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2017年8月8日

世界が踏み出した 「核なき未来」への道 核兵器禁止条約国連会議で採択

 地球上で初めて広島と長崎に原子爆弾が投下されてから七二年。世界は「核兵器のない世界」への確かな一歩を踏み出しました。七月七日、国連会議で核兵器禁止条約が一二二カ国の賛成で採択されました。この条約の画期的な点とは? 長崎の被爆者・山本英典さんと、原水爆禁止運動を担い、三月の交渉会議にも参加した高草木博さん(原水爆禁止日本協議会代表理事)に聞きました。

生きている間に達成された

東京都原爆被害者団体協議会副会長 山本英典さん

涙が出る、本当にうれしい

 これまで、核兵器を違法とする国際条約はなく、日本政府も核兵器は「違法ではない」と言い続けてきました。「何が合法だ! あんな残虐で、非人道の極みの兵器が!」と悔しかった。
 一二歳の時、爆心から四・二km地点で被爆しました。八月九日一一時二分、突然「真っ白なベール」に包まれました。同級生三〇人のうち、直爆死は二人、一二人が多発性骨髄腫、多臓器不全、がん、自死などで若死にです。私も、一九九五年、原因不明の大量下血をして以降、胃がん、大腸がん、心疾患など大病つづきです。
 長年、核兵器廃絶と原爆被害への国家補償を求める活動をしてきましたから、核兵器禁止条約の採択は、本当にうれしかった。「核兵器=違法」と国際社会が認めたのです。しかも、開発から使用、威嚇まで全てが禁止、「違法」です。ひとつの大きな目標が、生きている間に達成されました。人類にとっても大きなステップです。
 また、被爆者の果たしてきた役割が評価された上、被爆者「援助」も書き込まれました。各国の申請や報告で国連の管理機関が状況を監視するしくみも。国連中心で本気で「核なき世界」をめざす、行き届いた条約です。
 一方、日本政府はこの条約締結に向けた国連会議に参加もせず、そっぽを向きました。歴代内閣は、毎年八月六日、九日に「核兵器をなくす」などと言いますが口先だけ。怒りが込み上げます。

ヒバクシャ国際署名

 昨年四月から私たちは、「ヒバクシャ国際署名」を呼びかけてきました。誰でもとりくめる、誰にでも訴えられる署名です。
 署名は、選挙権と同じ民主主義の基本、意思の表明です。憲法を守る運動でもある。私たちは、幾多の被爆者署名()を、被爆者救援運動や立法につなげてきました。今回の条約もその成果。国際政治をも動かせることに自信を持ち、さらに生かすべきです。条約前文の結びには、「国連、国際赤十字、…ヒバクシャの“努力(the efforts)”を認識し、以下のように合意した」とあります。ひとりひとりの人間の、非人道な核兵器に対する怒りが国際政治を動かしたことが、「努力」という言葉に表されています。署名はこの「努力」を数字で表すものです。
 現在約三〇〇万筆。これが全世界で億単位に広がれば、各国は自信を持って条約批准、実行に向かえます。日本でも国民の声で後押しして政府に批准させましょう。

図

被爆者運動のこれから

 私たち被爆者は様々な分野の人にささえられ、励まされて運動してきました。被爆者に接することで、否応なく核兵器が非人道的なものだと知り、「核兵器廃絶」への思いに至るからでしょう。今回の条約採択はこうした協力の成果でもあるから、なおうれしい。
 被爆者は年をとり、自分で署名を集めることも難しくなってきました。一方、被爆者が訴える「ヒバクシャ国際署名」だからと、署名を集めて被爆者へ返し励まそうという活動もあるそうです。平和市長会議の呼びかけで、多くの自治体の長(七月二四日現在の集計で七四六人)も署名しています。
 「二〇二〇年まで」を目標にしていた核兵器禁止条約を、一七年に採択した世界の動きは予想もつかないものでした。このスピードに追いつくべく日本でも、そして被爆者も、まだまだやりますよ!
(丸山いぶき記者)

やまもと・ひでのり
 東京で暮らす被爆者でつくる「東友会」の業務執行理事。東京都原爆被害者団体協議会副会長。2003年から、原爆症集団訴訟原告団長、ノーモア・ヒバクシャ訴訟原告団長


山形県知事 ヒバクシャ国際署名に応じる

 【山形発】七月一八日、ヒバクシャ国際署名山形県連絡会として山形県の吉村美栄子知事に面会し、ヒバクシャ国際署名への賛同を申し入れました。快く署名に応じた吉村知事は「私も広島平和記念資料館に行ったことがあります。衝撃を受けました。あの事実を知ったら、誰もが核兵器は使わせてはならない、いらないと思います」と語りました。全国の知事では一六人目、東北では岩手、宮城に続き三人目です。
 山形県では、四月に「ヒバクシャ国際署名山形県連絡会」を結成しました。県生協連、婦人連盟、宗教者平和協議会、民医連、原水禁、原水協の呼びかけで、幅広い一七団体が賛同。県連絡会独自の署名用紙を作成し、今年度末までに一〇万筆の目標を掲げて(県人口の約一割)、街宣署名行動や各団体のとりくみを交流しています。(平山秀夫、県連事務局長)


