民医連新聞

2002年12月11日

国がじん肺と肺ガンの因果関係認める/九州社会医学研究所 田村昭彦所長に聞く

 11月27日、国会内で民医連交流集会を開催し、16県連43人が参加。「月間延長してたたかう」などの決意や、元気増やしの成果、地域の状況について発言がありました。一部紹介します。

 11月初旬、厚生労働省は、「じん肺法施行規則」と「労働安全衛生規則」の一部を改正する省令案を発表 (03年施行予定・詳細別項)。じん肺の「合併症」に「肺癌」が追加され、加えて「じん肺管理区分2」の患者にも健康管理手帳を交付、肺癌に関する検査 (胸部らせんCT及び喀痰細胞診)を年1回、という前進した内容です(別項参照)。この改定に私たち医療機関の側が積極的に対応することで患者に実効ある ものにすることも可能です。今回の動きをどう評価し、対応すればいいのでしょうか?

(編集部)

 今回の法改正案は、旧厚生省の時代から一貫して国が認めなかった「じん肺と肺癌との因果関係」が初めて認められました。患者さんや私たちの立場からは「遅すぎる」とはいえ、評価できる内容だといえます。
 じん肺の患者さんで肺ガンを併発した人は労災補償の対象になりました。また、この場合、亡くなった人に対しても、5年さかのぼって遺族補償が認められることになります。
 また健康手帳が交付され、肺癌検診が保証されていたのは、これまで「管理区分3」までの患者さん・じん肺認定者の一割だけでしたが、残る9割近い患者さんたちにも保障されることになったのです。
 すでにじん肺と肺がこの関連は昭和53年のじん肺法改正の際、労働者側の委員たちから多く諮問されており、今後必要な研究の方向性として出されていたも のの、先延ばしにされてきた経過があります。国際的な研究がすすみ、粉じん作業に携わる人が吸い込む結晶シリカの発ガン性のリスクの高さが指摘(通常の人 の3.71倍の高さ)されたことから、厚生省が主張してきた「肺癌の原因はタバコだ」という説明はたちゆかなくなりました。
 ようやく厚生労働省が科学的な根拠を受け入れたものといえます。しかし、今回認められたのは、あくまでも、じん肺と肺癌の関連であり、粉じん作業に従事 したことがあってもじん肺と診断されてない人が、肺癌に罹患したケースについては、関連性を認めるにはいたっていません。
 歴史的な見地から、検討のあり方そのものも批判していく必要もあります。

改正の内容を知らせることが大切
 今後は、この法改正を実効あるものにするために、患者、医療機関への徹底が重要になっています。
 九州では、地域に呼びかけ、じん肺の「掘り起こし健診」にとりくんでいます。本来なら「管理区分3」に相当するような病状の人でも6割が健康管理手帳をもっていませんでした。
 「管理区分2」に相当する人の場合、「管理区分3」の患者さんの数より、はるかに多く存在していることが予測されます。
 また、検診を受け入れている指定医療機関ですが、現在は各県で3カ所ずつ位しかありません。それで間に合うのか? という問題が残されています。
 必要な検査項目に対応できる医療機関でいつでも検診を受けられるような対応が必要だと思います。

この成果を患者さんへ
 民医連で組織的にとりくんでほしいのは、今回の法改定を呼吸器担当の医師などに知らせ、現在、肺癌で受診している患者さんの職歴を見直すことです。
 肺癌の患者さんは、どこの病院でも受診していると思います。「過去に粉じん作業に従事したことのある患者さんがいないか」「じん肺所見を見落としていないかどうか」を見直しましょう。
 私のところでも今、5年間のさかのぼってカルテを調査したり、現在肺癌で診ている人たちの職歴・じん肺の所見の有無の見直しをはじめているところです。
10月1日からの医療改悪の打撃から、患者さんを守る社会資源としての役割も大きいと思います。
 先日の「掘り起こし健診」でも在宅酸素療養をおこなっている患者さんで(他病院で管理)、身障者手帳も申請してもらえず、2万円近くにハネ上がった窓口 負担に困っている、という方が見つかりました。主治医には「じん肺の労災申請ができる方です」と、すぐにお知らせしました。
 今回の前進は、研究の成果だけでなく、運動で勝ち取った要素も大きいのです。成果は患者さんに還元していく必要があります。

(民医連新聞2002年12月11日/1295号)

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