副作用モニター情報(薬・医薬品の情報)

2018年4月17日

副作用モニター情報〈493〉 バンコマイシン塩酸塩(注射)の注意点

 バンコマイシン(VCM)塩酸塩注射液は、薬剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する薬剤の中心です。ほぼ全量が腎臓から排泄されるため、患者の腎機能によって投与量の調節が必要です。副作用として、レッドマン症候群(投与後すぐに、ヒスタミン遊離により発現するアレルギー反応)、腎障害が知られています。腎障害は血中濃度に依存して発現率が高くなる性質があります。
症例)70代、男性、160㎝、39㎏、腎機能正常 中心静脈カテーテル感染による敗血症(血倍よりMRSA検出)に対しゾシン→バンコマイシンに変更。体重・年齢・身長・クレアチニン値から投与設計を行い、1日1回1250㎎で投与開始。
 投与開始2日目に自尿がなく導尿を行った。3日目に血中濃度測定を行った。結果の判明は血液採取から2日後でトラフ値(最低血中濃度)19μg/mL(正常値10~20)、ピーク値40μg/mL(正常値25~40)だった。5日目の血液検査でクレアチニン値2.64(正常値1未満)と腎機能が悪化したため、5日目の投与は中止、キュビシン隔日投与に変更した。
 日本化学療法学会抗菌薬TDMガイドライン等で、最低血中濃度は10~20μg/mLとするのが、治療効果としては望ましいとされています。その考えからいえば、今回の投与量は適切と考えられます。一方、バンコマイシンの添付文書には次の文章があります。「最低血中濃度(谷間値・次回投与直前値)は10μg/mLを超えないことが望ましい」。今回の症例では、19μg/mLであり、添付文書の記載よりは多くなっています。添付文書は臨床試験時の記載であり、現在の考えは一般的にはガイドラインに従うようになっています。
 しかし、適切に投与していれば副作用が出ない訳ではありません。腎障害発現率は、初回トラフ値10~15μg/mLで21%、15~20μg/mLで20%、20μg/mL以上で33%であったとされています。適切な量でも5人に1人程度は腎障害が起こる可能性があります。腎障害を起こした場合は、3日後に血中濃度測定をしても半減期が延びるため、さらに高い濃度になる可能性があります。その場合には再度血中濃度測定を行う必要があります。
 重篤な腎障害を起こさないために、適正な使用の上、厳重に管理しながら使う薬であると言えるでしょう。

(民医連新聞 第1666号 2018年4月16日)

副作用モニター情報履歴一覧

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