MIN-IRENトピックス

2016年11月22日

医療に忍び寄る戦争法 膨らむ軍事医療 日本平和委員会 平山武久さんに聞く

 安倍内閣は一一日一五日、戦争法(安保法制)にもとづき「駆け付け警護」などの新任務を自衛隊に付与する閣議決定をしました。同法は医療にも大きな影響を与えています。防衛省は今年九月、戦場で負傷した自衛官に対して医師がいない下で緊急処置を行う、「第一線救護衛生員」の資格認定などを柱とする新制度導入を発表しました。なぜ今? 問題は? この問題に詳しい日本平和委員会常任理事の平山武久さんに聞きました。

(田口大喜記者)

 取材は埼玉県狭山市と入間市にまたがる航空自衛隊入間基地の周辺へ。基地を中心につくられた街は、フェンスや格納庫が多く、物々しい雰囲気です。二〇分の間に、戦闘機や輸送機八機もの自衛隊機が離着陸しました。「訓練中のものがほとんどですが、自衛隊幹部が移動に使っているものもある」と平山さん。約一〇年基地の近くに住んでいたころは、防音を施した家でも、爆音で寝ていた子どもが起きてしまう環境だった、と話しました。

平山さんの話

戦場での救護を想定して

 自衛隊には、「衛生科員」と言う職種があります。負傷した隊員を救護するのが役割です。
 今年九月、防衛省は第一線の救護能力向上についての報告を発表しました。医師による治療を受けることが困難な戦場で負傷した隊員を救命するため、定められたカリキュラムの教育を受けて「第一線救護衛生員」と認定された救急救命士・准看護師衛生科員によって有事緊急救命処置を行う態勢を整備する、としています。気管切開、気管内挿管、胸腔穿刺、輸液、鎮痛剤投与、抗生剤投与などの医行為を医師でない衛生科員が行えるようになるという内容です(表1)。
 「第一線」とは、敵にいちばん近い「戦線」のことで、日本の自衛隊員たちが砲火下にある場面です。原則、第一線には交戦者しか存在しないのです。
 「第一線救護」は、「戦闘防護」しながらの救護となります(下図)。救護と戦闘が一体になります。自衛隊が国外で戦闘することを想定しているのです。
 また、第一戦救護活動の方法は、米軍の基準であるTCCC(Tactical Combat Casualty Care=戦術的戦傷救護)を原型にしています。自衛隊はアメリカと共に戦争をするのだから、救急救護も同質に、ということでしょう。すでに二〇一五年九月以降、陸上自衛隊は実動訓練を米軍と合同で行い、TCCCによる第一戦救護を学んでいます。

表

イラスト

戦争のための病院強化も

 あまり知られていませんが、自衛隊病院・衛生施設の新設や強化も急速にすすめられています。
 入間基地では、自衛隊病院を新設する予算を二〇一五年度から計上。自衛隊の飛行場が近く、戦地で負傷した隊員を受け入れる利便性が高いためです。建設予定地はもともと、米軍基地内の留保地です。市民公園にする計画でした。米軍から市民に返還させた土地を自衛隊施設が使用する…市民の願いに逆行します。
 入間基地周辺は医療過疎地域で、大きな病院がありません。防衛省はこの自衛隊病院を、「自衛隊員の診療に支障をきたさない範囲で、救急搬送されてくる患者を受け入れ、地域医療に貢献する」と説明しますが、自衛隊のための職域病院であるうえに、飛行中の航空機の中での手術などの「航空医学」の技術・機能を持たせる計画もあるほど。また受け入れ対象は外傷に限るなど、本気で医療過疎をなんとかしようというものでないことは明らかです。

「軍事医療」について

 軍事医療と国民の健康を守る医療は全く異なるものです。
 防衛医大防衛医学研究センターは、「戦傷学」という言葉を使って研究を発表しています。「戦傷」とは、爆発物による損傷、広範囲熱傷(やけど)、などを指します。また、防衛医大や東京・自衛隊中央病院に、感染症への対処能力を強化する施設機材の強化がすすめられています。これは自衛隊の海外派遣先での感染症リスクへの対策が目的です。
 「戦闘力の維持・増進と傷病者の迅速な前線復帰」こそ、軍事医療の本質です。
 また医療の軍事化の先は国民医療の変質の道に続いています。

軍事医療は憲法に反する

 安倍内閣は、自衛隊の南スーダン派遣について「死者は出ない」、「戦闘ではなく衝突」などと答弁していますが、それはたてまえです。いま大急ぎで戦時医療態勢を確保しようとしている事実こそが、自衛隊の向かう先が「殺し殺される現場」であることを示しています。
 政府は、これらの制度改悪を国会での審議もせず、報告書のみで押し通そうとしています。医療に限った話ではありませんが、これは大問題です。国会で「戦場で傷ついた隊員のいのちを救うため」という、本当のことを訴えるのは都合が悪いのです。

*    *

 軍事医療は医療分野での“憲法九条違反”と言えます。医療そのものが、戦争の推進に使われてしまうのです。国民のいのちと健康を守るためにも憲法九条を生かすことが力になります。
 医療者のみなさんは問題の「当事者」です。大いに議論して、行動してください。
 憲法を破壊し、前のめりで「戦争法」の具体化をすすめる安倍政権に反対の声を広げましょう。

(民医連新聞 第1632号 2016年11月21日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