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2016年3月8日

フォーカス 私たちの実践 災害対策の整備 京都総合ケアステーションわかば 患者調査で課題浮かぶ 被災地訪問し「備え」見直す

 京都市にある総合ケアステーションわかばの訪問看護師たちが、患者の意識調査や、宮城の事業所での被災体験の聞き取りをもとに、災害対策を見直しています。災害発生時、在宅患者の多くに手助けが必要ですが、そうした人たちをみる在宅事業所には瞬時に対応できる人手がありません。リスクを減らすカギは、「備え」です。

 きっかけは、二〇一一年の東日本大震災を東京で体験した職員の気づきでした。「京都で働きはじめたのは震災から二年目でしたが、災害への備えに東日本と温度差があると感じました」と臼井玲華さん(看護師)は振り返ります。
 臼井さんは、自身が看護研究をしている糖尿病患者が、被災や避難生活に耐えられるか? という点も気がかりでした。既存の糖尿病患者向け災害マニュアルは在宅向けの情報が少ないのです。

患者の9割「備えがない」

 まず、訪問している糖尿病患者の災害への意識や準備状況を聞き取り、課題を整理することに。「災害時に不安なこと」「備えの有無」「災害時の説明を受けたことがあるか」「使っている薬を伝えられるか」など二四項目について質問しました。
 結果は、意識や備えの不足を実感するものでした(別項)。災害時の説明を受けたことが「ない」、備えが「ない」はそれぞれ九〇%。自分の薬やインスリンの名前を「知らない」が五一%、避難先で低血糖が起きた場合「どうすればいいか分からない」が五六%など。
 防災情報を積極的に提供し、患者の意識を高めることや、患者の認知機能に応じて備えを工夫する必要があると分かりました。ところが事業所の災害マニュアルは開設時に作ったきり。近年多発する様々な災害と照らし合わせると、実行性の検証やスタッフへの徹底は十分とはいえませんでした。

被災した仲間に経験きく

 昨年九月、臼井さんたちは宮城県民医連の協力で、坂総合病院(塩釜市)や仮設住宅の被災者、訪問看護ステーションを訪問。発災時の状況や被災体験を活かした対策などを聞きました(写真)。
 医師からは、薬は一週間分の備蓄で何とかなること。避難所の食事はとにかく食べれば良いこと。スタッフはいざという時動けるよう備えるが、患者には「一週間自力で耐えられる備えを」と伝えていることなどが話されました。
 訪問看護ステーションでは、利用者の安否確認の優先順位リストや日常的な備えを教わりました。訪問車にはヘルメットと長靴、懐中電灯を常に積んであり、ガソリンも半分以下にしていないそう。また定期的に震災への備えを啓発するため、「便り」で年一度、呼びかけています。災害のチェックリストを年二回、患者訪問時に持参している事業所もあります。

薬局や開業医の協力も

 宮城訪問後、わかばでは「災害チーム」を立ち上げ、マニュアルや備品の見直しなどを進行中。災害発生時にどの患者から安否確認するか、電子機器使用者や重い認知症など状態をふまえたリストづくりや、災害時の訪問看護用品・備蓄品リスト、内服薬やインスリンの情報を書いた「糖尿病災害カード」を作成。緊急避難場所を知っているかなども訪問時に聞き、知らない患者には伝えています。
 地域の保険薬局や開業医の協力ももらっています。保険薬局は、お薬カレンダーに災害時はお薬手帳とカレンダーを携帯するよう呼びかけるシールを貼りました。あわせて、患者の主治医に緊急時用の薬の処方(一週間分)を依頼し、保存容器も水濡れを防ぐものに工夫。薬剤師は、地域の職能団体の集まりでも「患者の災害対策を支援しよう」と問題提起しています。
 「糖尿病を入口に、全ての患者さんの備えを見直すことになり、良かった」と江藤美佐子所長。
 なおこのとりくみは、民間の財団に研究活動として採用されました。次の糖尿病学会でも報告を要請されました。

(木下直子記者)

(民医連新聞 第1615号 2016年3月7日)

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