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2017年1月5日

「自殺図る人に支援を」ERと県が協同事業 青森・健生病院

 自殺未遂で搬送されてくる患者にもっと関われないか―。青森県弘前市にある健生病院のER集団がこんなことを考えました。未遂患者を記録し分析すると、過去に自殺を図っていた人が50%を超え、生活苦や疾病、複雑な家族関係などの背景も共通していました。この報告を目にした青森県が、同院に協力を要請。自殺未遂者支援のモデル事業が始まっています。(木下直子記者)

 健生病院が年間受けている救急搬送者約一八〇〇人中、自殺未遂者は四〇~五〇人。こうした人を精神科医につなぐなど意識的な支援を行ってきましたが、居合わせる職員で対応が違うという課題が。そこで五年前、当時の看護長が「再自殺企図患者リスク評価シート」を作り使うことにしました。過去に自殺を図った経験、死ぬ理由、まだ死にたいか、などの設問を、患者が会話可能な程度になれば、確認します。「まだ死にたい」人や「幻覚」「幻聴」など、リスクの高い項目は太字にし、太字該当が三つ以上の患者は、医師・看護師で治療方針を考えます。

記録で未遂者の傾向つかむ

 こうして対応を統一したことで、自殺未遂者の傾向が見えてきました()。
 「家族背景や生育歴に課題を抱えている」と、同院地域連携室の工藤聡子主任。生活困窮や孤立、家族関係など生活背景が原因で自殺を図ったと思われる人が来れば、工藤さんが呼ばれます。
 評価シートの綴りをめくると、厳しい境遇に思い詰めた人たちの姿が。我が子のジャングルジムで縊死(いし)しようとした三〇代男性は病気休職中でした。包丁で腹を刺した四〇代男性は、持病の悪化を理由に給与を正社員からパート並みに落とされ、乳児を抱え困窮していました。親子二人で母親の年金で暮らしていたが、その親が死に、故人の残薬を大量に飲んだ人も。
 「苦労を思うと、ため息でる患者さんばっかりだ」と、ERの科長・太田正文医師。忙しい中でもERがこの問題にとりくむ理由を聞くと、「私たちがやらなきゃ、どうする?」と、声が揃いました。なぜ救急搬送されたのか、患者さんの社会背景を意識しているからこその姿勢です。

グラフ

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 青森県は二〇一五年一〇月から自殺未遂者を支援するモデル事業「ハートケア」を、健生病院をモデル病院に始めました。ERの医師などが支援が必要と判断した自殺未遂者を、公的機関が連携し再企図を防止するしくみ。家族も対象です。これまで、精神科や支援機関につながっていない患者に特に有効だと病院は見ています。
 ERの葛西美香子主任(看護)が、評価シートからまとめた自殺未遂者の傾向と複数の専門機関の支援の必要がある、と地域の救急医療の研究会で報告したことが注目されました。弘前保健所も消防署の協力による過去二度の調査で自殺者は減ったのに、未遂者が減っていない実態を把握していました。救急医療機関の未遂者の支援にも課題がありました。
 「健生病院に搬送されてくる人に合わせて、途中で対象地域も拡大しました」と、弘前保健所の三上のり子課長。「熱心な健生病院なしに、できませんでした。モデル事業は今年度いっぱいですが、支援は継続します。支援機関の連携で相乗効果が生まれれば」。

(民医連新聞 第1635号 2017年1月2日)

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