民医連新聞

2012年2月20日

水俣病大検診9割に症状 「救済うち切り」許されぬ

 受 診者の九割に水俣病の症状―一月二二日に四府県で行われた水俣病大検診は、多くの患者が救済されずにいることを改めて浮き彫りにしました。一方、国は「水 俣病特措法」による救済の申請を今年七月末に締め切ると決定。「全容解明せず患者を見捨てるのか」と、怒りの声が広がっています。熊本県天草市の検診を取 材しました。(武田力記者『いつでも元気』)

 大検診は水俣病不知火患者会が主催。熊本県、鹿児島県、岡山県、大阪府の六会場で計三九六人が受診し、九割にあたる三五六人に水俣病特有の症状がありました。
 国の線引きにより、天草市は水俣病の「指定地域外」ですが、潜在患者が多いとみられる地域です。一四八人が受診した天草東保健福祉センターで、最年少ら しい女性に声をかけてみると「弟からもらった問診票を読むと、あてはまる項目がいくつも…こんな症状も水俣病なのかと驚いた」と語ります。貧血やこむらが えり、目が見えにくいなどの症状に、長年悩まされてきたと言います。加害企業チッソが水銀の排出を止めたとされる一九六八年当時は五歳でした。「成長する 時期だったから水銀の影響を受けやすかったかも」と不安な表情を浮かべました。
 母親(81)とともに受診した男性(55)は、二十代の頃からひどい頭痛に悩まされています。「私が子どもの頃、母もしょっちゅう『頭がジンジンする』 と訴えていました」と。大学病院でも、その原因は分かりませんでした。「何十年も苦しんできた。検査や薬、お金もかかった。せめて医療費だけでも救済を」 と訴えました。

全住民検査は必要

 この会場で活動した民医連職員は八九人(九州四会場は計二三〇人)。「どこで」獲れた魚を「いつ」「どれだけ」食べたか、救済申請に必要な情報をていねいに聴き取る作業が続けられました。
 問診にあたった看護師の中村祐介さん(水俣協立病院)は、「住民たちは例外なく魚をたくさん食べていました。水銀ばく露の影響がないはずがありません」 と。さらに「手足のしびれなど水俣病の症状があっても、『年のせい』と思い込んでいた方が多かったです。潜在患者はもっといるでしょう。国やチッソが線引 きして決めた被害者ではなく、すべての被害者を最後の一人まで救済すべきです」と力を込めました。
 くわみず病院院長の大石史弘医師は、「私が診た一三人のうち一二人に感覚障害がありました。検査針を体に落としても、全く感じない重い症状の方もいた」 と。「海岸地域だけでなく、山間部にも行商から購入した汚染魚を食べた人が多いです。行政には改めて全住民を対象にした健康調査を要求したい」と話しまし た。

検診結果 政府に突きつけ

 一月二五日には、水俣病不知火患者会が弁護士らと上京。検診結果を環境省に突きつけ、申請 締め切りを行わないよう求めました。しかし二月三日、細野豪志環境相は「水俣病特措法による救済申請を七月末に締め切る」と発表。「三年間の期限で申請し てもらうのが法の趣旨」としました。
 水俣病闘争支援熊本県連絡会議の原田敏郎事務局長は、「『三年』とは、その間に行政は最終的な解決の目途をつけるようにと求めた規定です。周知などの義 務を十分果たさず、被害者切り捨ての口実にするなど絶対に許されない」と憤ります。「『救済されるべき人々があたう限りすべて救済される』という特措法に 沿って、申請がある限り受け付けるべき」。
 水俣病不知火患者会の大石利生会長は「水俣病が公式確認されてから五六年。その場しのぎの国の対応が、最終的な解決を妨げてきました。被害の全容を解明 し、加害者に責任をとらせて、初めて教訓を現在、未来に引き継いでいくことができます。福島の原発事故を見ても、国は全く水俣病から学んでいません。“公 害の原点”である水俣病の解決は、今後の社会のあり方を決めてゆく重要な試金石でもあります」と語りました。

(民医連新聞 第1518号 2012年2月20日)

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