシャルワーカー。

湯浅 誠さん
 1969年生まれ。90年代から野宿者支援などに携わり、1000件以上の生活保護申請にも同行。
 NPO法人自立生活サポートセンターもやい・事務局長、便利屋「あうん」代表、反貧困ネットワーク事務局長などをつとめる。近著に『貧困襲来』(山吹書店)など。

 


 

生活保護切り下げさせない

立場を越えた反対の声拡がる

 一一月三〇日、舛添厚労大臣は「生活保護基準の引き下げを検討する」と表明。その根拠としているのは、「生活扶助基準に関する検討会」が出した、「生活扶助基準は低所得層の消費支出より高い」という報告書です。
 「この報告書には民意が反映されてない!」と、一二月七日、東京・日本弁護士会館で、「生活扶助基準に関するもう一つの検討会」が開かれました。主催 は、生活保護問題対策全国会議。会場には当事者や学者ら約一五〇人が集まりました。

当事者の声に涙

 会議の幹事、湯浅誠さんは「まだあきらめない。多くの団体・個人が反対を表明している」とあいさつ。低所得者や生活保護受給者が生活実態を報告しました。
 「不登校の娘に保育園の送り迎えをさせ、自分は一二時間以上働かないと生きていけなかった」「片足と両手指がなく、両目も見えない私に、福祉事務所は『あなた働けないんですか』と問いつめた」。あまりの厳しさに、会場のあちこちですすり泣きの声が…
 全日本民医連SW委員の齋藤江美子さんは、老齢加算が廃止された生活保護受給者三九七人の調査を中間報告しました。「八割以上が、下着を含む衣類の購入が年三回以下。地域行事や冠婚葬祭も七割以上が参加できない。これが健康で文化的な生活でしょうか」と訴えました。

政府の委員も反対

 布川日佐史・静岡大学教授は、「検討会で明らかになったのは、生活保護基準以下の貧困世帯が五~七%はいる、ということ。当事者の生活実態の分析もしていない。生活保護世帯を本来なら生活保護を受けなければいけない低所得世帯と比べてどうする」と発言しました。
 規制改革会議専門委員の一人も、検討方法にはきりがないほど問題点があると指摘、批判しました。

*  *

 一二月一三日には、「検討会」の全委員が連名で「意図していない方向に動いている。報告書は、生活保護基準の引き下げは慎重であるべき、が総意」と、異例の文書を厚労省に提出しました。

(民医連新聞 第1419号 2008年1月7日)

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