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2016年5月24日

緊急連載 特養あずみの里裁判(1) 介護の未来かけ たたかう 木嶋日出夫弁護団長 どんなできごとが刑事裁判にかけられたのか?

 長野・特別養護老人ホームあずみの里で起きたできごとが、刑事事件として訴追されています。弁護団長をつとめる木嶋日出夫弁護士の寄稿で、今号から四回連載します。第一回目は「事件のあらまし」。いったい、どのようなできごとが刑事裁判とされているのでしょうか。

■事件の概要

 二〇一三年一二月一二日午後三時二〇分ごろ、長野県民医連に加盟している特養あずみの里Cチームの食堂で、おやつとして提供されたドーナツを食べていた八五歳の女性入所者が、ぐったりして意識を失っているところを、遅れて食堂に入ってきた介護職員が発見しました。職員による救急措置、救急隊による救急措置と病院への救急搬送がなされましたが、女性は意識がもどらないまま、一四年一月一六日、入院先の病院で亡くなりました。
 このできごとをとらえて検察は、一四年一二月二六日、異変があった時は女性の隣で食事全介助の男性入所者にゼリーを食べさせていた准看護師を、女性に対する注視を怠りドーナツを誤嚥・窒息させ、心肺停止状態におちいらせ、低酸素脳症により死亡させたとして、「業務上過失致死」で長野地裁松本支部に在宅起訴したのです。

 特養あずみの里は定員六五人の老人介護施設ですが、入所者はA、B、Cの三つのチームに分けられており、当時Cチームの定員は二七人でした。その日は、一七人の入所者がCチームの食堂で九つのテーブルについていました。「食事全介助」の入所者が二人いて、職員がおやつのゼリーを一口ずつスプーンですくって食べさせなければならない人たちでした。
 「食事一部介助」の入所者は二人いました。一三人は「食事自立」でしたが、食事中に移動を始めてしまうなど要注意の人が少なくとも八人はいて、特に注意して見守る必要のない人は、ほんの数人だけでした。
 その日異変を起こした女性は、食事は自立でしたが、義歯が無く食べるペースが速いことがあったので、介護職員の皆さんが女性に箸を使用させたり食べ物を小分けにしたりして、食事のペースを調整していた人でした。この女性に「誤嚥」のおそれがあったわけではありませんが、異変の六日前、おやつの形態が固形食からゼリー系のものに変更されていました。
 検察はこのことについて、起訴状では過失の内容として触れていません。しかし、冒頭陳述では、准看護師がおやつの形態変更を知らなかったことをとがめてきています。

■准看護師のどこに違反が

 施設の介護職員は全部で二三人であり、Cチーム担当の介護職員は八人でした。看護師は師長を含め六人いて、入所者六五人全員に対する看護業務が基本でしたが、施設では、介護現場が大変だということもあり、看護師にも「応援」として、一部介護業務をさせていました。
 この日のおやつ担当の介護職員は二人でしたが、一人の介護職員は、入所者の排泄介助が長引いたため食堂に来るのが遅れたのです。起訴された准看護師は、この日のおやつ介助は応援として入りました。一七人の入所者にドーナツやゼリーを配り終えた後、食事全介助の男性入所者の隣に座り、介護職員が運んでくれたカフェオレをひと口飲んで、男性入所者にゼリーを食べさせはじめました。三口食べさせたとき、遅れて入ってきた介護職員によって、女性の異変が発見されたのです。
 この准看護師に一体どのような注視義務違反があったというのでしょうか。
 〈次回は「ずさんな捜査・起訴のねらい」について〉

(民医連新聞 第1620号 2016年5月23日)

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