副作用モニター情報(薬・医薬品の情報)

2016年11月16日

【新連載】19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬の副作用

 フルチカゾン(商品名フルタイドなど)、ブデソニド(パルミコート、シムビコートタービュヘイラーなど)、ベクロメタゾン(キュバールなど)、シクレソニド(オルベスコなど)、プレドニゾロン(プレドニンなど)、サルメテロール(セレベント、アドエアなど)、チオトロピウム(スピリーバなど)、グリコピロニウム(ウルティブロ、シーブリなど)、ツロブテロール(ホクナリンテープなど)、テオフィリン(テオドールなど)

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○ 喘息や慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)の治療には吸入、貼付、内服など様々な剤型が用いられています。吸入薬としては、ステロイド、β2作用薬、抗コリン作用薬、あるいはこれらの組み合わせ製剤が開発されており、当副作用モニターにも多くの症例が報告されています。
○ 吸入ステロイド製剤(ICS)については、これまでに成分名フルチカゾン(商品名フルタイド)152件、成分名ブデソニド(商品名パルミコート)46件、成分名ベクロメタゾン(商品名キュバール)33件、成分名シクレソニド(商品名オルベスコ)8件の報告があり、主な症状は「嗄声」「喉の違和感」「カンジダ」「口腔内の症状」などでした。
 最も報告件数の多いフルタイド(152件中エアゾルによる報告は6件のみ)の内訳は嗄声43%、咽頭症状16%、カンジダ以外の口腔内症状9%、カンジダ6%でした。他の製剤と比較して「嗄声」の割合が多いことが特徴であり、フルタイドディスカス(平均粒子径5.2μm)から、より粒子径が小さく肺沈着率の高いオルベスコインヘラー(0.9μm)やキュバールエアゾール(1.1μm)への変更で改善が見られた例が報告されています。
 「カンジダ」については、フルタイドの報告件数の6%、パルミコートタービュヘイラーでは8.7%を占めていましたが、キュバールエアゾールでの報告はありませんでした。
「眼圧上昇」については、フルタイドのみ報告が寄せられていました。「民医連新聞」掲載記事を紹介します。

副作用モニター情報<276、277> ステロイド吸入剤フルタイドによる眼圧上昇
 吸入ステロイド剤は、全身性の副作用が少ないとされています。しかし、わずかとはいえ肺内へ沈着し、吸入後うがいを行わなければ消化管にも到達します。長期間に高用量を使う場合は、全身性の副作用発現の可能性がありますので、留意が必要です。
【症例1】小児への投与で200μg/日から開始 し、400μg/日に増量してから約1ヵ月で頭痛や目の奥の痛みなどの症状が見られ、眼科を受診しました。眼圧が26mmHgあり、キサラタン点眼Rの治療を開始。吸入剤の量を100μg/日に減量しましたが、1ヵ月後も眼科治療が続いています。
【症例2】基礎疾患に緑内障があり点眼による治療中の患者で、400μg/日を継続使用、約4ヵ月で眼圧の上昇が見られましたが、点眼薬の種類を増やし眼圧はコントロールできています。  

 ステロイドによる眼圧上昇は、通常は可逆的ですが、眼圧回復に時間がかかり、まれに視野障害が回復しないこともありますので、早期発見が重要です。人によって感受性に差があり、年齢も乳幼児や高齢者ほど反応性が高いとの報告がされています。もともと眼圧が高い人や高齢者に対してステロイド吸入剤を高用量で長期に継続する場合は、定期的な眼圧測定をすすめます。

(民医連新聞 第1413号 2007年10月)

副作用モニター情報〈320〉 吸入ステロイド剤・オルベスコインヘラーによる口腔カンジダ症
 吸入ステロイド薬は製剤ごとに、剤型、粒子径の違いによって、肺への到達率、副作用発現率、経口吸収率などに差があります。また、嗄声や口腔カンジダ症など口腔・咽喉頭への副作用は、吸入器や粒子径に影響されます。
 オルベスコの主薬であるシクレソニドは、肺に吸入された後、組織中のエステラーゼによって加水分解を受け、活性代謝物に変わるプロドラッグ(prodrug)です。 また、そのエアロゾルは1μm程度の微細粒子の割合が高く、末梢気道まで効率よく到達するため、嗄声や口腔カンジダ症など局所の副作用が少ないと期待されていました。
 しかし今回、当モニターに口腔カンジダ症が報告されています。
【症例】50代男性。口腔内カンジダ症出現のためフルタイド、キュバールの中止歴あり。プレドニゾロン2.5mg1錠を内服中で、ピークフロー値 (PEF)は朝200~250、夕300~350で、大きな発作はなく経緯していた。オルベスコが追加された3日後、喉がイガイガし、白いカビのようなものが出た。吸入は朝食前にし、吸入後のうがいも行っていた。開始7日後にオルベスコを自己中止した。その2週間後、受診時に口内に小白苔と発赤があり、口腔内カンジダ症を疑い、ファンギゾンシロップを処方。その後回復した。 

