民医連新聞

2002年6月7日

有事法制の成立を憂慮する医師・医学者のアピール

全日本民医連会長 肥田泰

 いわゆる有事三法案(武力攻撃事態法、安全保障会議設置法「改正」案、自衛隊法「改 正」案)の審議が、医療保険改定国会で始まりました。私たちは、日本の未来にかかわる重大な法案が、充分な審議もなく成立させられようとしていることに、 深い危惧をおぼえ、拙速な審議可決に反対するものです。
 患者さんの医療費負担増、診療報酬の切り下げで、医療保障が空洞化することと併せて、有事三法案が国会に上程されて、日本が福祉から軍事国家へ国の形を 変えるのではないかと心配しています。有事三法案は、国民の意志に反して戦争に動員することを目的とした法案です。とりわけ医療従事者は真っ先に動員され る恐れがあります。既に自衛隊法一〇三条には、医療従事者の業務従事命令が定められてはいます。動員対象などを規定する政令がつくられていないため、事実 上死文化していました。ところが、今回の有事法案が成立すると、施行と同時に国会での審議なしで、政令によって一般の医療従事者も動員することが可能とな ります。しかもこの命令を拒否することができません。命を守りはぐくむことを使命とする医療従事者が、命を大量に奪う戦争に手を貸すことなど許されませ ん。さらに、今回の有事法制は、「武力攻撃事態」の認定も、対処方針の作成も、対策本部の本部長もすべて内閣総理大臣とされています。地方自治体の長に対 する首相の「指示権」まであり、従わなければ首相が直接指揮まで可能とする等、内閣総理大臣に強権的な権力が付与されています。
 「日本が攻撃されるかもしれないので、有事法制を準備しておく必要があるのでは」という方もいます。しかし、現在日本に対して組織的・継続的な武力攻撃 をしかける意志と能力を持った国は存在しません。この有事法制は、「武力攻撃の恐れがある場合」「武力攻撃が予測される場合」も発動の対象となっており、 これは三年前に成立した「周辺事態法」の後方支援の発動と一致することを政府は認めています。 
 すなわち一番考えられる事態は、アメリカが日本の周辺で起こした戦争に自衛隊が参戦し、その戦争への協力のために日本の国民が動員されるというものです。日本の安全には関係ない戦争に、意思に反して動員されることは許されません。
いま世界の非核・平和のために、北東アジアの平和が大きな鍵の一つとなっています。そのために日本がイニシアチブをとって、北東アジアの非核・平和の実現 に力を尽くすことがアジア諸国からも求められています。にもかかわらず、日本政府はいま、その反対の方向へ進めようとしています。
 これほど重大な法案が短期間にまともな審議もなく成立させられることに、私たちは反対します。

(民医連新聞2002年06月07日/号外)

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