医療・福祉関係者のみなさま

2014年3月17日

記念講演 今、憲法を学ぶ~憲法のいきづく国にするために~ 憲法は国民が国を縛るもの 知ったからには行動しよう

伊藤 真さん 弁護士 伊藤塾塾長

 伊藤真さんの記念講演(要旨)を紹介します。

 憲法の根本は「一人一人の命を大切にする」ということです。生存権、健康権を定めた二五条、一三条の幸福追求権、「戦争をしない国にする」と決めた九条。これらは、「かけがえのない命をもっとも大切にする」点でつながっています。
 私が譲れないのは「戦争してはいけない」ということです。「中には正しい戦争もある」という人がいます。何かのために命を捧げ、大義のためにたたかうのは崇高で尊いと美化し、酔ってしまう人もいます。
 しかし、どんな正義を掲げても戦争はしてはなりません。人殺しだからです。戦争は、人間の命を道具や手段にしてしまいます。
 明治憲法(大日本帝国憲法)では、そもそも国民ではなく臣民であり、法律の範囲内で天皇から恩恵として権利が与えられました。
 しかし人権は誰かに与えられるものではありません。全ての人が生まれながらにして持っています(天賦人権)。日本国憲法のもと「国のために個人が犠牲に なる」ことを強要された社会から「一人ひとりを大事にする」社会になりました。
 国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和が、憲法の基本三原則ですが、その土台は立憲主義です。三原則は学校で学んでも、立憲主義は学んでいないのではないでしょうか。

現代版“富国強兵”へ

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 自民党は憲法を改正しようとしています。「天賦人権は見直す」「国防軍を作り、戦争できる国にしよう」と言っています。集団的自衛権の行使に踏み出すことを狙っています。
 「集団的自衛権」とは、自国が攻撃されていなくても、同盟国が攻撃されれば自衛権を行使できる、というもので、現在の日本政府はこれを認めていません。 この見解を変え、「集団的自衛権」を認めて、軍事的にも経済的にも強い国、現代版富国強兵を行おうと言うのです。強くなるのは国と大企業です。思い浮かぶ のは、軍事産業と原発産業です。原発も潜在的な核使用で、原発の稼働は「いざとなれば核兵器を作れる」と示すことにもなります。
 原発も軍事も金儲けです。大事故が起きてもなお「事故を経験したからこそ、安全な原発を作れる」と海外に売り込んでいます。

憲法が求める生き方

 すばらしいリーダーを待望し、その人に従う。それは楽かもしれません。
 しかし、憲法は、私たち国民に「主体的に生きろ」と求めています。それが「国民主権」です。天皇主権の時代、人々は天皇と軍部の決定に従い、戦争に突入 し、惨禍に巻き込まれました。今の憲法は、「自分たちで決めて行動しよう」「おかしいと気づいたことには声をあげよう」と私たちに突きつけています。
 そのために必要なのは情報であり、その情報を隠すのが特定秘密保護法です。情報が得られなかったら、判断もできません。国民主権を形骸化するものです。
 二〇〇一年に同時多発テロが起き、アメリカはイラク戦争に突きすすみました。それを支持した小泉首相は、「復興支援」の名目で自衛隊を派遣。国連職員を 運ぶとの説明で、多くの国民が納得しました。後に市民団体が情報開示を求めると、運んだのは武装したアメリカ兵だったことが分かりました。その米兵がイラ ク市民を殺した。日本は戦争に荷担したのです。
 権力はウソをつきます。秘密保護法のもとでは、こうした情報も表に出なくなる。事実や情報を伝えられなければ、国民は簡単にだまされます。ナチスも「戦 争プロパガンダ」を駆使して、国民を戦争に巻き込んでいきました。

変えてはならない価値

 人間は間違いを犯すことがあります。多数者が常に正しいわけではありません。だからこそ、多数決などで変えてはならない価値があります。それが「人権」と「平和」です。これを守る法が憲法です。
 「立憲主義」とは、権力に憲法で歯止めをかける、という考え方です。国民の支持があっても、やってはいけないことがあります。
 憲法は法律ではありません。法の中に「憲法」と「法律」があり、国民が、権力(=国)を縛るものが憲法で、国民を縛るのが法律です。
 私たち国民に憲法を守る義務はなく、あるのは政治家に憲法を守らせる責任です。「二五条を守れ」と堂々と主張する権利が、私たち国民にはあるのです。
 ところが自民党は改憲案に「日の丸・君が代尊重義務」「公益及び秩序服従義務」など、国民の義務を一〇個も書き入れました。憲法が国民を縛るものにな り、天皇と摂政には憲法を守る義務すらない。これはもう憲法ではありません。

少数者への想像力

 もうひとつの側面から見ると、憲法は、市民社会で強者が弱者に理不尽をさせないものでもあります。
 憲法の理解に大事なことは想像力です。多数者から少数者への想像力。想像力の射程を長くする努力が、私たちには必要です。
 すべて国民は個人として尊重される。誰もが幸せを追い求める権利を持っています。その“プロセス”を尊重するのが幸福追求権です。誰もが人間として生き る価値があり、人はみな違い、自分と同じように自分と違うあなたも尊重しよう、というのが憲法です。

*   *

 憲法は理想です。それに近づけるために行動することが主体的に生きることです。知ったからには行動しましょう。焦らず、あきらめず。命を守る尊い仕事をする皆さんだから。

(丸山聡子記者)


いとう・まこと 弁護士、伊藤塾塾長、法学館法律事務所所長、日弁連憲法委員会副委員長
1958年生まれ。81年、司法試験合格。真の法律家育成をめざし、司法試験の受験指導にあたる。「カリスマ塾長」であり、日本国憲法の理念を伝える伝道 師として、講演・執筆活動を精力的に行う。著書は『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)、『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』(大月書店) など

(民医連新聞 第1568号 2014年3月17日)

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