民医連新聞

2014年9月15日

フォーカス 私たちの実践 精神科病棟で口腔ケア熊本・菊陽病院 歯磨き習慣つくり生活にリズム 毎日の声かけを欠かさずに

 五年、一〇年という長期入院患者が多い精神科病棟。特に重症の患者が多い病棟では、医療的ケアが優先され、生活の援助が遅れてい るところもあります。熊本・菊陽病院は精神科の単科病院ですが、四年前のリニューアルを機に六病棟のうち三病棟に介護福祉士を配置。それまで不十分だった 口腔ケアにとりくんでいます。

 「重症患者が多い閉鎖病棟にいますが、四年前に配属されてきた時、床頭台に歯ブラシが置かれたままで、長く使われていないと気づきました。歯科治療を受けている患者もほとんどいませんでした」。そう話すのは、介護福祉士の川邊智樹さん。
 五四床の病棟の三分の二は長期入院の患者です。川邊さんら介護福祉士は、日常生活の援助を通して生活リズムを整え、QOL(生活の質)向上につなげたいと考え、その一つとして口腔ケアの援助を始めました。

個々のペースに合わせて

 三〇人を対象としました。見守りが必要な患者が一四人、声かけのみでいい患者が一六人です。まずは一日一回の歯磨きを目標に、夕食後に行うことにしました。
 「患者さんの多くは歯磨きをほとんどしたことがなく、最初は拒否することが多かったです。特に、不安定な時は声をかけても無視されたり、時には歯ブラシ を投げつけられることもありました」と川邊さん。無理強いはせず、個々のペースに合わせて声かけをしていきました。歯磨きをすれば気持ちがいいこと、歯を 大切にすることで食事もおいしく食べられるようになることなどを、折を見て話すようにもしました。

マンツーマンで信頼築く

 重視したのは、拒否されたり、歯磨きにつながらなくても、必ず毎日声をかけること。マンツーマンで続け、次第に患者と職員間に信頼関係ができてきました。
 一カ月以上にわたり、拒否を続けてきた患者が、ある日突然歯ブラシを持ち、以来、毎日しっかり歯磨きをするようになったこともあります。入浴への拒否が 強かった別の患者は、歯磨きが習慣化すると、入浴もできるように変わりました。
 川邊さんは、「歯磨きという口腔ケアを機に、ひげそりや髪を整えるといった整容にもつなげていきたいと思っています。外出もなかなかできず、生活リズム が作りにくい入院生活の中で、歯磨きが一つのきっかけになれば」と話します。また、この口腔ケアを機に、歯科治療につながった人もいました。

「気持ちいい」 7割

 昨年、口腔ケアを行っている患者を対象にアンケートを実施。すると、歯磨きを「気持ちい い」と回答した患者は七一%にのぼりました。一方、歯磨きを「毎食後」行っている人は一七%にとどまり、八割以上は一日一~二回です。三三%の人は、歯磨 きを機に他の日常生活についても「考えるようになった」と回答し、九二%が「歯を大切にしようと思う」と答えています(下グラフ)。
 川邊さんは、「精神科の患者さんの多くは、自分になかなか関心を持つことができません。職員がマンツーマンで声をかけ、口腔ケアを見守る中で信頼を築 き、自分自身への関心も芽生え、生活リズムが作れたのだと思います」と言います。看護師、介護福祉士の会議で定期的に振り返りを行い、最近は、一日二~三 回の歯磨きを行うことを目標にしています。
 「患者さんが、日常生活と清潔への関心を取り戻し、いずれは自分でできるように、自立につながるような援助を今後もしていきたいです」。

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