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2017年11月21日

これでばっちり ニュースな言葉 ある歴史教科書を選んだ学校が脅迫された?!どうしてなの?

 今回は、教科書問題についてとりあげます。解説者は、大阪府公立中学校で教師をしながら、子どもと教科書大阪ネット21の事務局長として、教科書検定や採択に政治が介入するべきではない、と活動する平井美津子さんです。最近『教育勅語と道徳教育』(日本機関紙出版センター)を出版しました。

子どもと教科書大阪ネット21事務局長

こたえる人 平井 美津子さん

 今回は、教科書問題についてとりあげます。解説者は、大阪府公立中学校で教師をしながら、子どもと教科書大阪ネット21の事務局長として、教科書検定や採択に政治が介入するべきではない、と活動する平井美津子さんです。最近『教育勅語と道徳教育』(日本機関紙出版センター)を出版しました。

 兵庫県にある私立灘中学校の校長が、「学び舎」という出版社の歴史教科書を選んだことで、大量の抗議はがきが送られてきたことに関する文書を、ネット上で公表したことから、波紋が広がっています。
 このはがきは、「学び舎」の教科書を採択したほとんどの学校に送られていました。はがきの文面は同一のもので、「反日極左の教科書」などと非難し、「こんな母校には寄付をしない」と添え書きされたものもありました。どういう問題なのでしょう?

「学び舎」は反日教科書?

 二〇一六年に初めて教科書に参入した「学び舎」の教科書は、現職の教員やOBなどによって作られています。俗に「進学校」と言われる国立や私立の学校、三八校で採択されました。検定を合格した時には、「慰安婦」を一〇年ぶりに記述した教科書として注目されました。
 日本の侵略の真実を教えさせたくない右派勢力は、「学び舎」の教科書を「反日教科書」と主張し、内容を批判する新聞もありました。また、抗議はがきを送ることをたきつけるジャーナリストさえいました。
 しかし、「学び舎」の教科書は「慰安婦」を記述しているだけではなく、子どもたちが自ら問いを立て、主体的に考えることができる教科書をめざして作られたものです。「木を見て森を見ず」という誹謗中傷が、今回の事態を生んだと言えます。

採択の公開を

 教科書の採択は、公立の場合は主に市町村ごと、私立や国立の場合は学校ごとに行われています。採択を行うのは、公立では各市町村の教育委員会です。
 中学校の場合、九教科それぞれに複数の教科書がありますから、その数は一〇〇種類を超えます。果たして、教育の専門家ではない教育委員が、一カ月ほどの期間にそれらすべてを読み、どれがいいか決定することができるでしょうか? 以前は現場の教師が教科ごとに教科書を読んで調査書を作り、それに基づいて選定委員会で絞り込み、最終的に教育委員会で決めていたのです。
 ところが、文部科学省が二〇一二年に教科書採択の仕組みの変更を行ったため、教職員の声を採択に反映しにくい状況になりました。また、教育委員会制度も変更され、各市町村の首長が教育委員会に介入できるシステムになりました。
 このような動きの中で、教科書採択において首長の意向を教育委員が忖度(そんたく)する動きが現れました。大阪市などでは、教師の声を聞かず、市長に任命された教育委員によって、子どもたちを戦争に向かわせる「育鵬社」の教科書が選ばれるという事態が起きたのです。

* *

 子どもと教科書ネットでは、「子どもたちにとって一番いい教科書を選ぶことができるのは、子どもを目の前にした教師自身だ」と、教科書採択に教師の声を反映させることを要求するとともに、教科書採択の透明化を求めています。未来の主権者を育てるための教科書。みなさん、関心を持ってください。


〈参考〉

「『慰安婦』問題を子どもにどう教えるか」

平井 美津子 著

 90年代後半、元「慰安婦」が名乗り出たことにより、「慰安婦」問題が7社の中学校の歴史教科書に載りました。しかし、右派の激しい教科書攻撃、教育現場への圧力により、現在では「慰安婦」問題の記述がある教科書は1社、授業でとりくむ教師もほとんどいなくなりました。そんな中、韓国で元「慰安婦」に出会い、沖縄では元ひめゆり学徒に教えを請うなど、自ら歴史の現場に足を運んで獲得した「戦争」の実相と「平和」への思いを、子どもたちとともに学んできた大阪府公立中学校教師が著者である平井さん。本書は、彼女が子どもたちに「慰安婦」問題を伝えようととりくんだ20年の記録です。

価格:1,500円+税
発行:高文研
電話:03(3295)3415


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(民医連新聞 第1656号 2017年11月20日)

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