民医連新聞

2011年12月5日

「復興」私たちの提言(4) 被災者の思い 無視した政府 動かすのは世論 陸前高田市(岩手)戸羽(とば) 太 市長

 被災地から復興の課題を語る連載4回目は、自治体から。津波で壊滅的な被害を受けた陸前高田市(岩手県)の戸羽太市長です。震災 から8カ月が過ぎても、国の復興政策の遅れが影響し、同市沿岸部は更地が広がります。戸羽市長は被災者の立場に立たない政府を批判しつつも、「市民ととも に、1日も早く故郷の再生を図りたい」と意欲を見せます。(新井健治記者)

 沿岸部に市街地が集中する当市は、岩手県で最も大きな被害を受けました。死者、行方不明者は人口の一割近く、約六八〇あった商店の九割以上が全壊しました。震災から八カ月以上が経ちましたが、沿岸部は更地になっただけで、復興は遅々として進みません。
 この八カ月を通して一番感じたことは、政府の方針にスピード感がない、被災者、被災地の立場に立ってくれない、ということ。
 一日も早く復興プランを作ることが、市民に希望を与え、この街にとどまることにつながります。ところが、国が防潮堤の高さを決めたのは、ようやく九月末 になってから。堤防の高さが決まらなければ、被災した市街地の活用方法が決まらず、復興プランを立てることもできません。
 また、市街地を高台に移転するにしても、当市はそもそも移転できる平地が少ない。山を切り開き造成する必要がありますが、開発許可申請に半年かかりま す。市の判断で開発行為ができるよう権限を委譲する「特区」制度の適用を求めましたが、非常時にもかかわらず政府の反応は鈍い。一〇月二八日にようやく 「復興特区」法案を閣議決定しましたが、対応が後手後手の感は否めません。
 復興財源確保のために所得税などの臨時増税を決めたことにも、強い違和感があります。国民から「被災地のせいで税金が上がる」と思われるかも知れず、い たたまれない。被災者に対しての配慮に欠けていると言わざるを得ません。

県立高田病院の再建は急務

 津波で壊滅した県立高田病院の再建は急務の課題です。現在は仮設診療所で外来診療をしていますが、入院機能がありません。県は仮設のままで四〇床を整備する計画ですが、将来はきちんとした病院として再建する必要があります。
 八月に市内の有識者五〇人による「震災復興計画検討委員会」を発足させました。これまで四回の議論を重ね、高台に高田病院、福祉施設、学校、商店街がそ ろう「健康と教育の森ゾーン」の整備を検討中です。ただ、用地購入をはじめ基盤整備に巨額の資金が必要です。国がどこまで補助してくれるのか、先が見えま せん。
 今回の震災では医師、看護師など九四チーム、のべ八一九一人の方に支援をいただきました。何らかの形で恩返しをしたいと思います。
 私の兄は歯科医師ですが、大学病院で勤めていたことも。当時は生活のため、休日は他の診療所でパートもしていました。医師の待遇改善は、被災地の医師確 保のためにも大きな課題。民医連の皆さんと力を合わせてがんばりたい。

市民とともに故郷を再生

 震災後しばらくは、当市の被害状況をテレビで見た方も多いと思います。最近は報道されることも少なくなり、「陸前高田はもう大丈夫ではないか」と思う方もいるかもしれませんが、現実は違います。
 皆さん方にはぜひ、陸前高田の名前を忘れないでほしい。阪神大震災でもそうでしたが、被災の記憶は時間が経つと薄れてしまいがち。人々から忘れられる と、被災者は“おいてけぼり”をくったような寂しさを感じます。
 陸前高田の名前を忘れないでほしいもう一つの理由は、世論です。「国の方針にスピードがない」と話しましたが、国を動かすには世論しかありません。少し でも早く復興できるように、皆さんとともに世論を盛り上げたい。
 私は今年二月の市長選で「市民が主人公の市政」を掲げ、初当選しました。行政任せでなく、まちづくりに主体的にとりくむ市民が多いのも当市の特徴です。市民の熱意を大事にしながら、故郷を再生します。

(民医連新聞 第1513号 2011年12月5日)

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