 オルベスコによる口腔カンジダ症の発現件数は、承認時1件(0.2%)で、経口ステロイド服用中にオルベスコを追加投与して、口腔・咽頭の副作用が増えたとの報告はないとされています。プロドラッグであり、口腔内では活性体が少ないと言われる製剤であっても、今症例のような場合もあります。投与後の観察が重要です。とくに、吸気の力が低下した患者では、吸入補助具(スペーサー)を使用して、口腔内に薬剤が付着しない工夫も必要だと思われます。

(民医連新聞 第1462号 2009年10月19日)

○ 長時間作用性β2刺激吸入剤(LABA)については、成分名サルメテロール(商品名セレベント)による報告がこれまでに58件寄せられています。主な内訳は、動悸15.5%、嗄声10.6%、振戦8.6%、筋肉のつり8.6%でした。

○ 吸入ステロイド製剤(ICS)と長時間作用性β2刺激(LABA)の組み合わせ製剤では、商品名アドエア114件(エアゾールによる報告は4件)、商品名シムビコートで35件の報告が寄せられており、単剤でみられた咽頭違和感、カンジダ、動悸、振戦などの症状がありますが、いずれの製剤も嗄声の報告が3割を超えていることが特徴でした。アドエアディスカスによる嗄声は、より粒子径の小さいシムビコートビュヘイラーや、ICSのオルベスコインヘラー、キュバールエアゾール、パルミコートタービュヘイラーなどへの変更による改善例が報告されています。また新規のβ2刺激剤を含有する商品名レルベアについても嗄声、足の攣りなど徐々に報告が上がっています。
【症例】30代女性 咳が続いており、クラリシッド、カルボシステイン、キプレスに「シムビコートタービュヘイラー」を追加。1日2回。1回2吸入。初日2回使用し、寝る前に動悸があり寝付けなかった。翌朝使用後も、手足に冷えと痺れ、めまい感、上半身の湿疹があり受診。パルミコートに変更となる。変更後症状は自然回復した。

○ 長時間作用性抗コリン吸入剤LAMAについては成分名チオトロピウム(商品名スピリーバ)の報告が89件寄せられています。口渇と排尿異常関連がともに30%を占め、嗄声が6.7%、便秘3.4%、でした。

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副作用モニター情報<262> 抗コリン吸入剤 スピリーバによる排尿困難
 スピリーバ(チオトロピウム)は2004年12月に発売され、1日1回の吸入でよく、長時間型の抗コリン吸入剤としてCOPDの患者への使用が急速に広がっています。このスピリーバによる排尿困難の副作用が2006年10月までに3例報告されました。
 年齢では、70代男性が2例、80代男性が1例です。発現までの期間は、2週間、1カ月、4カ月半とまちまちです。80代の例は、前立腺肥大の排尿困難症の治療中で添付文書上は禁忌でした。今回の副作用の発生は、いずれも高齢の男性でした。加齢による前立腺肥大の進行がベースにありました。またスピリーバは、長時間作用型の抗コリン剤であり、加齢による腎機能の低下によって蓄積が起こったと考えられます。
 高齢者や男性への使用は、風邪薬など、ほかの抗コリン作用を持つ薬剤との併用に注意が必要です。使用前・中は、外来などで問診や薬歴管理、ていねいな副作用チェックが必要です。スピリーバは、その対象疾患から使用は数年以上、生涯にわたることも考えられます。重篤な頻脈性の不整脈などの副作用も報告されており、抗コリン作用の機序による副作用を中心にこれからも注意深くモニタリングを必要とする薬剤です。

(民医連新聞 第1398号 2007年2月19日)

○ 2013年よりCOPD治療薬として発売されているLABA+LAMA合剤についても報告が上がっています。

 

