民医連新聞

2018年1月23日

生活保護費 また削減?! 厚生労働省の提案は国民のいのち削る

 厚生労働省は昨年末、生活保護費を引き下げる方針を打ち出しました。生活保護基準は五年ごとに見直されており、二〇一八年度はその年にあたります。一三年度の前回見直しで、メインの生活扶助をはじめ、家賃扶助や寒冷地の暖房費などの加算に大きな引き下げが行われたばかりで、連続削減になります。当事者や支援組織をはじめ、職能団体も反対を表明しています。改悪内容と影響をまとめました。(木下直子記者)

どんな改悪内容か― 子どもたちにも大きな打撃

 具体的な削減内容は―。まず、食費や光熱費などのための「生活扶助」の支給額を三年で段階的に引き下げることが打ち出されています。総額一六〇億円の削減です。この影響は、年齢や家族構成などの世帯により違いはありますが、最大で五%の減額になります。
 子どものいる世帯への加算や支援費も削減対象に(資料参照)。
 まず、ひとり親世帯への「母子加算」は月額平均二万一〇〇〇円が、一万七〇〇〇円に引き下げに。二〇%もの削減です。この加算は、〇五年に一度は廃止され、民主党政権で復活したものですが、再び標的に。総額二〇億円の削減です。
 また、三歳未満の子どもへの「児童養育加算」は、月額一万五〇〇〇円を一万円に。この加算は「一般家庭に支給される児童手当の効果が生活保護世帯の子どもにも等しく及ぶように」という趣旨で、一九七二年以降、児童手当と連動して同額で設定されていました。「引き下げれば、生活保護と一般世帯の間に五〇〇〇円の差が生まれ、一般施策との連動が断ち切られる」と専門家は指摘します。
 家庭学習やクラブ活動への「学習支援費」も削減。現在は定額支給ですが、これを実費支給(年間上限あり)に変え、さらに対象をクラブ活動に限定。家庭学習で使う参考書や図書への支援はなくなります。
 なお、保護世帯の「大学進学支援」として新生活立ち上げ費用の給付や住宅扶助の減額とりやめが打ち出されましたが、結局、利用できる世帯はごく限られる内容。
 「子どもの貧困対策に力を入れる」という安倍首相の言葉の矛盾が際立ちます。

見直し方法に大問題 前回の影響も調べず

 一三年の前回見直しでも、生活扶助は六・五%減額されました。さらに住宅扶助や冬季加算も削減されています。
 ところが厚生労働省は、その見直しの影響も調べず、連続して削減方針を出したのです。
 なにより、引き下げの考え方に大きな問題があります。今回の削減は、生活保護世帯の消費水準を一般家庭で最も低い所得階層「1・十分位層」(所得階層を一〇に分けた下位一〇%の階層)の消費水準に合わせようという考え方に基づいています。
 日本では、生活保護を利用できる暮らしなのに受けていない人が多く(捕捉率※は二割以下)、生活保護世帯と比較した「下位一〇%の層」には生活保護基準以下の生活をしている人たちが多数含まれています。この層に生活保護の生活水準を合わせれば、生活保護基準は際限なく引き下がります。この算定方法の問題点は、すでに前回の改定時にも厚労省の審議会が指摘し見直すよう要望していたことでした。
※捕捉率=生保を受給する条件のある人のうち、受給している人が占める割合のこと。二割以下は国際的にも極めて低い


引き下げに緊急の抗議―長野

 長野県民医連が参加する反貧困ネットワーク信州は、12月18日、生活保護費の引き下げ方針に抗議する緊急声明を発表し、県庁で記者会見しました。
 県連SW部会の代表が、県連で行った「生保実態調査2016報告書」を示し「行政の役割は放置せずに手当てすること。セーフティネットの底が抜ける」と指摘し、引き下げ撤回を強く求めました。(湯浅ちなみ、県連事務局)


生活保護基準が下がるとこんな制度にも影響が出る

■生活保護基準を目安にした諸制度―利用できなくなる人が生まれてしまう

「就学援助」…生保基準額の1~1.3倍の収入の世帯が利用でき、152万の児童が利用中
「生活福祉資金」…生活保護基準の1.8倍以下世帯が対象で、3万1000世帯が利用中
「介護保険の利用料、保険料の減額制度」
「障害者自立支援利用料の減額」
ほか、
「地方税の減免」「地方税滞納処分の禁止」「公営住宅家賃の減免」など

■住民税の非課税―基準が下がり、課税される人が出る 現在3100万人が非課税
 ―非課税でなくなる人は、住民税非課税なら行われていた諸負担の軽減も、されなくなる

「高額療養費の負担限度額」「保育料」「介護保険の負担限度額」「障害者・児のサービス利用料」「難病患者の医療費」

■最低賃金―上がらない。下がる可能性も

 地域ごとに定められる最低賃金が生活保護基準を下回る「逆転現象」が起きた場合、最低賃金を引き上げて解消することになった(08年法改正)が、生活保護基準が下がれば、最低賃金の引き上げは抑制される


「1日1食、もう削れぬ…」 当事者は

 生活保護世帯は約一六四万世帯・二一二万人超(一七年九月)。半数がひとり暮らしの高齢者、四分の一は病気や障害を抱えた人の世帯です。年金未加入や「低年金」の人も少なくありません。
 「これ以上切り詰めるところがない。また引き下げになると、どうしたら良いか分からない」と、生活保護を利用しているAさん(七二)は語ります。Aさんは、長野県でこの問題を受けて緊急に行った抗議の会見(右別項)で、当事者として発言しました。
 勤めていた精密機器工場を首切りされ、「年金が出るまでは」と非正規の仕事で生活をつないでやっと年金生活に。ところが支給される年金額が少なく、生活保護に。医療扶助は助かりますが、日々のやりくりに苦労しています。入浴は週一回、暖房器具はこたつだけ、それで寒さに耐えられなければ布団に入ります。「光熱費はどんなに節約しても基本料金がある。削れるのは食事くらい」と、食事を一日一回にして、体力を使わぬよう、家で横になっていることが多いそう。「『戦闘機に何十億円』というニュースを見ると『生活保護は削るのになぁ』と考えます。弱い人たちから削ることが勝手に決まっていく。生活保護を使っていない人たちにもこの状況を知ってほしい」。

すべての国民に影響 反対意見も相次ぐ

 生活保護基準の引き下げは、国民生活にも大きく影響します。生活保護は、日本国憲法が国民に保障した権利「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を示す指標になっています。たとえば(上)のような諸制度。低所得者支援の制度の多くが生活保護基準をベースにしているのです。
 また、これまで非課税だった低所得者が課税されたり、それに伴い社会保障や教育などで適用されていた減免が受けられなくなる可能性もあります。

***

 引き下げ方針には、全日本民医連のソーシャルワーカー委員会が抗議声明「生活保護基準の引き下げに断固抗議し、権利としての生活保護制度の充実を求めます」を発表。当事者や困窮者支援団体にとどまらず、職能団体の日本精神保健福祉士協会や、地域弁護士会も反対声明を出しています。

■民医連は、生活保護制度の充実を求める緊急署名にとりくんでいる「いのちのとりで裁判全国アクション」の呼びかけに賛同(期限・一月末)。ネット署名もできます。「いのちのとりでアクション」は、昨年末に約一万七〇〇〇筆を厚労省に提出しています。

(民医連新聞 第1660号 2018年1月22日)

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