「核で戦争解決せず」が結論

日本原水協代表理事 高草木博さん

 この条約は、核兵器廃絶に向けた道を開いています。実現したのは国際社会の多数の意思であり、国際政治を草の根から動かした被爆者と市民の運動です。

開発、実験、使用、威嚇も禁止

 もともと「将来の世代を戦争の惨害から救う」こと、そのために「原子兵器を一掃する」ことは、二つの世界大戦をへた戦後政治の出発点でした。被爆者と原水爆禁止運動、世界の反核平和の声が国際政治を動かしたのだと思います。
 条約第一条は、核兵器を全面的に禁止した画期的内容です()。一条(a)では、核兵器を「つくること」「もつこと」を全面的に禁止しました。さらに(b)(c)では、核保有国と非核保有国の間での核兵器の授受もすべて禁じました。
 (d)も重要な部分で、核兵器の「使用」だけでなく「使用の威嚇」も禁止しました。「核兵器の所有を禁じれば十分では」という意見もありましたが、最終的に「使用の威嚇」を盛り込み、核脅迫を「安全保障」と言い張る「核抑止論」を否定したのです。
 (g)では、核兵器積載艦などを自国の領内に核兵器を置かせることも禁じました。核兵器積載可能な米艦船の母港化を許す日本政府の態度も問われることになります。
 これで、条約に加わっていない核保有国も、条約批准国に核兵器を持ち込んだり、「核の傘」に誘うことができなくなります。

表

世界の運動と声が実現した

 条約は、人類の理性が発揮されたものと言えるでしょう。二度の大戦の反省から誕生した国連は、紛争の平和解決を創立の原則とし、一九四六年の国連決議第一号で核兵器の廃絶を目標に据えました。紆余曲折はあってもその力が国際社会に広がり、条約に結実しました。
 その一つの大きな要因となったのは倫理的な力です。「核抑止論」の影響力は根強くありましたが、二〇一〇年以降、人道の視点から核問題をみる新たな流れが国際政治の中で生まれました。「核兵器は国家の安全保障ではなく、人類の安全保障の問題だ」という主張です。一二年にスイスなど一六カ国が核兵器の非人道性と非合法化を訴える共同声明を発表。年々、賛同国が増えていきました。
 もうひとつは法の力。これまでも生物兵器や化学兵器、対人地雷、クラスター爆弾など、国際人道法に反する大量破壊兵器や残虐兵器が相次いで禁止されましたが、最悪の核兵器を明示的に「違法」とするものはありませんでした。条約はこの法的ギャップを埋め、核兵器に関わるあらゆる活動を、禁止した点に意義があります。
 さらに、民主主義の力でもあります。いわゆる「冷戦」が終わり、核兵器の廃絶を求める国は国際政治でもすでに長い間、多数を占めていました。しかしアメリカなどの核大国は一つでも反対があれば合意が成立しない「コンセンサスルール」を使って、核兵器の禁止を妨げてきました。今度の禁止条約は、廃絶を求める国々が国連憲章の定める多数決ルールを使い、国連総会の決定で交渉会議を開催し、圧倒的多数の政府の支持で採択しました。そこに被爆者や市民社会の代表を招き、一緒に討論したことも民主主義の表れでした。
 交渉会議には、国連加盟一九三カ国のうち一二九カ国が参加しました。核兵器を持つアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮の九カ国、そしてアメリカ主導のNATO(北大西洋条約機構)加盟国は、オランダを除き不参加でした。ほかに、韓国や日本など米国の核の傘の下にある国も参加しませんでした。
 逆の見方をすれば、核保有国と、その同盟国を除けば、もはや「安全保障のために核兵器は必要だ」という国はないということです。
 条約は、すべての国を条約の参加対象とし、門戸を開いています。いま核兵器を持つ国に対しても、(1)核兵器を廃棄したうえで条約に参加する、(2)条約に参加したうえで核兵器を速やかに廃棄する―という二つの道を用意しています。核兵器をなくす意思さえあれば、どんな国でも条約に参加できるしくみです。ですから、自国の政府に条約に参加するよう求める運動がいよいよ大切です。

***

 条約には「ヒバクシャ」の文言が登場し、市民的良心を担う「ヒバクシャ」の役割が強調されています。「不可能だ」と言われても口を閉ざすことなく、あきらめずに声をあげれば、世界は変わるということを教えています。
 日本政府は、北朝鮮の核開発を理由にアメリカの核の傘に入り、条約への署名、批准を拒否しています。しかし、核の傘の下で「核には核を」と脅してきたことが、今の朝鮮半島の危機を招いた原因の一つです。「核兵器のない世界」に踏み出すことこそ必要です。
 ヒバクシャ国際署名を積み重ね、日本政府と世界に核兵器禁止条約への参加を求めていきましょう。(丸山聡子記者)

図

(民医連新聞 第1649号 2017年8月7日)

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