民医連新聞

2002年11月1日

困ったことは 「気軽に相談してね」/ 毎日の電話で患者さんに声かけ/ 埼玉・熊谷生協病院医事課のとりくみ

埼玉・熊谷生協病院医事課のとりくみ

 埼玉・熊谷生協病院(105床)の医事課では、翌日の外来を予約している七〇歳以上の患者さんに、九月末 から毎日電話をかけています。窓口負担割合を把握するため「明日、保険証・医療受給者証を持ってきてください」と声をかけながら、患者さんが困っていない か声を聞き、限度額減額申請や相談につなげています。

(小林裕子記者)

 「市役所に行って、こんなんもらってきた」と患者さんが窓口で示した書類は「減額認定書」でした。一目見て「ああ、行ってきたんですね」と声をかけた医事課の森山理恵さんに、「電話で教えてくれたのは、あなただったのね。ありがとう」とお礼の言葉が。
 毎日かける電話は10件から10数件、医事課の職員全員で分担しています。ある日のとりくみでは、18人の患者さんと対話し、非課税世帯の3人に減免申 請の手続きをすすめ、2人が翌日相談に来ることを約束、1人は2割負担でした。「年金が基準より少し多いだけなのに、2割負担の保険証が届いた。何とか安 くなる方法はないのか相談にのって」。「市役所から送ってきたけど、まだ封も開けてない。大事なものなのかい?」「書き方がわからないから書いてほしい」 と言う患者さんが多数。
 熊谷市は、全非課税世帯に減額申請の書類を保険証といっしょに郵送しました。しかし、保険証の大きさに小さく折り畳んだ申請用紙、細かい字で書かれた説明はわかりにくかったのです。

“ためらい”は吹き飛んだ

 「電話かけには、はじめは葛藤があったんです」と医事課主任の多田里美さん。「患者さんに非課税世帯かどうかまで聞いていいのか」と職員にためらいが。 しかしそれはとりこし苦労でした。「…失礼ですが、ひとり暮らしですか? 年金だけでお暮らしなのですか? 税金払っておられますか?」などの質問に怒る 人は誰もいませんでした。患者さんはむしろ率直に「収入は年金しかないの」「疑問だったのよねえ」「どうしたらいいのやら」「もう病院にいけないな」など と応えてくれました。多田さんは「自分たちがつくっていた壁だった」と言います。森山さんも「『他人が、一介の事務職員がこんなことを聞いては…』の思い は吹き飛んで、いまや堂どうと電話をかけています」。

「最初の相談窓口」合い言葉に
 同院医事課では10月1日を前に改悪内容を学習し、対策として相談活動を強化することにしました。その担当になったのが今春就職の新人・森山さんとベテラン職員の片岡ルミさん。
 2人はまず、相談カードを作成。患者さんに書いてもらったり相談を受けた職員が書き込み、内容を明確にして各職種がかかわり解決にあたるためです。カー ドは「さわやか相談カード」と名付けました。「深刻な内容を明るい方向にもっていきたい」の願いと「気軽に相談して」のメッセージを込めました。医事課 ニュースも毎日発行し、相談事例や患者さんの声をのせ、病院の各職場の朝会で配布することに。
 また市役所に行き「患者さんに役立つ情報はないか」と各部局をまわりました。
 障害福祉課では「何ですか」と冷たく言われ、国民保険局では「減額申請書を病院が患者に勝手に渡すのは困る」と。それでも町内会回覧用の説明書を手に入 れて、細かい字だったので拡大、市役所の中の見取り図と担当窓口、申請書のコピーを見本として、患者さんのために用意しました。
 「減額の対象者なのに、市から申請書が届かない人もいました。封筒のまま持ってきたり、まだ知らない人も多い状態です。ていねいに説明してあげることが まず大切。医事課の総合受付は『患者の一番最初の相談窓口になろう』が合い言葉です」と片岡ルミさん。

「国保証がない」「在宅酸素はやめる」
 衝撃的な相談も経験しました。「保険証を忘れた」と言っていた心疾患の患者さんが、診察した見目昭夫院長に「実は国保税を滞納しているため保険証がない」と打ち明けたのです。
 森山さんが市役所に掛けあうと、市は「資格はある。本人に納税相談したいと手紙を送った。来ないので保険証はあげてません」。さらに「国保税を払う意志 の有無をどう判断するかは、あなたたちがすることではない。市役所がする」。「納税相談」とは「払わせるための相談」で、保険証を出すための相談でない、 と痛感した森山さんは、患者さんに「いっしょに行きますから」と市役所に行くようすすめました。が「いま他にお金が必要なので」と同意が得られませんでし た。継続の課題となっています。
 在宅酸素療法の患者さんが「医療費が重い」と、業者に話し酸素濃縮器を取りはずした事件も。報告にきた業者は「10月から12件も取りはずしがおきている」と言いました。

「相談活動」で新入職員が成長
 熊谷生協病院の地域には、14の医療生協支部におよそ2万人の組合員がいます。10月6日に6200人が参加して健康まつりが。医事課はポスターで医療改悪の中身を説明、相談窓口の存在をアピールしました。
 事務長の小川祥江さんは「いまの事態はただごとではありません。11月には、生協強化月間のとりくみとして熊谷地域の医療生協14支部がいっせいに医療 懇談会を開きます。さらに支部単位に組合員訪問行動がはじまります。この中で地域での相談窓口も広げる必要があります」と強調します。
 小川事務長は「職員の関わりも重要。職員が相談活動の中で成長しています」とも。森山さんは「入職してから医事課の職員としての自分を模索していた。し かし医事こそが患者さんと同じ目線にたてるのでは…と。この活動なかで、患者さんや社会への見方が深まりました。もっと医事課からの情報を他部署に発信し ていきたい。いま自分の仕事が楽しい」と語っています。

(民医連新聞2002年11月1日/1291号)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