医療・看護

2015年3月3日

フォーカス私たちの実践 透析診療所の災害対策 東京・すながわ診療所 透析診療所で災害が起きたら… 実践的訓練重ね、改善図る

 東日本大震災で震度五弱を経験した透析専門のすながわ相互診療所(東京)。設備の備えから緊急時の連絡方法などを全職員で見直し、訓練を重ねる中で、不十分な部分も見えてきました。どうバージョンアップしたか、看護師長の菅原今日子さんの報告です。

 すながわ相互診療所は、透析ベッド五〇床、管理患者数一二〇人、職員も三〇人を超える大型診療所です。送迎車七台を所有し、自家発電なし、透析用貯水タンクは一クール分二五トン。震災後は一カ月にわたる「計画停電」のため、停電時間を避けて午前七時から透析開始するなど、毎日、透析時間のお知らせに追われました。

3チームに全職員を配置

 二〇一二年五月、全職員で課題を洗い出しました。「備蓄や転倒防止対策は大丈夫か?」「透析中に災害が起きたときの避難の方法は?」など出された意見をもとに、「施設・設備・備蓄品対策チーム」「連絡方法検討チーム」「災害対策マニュアルチーム」の三チームを作り、全職員を配属しました。月一回のリーダー会議で検討しています。「具体的な対策はチームがリーダー中心にすすめ、月一回のリーダー会議で到達を確認します」と、看護師長の菅原さんは言います。

〈施設・設備・備品対策チーム〉
 立地自治体の立川市には、災害時の医療機関への電気・水の供給の準備がないことを問い合わせて確認。診療所として二週間分の透析物品と三日分程度の食料備蓄が必要と判断し、購入しました()。災害食の試食も。水の備蓄にもなるウオーターサーバーを休憩室に設置しました。
 透析室内で転落の危険がある血圧計、パソコン、患者・職員用のロッカーと下駄箱は固定。階段には夜光テープを、全てのガラスに飛散防止フィルムを張りました。

表

〈連絡方法検討チーム〉
 職員の携帯や自宅のメールアドレスを災害用パソコンに登録。「非常持ち出し用患者情報」は紙ベースにし、二週間ごとに更新しています。管理者は患者連絡用のPHSを常時携帯するように。災害時に電話が混み合っても、通信制限を受けない災害時優先電話と、送迎車六台を災害時規制除外車両に登録しました。
 患者に渡す処方控えに透析の情報とアレルギー、禁忌薬、感染症情報を追加し、二週間ごとに更新。患者向けの「災害伝言ダイヤル体験」も三回実施しています。

〈災害対策マニュアルチーム〉
 患者向け「防災の手引き」を改訂し、毎年全患者に配布。透析中止判断チェックリスト、避難後点呼表を整備しました。職員には、災害発生時の自分の動きをハガキサイズにまとめました。
 透析中に災害が起きた場合、離脱のため回路をハサミで切断する方法が一般的ですが、重症の患者が多いことから切断は困難と判断。一部の血液回路へ離脱回路を導入しました。患者向けに止血の練習もしました。
 避難経路も検証。二階の透析室には避難はしごを設置していますが、窓が小さく狭い上、職員でも恐怖感が強く、患者の避難には使えないと分かりました。

訓練から見えてくる課題

 以上を踏まえ、年三回、訓練を行っています。一回目は、旧マニュアルでの避難方法を検証。「掛け布団で患者をくるんで階段を降りる」としていましたが、実際にやってみると、患者を安全に運び出すことは不可能でした。
 二回目は送迎ドライバーも参加。要介助の患者を車いすに乗せ、四人で抱えれば階段を降りることができました。また、女性二人でも運べる肩掛け式の避難具を導入しました。
 夜間透析中の災害・停電を想定した訓練も行いました。夜間スタッフは六~七人。透析室の電源をブレーカーごと落とし、機器のアラームが鳴り響く中の訓練に。非常灯で明るさは保たれていましたが、ベッド下に置いた患者の靴がなかなか探し出せなかったのが盲点でした。停電の中ではヘルメットが正しく装着できなかったため、スタッフのヘルメット装着練習も実施しました。

*    *

 いま、災害時の事業所全体の動きの把握と共有を検討中です。菅原さんは「設備面はある程度整えましたが、訓練をやるたびに課題が出てきます。ただ、実践的な訓練を繰り返し検討することで、職員の防災への意識は高くなりました」と言います。患者への対応で課題も。「複数の患者さんが診療所の電話番号すら把握してないことがわかりました。患者さんの意識も高めていきたいです」。

(民医連新聞 第1591号 2015年3月2日)

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