副作用モニター情報<452> 慢性閉塞性肺疾患(COPD)に用いられる吸入剤 より
 COPDの薬物療法は、気管支収縮を支配している迷走神経の緊張を緩和する目的で、吸入型の抗コリン剤が第1選択となっています。第2選択は気管支拡張剤のβ2受容体刺激剤で、吸入型、貼付型、内服、と様々な製剤があり、かつ抗コリン剤と同時に吸入できる配合剤も製品化されています。LABA+LAMA合剤についての当モニターへの報告はまだ少なく、商品名ウルティブロで動悸と口渇の2件が寄せられているだけです。
【症例1】ウルティブロによる動悸
 シーブリでは効果がないのでウルティブロに変更。吸入30分後くらいで動悸出現、10分くらいの安静で回復する。吸入のたびに動悸があるが、吸入しなければ動悸はない。
【症例2】ウルティブロによる口渇
 アドエア250とスピリーバからウルティブロに変更。2週後、吸入後1時間くらいすると全然唾液が出なくなってしまう。もともと口の渇きはあったが、ひどくなった。飴などをなめても改善しない。スピリーバに戻してから症状は改善した。
 いずれも早い段階で問題となる症状が現れています。本剤のデバイスはブリーズヘラー(吸入器)であり、吸入効率が良いからこそ、薬効成分の問題が早期に露見するのかもしれません。

(民医連新聞 第1613号 2016年2月1日)

○ 吸入薬以外の外用薬として、成分名ツロブテロール(商品名ホクナリンテープなど)による副作用報告が過去5年間に101件ありました。(振戦38件、動悸18件、皮膚過敏16件など)β刺激作用に基づく症状が、開始早期に発現する例が多いことが特徴でした。
 15歳未満の小児では0.5mg~1mgの使用でしたが、副作用症状の多くが発赤、かぶれなどの過敏症状であることが特徴でした。
 全体報告例の半数は60歳以上の症例でしたが、ほぼ2mgでの使用であり、低用量からの開始も考慮すべきかもしれません。

○ 内服薬ではテオフィリン製剤による報告が多く寄せられており、過去5年間で117件ありました。(動悸・頻脈17件、悪心・嘔吐・嘔気など27件、振戦8件、痙攣5件 など) このうち血中濃度モニタリングの記載があった症例は4例で、入院によってコンプライアンスが改善し、逆に中毒域20μg/mlを超えた例や、抗生物質クラリスロマイシン(クラリスなど)との併用によるテオフィリン血中濃度上昇が示唆された例、また2医療機関からの重複処方例などが報告されています。特に小児においては発熱時の痙攣には注意が必要です。

副作用モニター情報<242> テオフィリン製剤の誤服用によるテオフィリン中毒
【症例】10代女児で体重46kg。気管支ぜん息で外来受診し、テオドール錠の処方を受ける。処方内容は、テオドール100mg錠と50mg錠を1回各 1錠(計2錠、150mg)、1日2回の服用だった。しかし、父が誤って100mg錠と50mg錠を1回2錠ずつ(計4錠、300mg)服用させてしまった。服用3日目に、祖母がその誤りに気づき、その日の夕方は休薬し、翌日(服用4日目)から正しい量(1回150mg)を服用した。服用5日目に、吐気、 嘔吐、下痢、手のしびれ、過呼吸が出現し入院となる。テオフィリン中毒と判断し、薬用炭を経口投与したが、嘔吐。補液、カリウム補給で症状は次第に軽快 し、3日後に退院した。テオフィリン血中濃度は、入院時49.1μg/ml(17時30分)、44.0μg/ml(20時30分)、入院翌日 20.0μg/ml(6時00分)。血清カリウム値は入院時2.8mEq/L であった。
 テオフィリンの血中濃度が一定になるのは約3日です。血中濃度が40μg/ml以上は重篤な中毒で、心停止を起こす可能性があり、注意が必要です。本例では1回の服用量が100mg錠と50mg錠を各1錠(計2錠)という処方でした。調剤薬局の窓口でもそう説明しましたが、実際は100mg錠と50mg錠 を各2錠ずつ服用するものと誤認され、服用してしまいました。
  同一名柄の薬剤を2種類以上処方すると服用方法が複雑になります。服用方法は単純にし、事故防止につとめましょう(本例の場合、1回50mg錠を3錠として処方する、なども1つの方法です。)

(民医連新聞 第1377号 2006年4月3日)

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■画像提供 広島民医連 (株)ピーエムシー企画
 http://www.pmc-kikaku.jp/about/index.html

 薬学生の部屋

**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました。
 今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載しています。

(下記、全日本民医連ホームページで過去掲載履歴ご覧になれます)
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
 
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン薬の副作用
  22.排尿障害治療薬の注意すべき副作用
  23.産婦人科用剤の副作用

以下、60まで連載予定です。

 ★医薬品副作用被害救済制度活用の手引きもご一読下さい↓
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/data/110225_01.pdf

◎民医連副作用モニター情報一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話し〕一覧
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k01_kusuri/index.html

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