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2018年11月20日

「気にカン」で“気になる”を発信 支援に“つなぐ” 奈良・健生会

 奈良では、県連の医療活動委員会の呼びかけで「気になる患者カンファレンス」(以下、「気にカン」)にとりくんでいます。きっかけをつくったのは健生会・日の出診療所です。昨年からSDH問診と「気にカン」を始め、法人内でとりくみを広げるためにつくった実演DVDは、県連主催の「気にカン」開き方講座でも上映しました。日の出診療所に学んだ河合診療所のとりくみを取材し、健生会のみなさんにも聞きました。
 (丸山いぶき記者)

 一一月二日昼の一二時半を少し回った頃、健生会・河合診療所の事務所では、「そろそろ始めましょうか」と松永浩彰事務長が職員に声をかけました。集まったのは、外来担当の常勤看護師三人と事務三人、事務長の計七人。「それでは前回からの課題の報告から。まず、Aさん夫婦は―」と、定例の「気にカン」が始まりました。
 前回から継続する課題八事例と新たな二事例を検討。認知症の九○代女性の事例では、「客観的に支援が必要な状態だが家族からSOSが出されず介入が難しい」「介護に慣れたのか、経済的な問題か、家族が介護サービスはもう使わないと言う」「長く在宅療養でとの要望に応えられなくなる」「訪問看護やケアマネと協力し家族と話し合うべき」など、次々意見が出ます。必要なカルテや資料はすぐ誰かが取り出し、一人はパソコンに向かい記録をとります。

■「うちもやってる」を形に

 河合診療所が「気にカン」を始めたのは、今年四月。毎週金曜の午後、一時間の予定で行います。
 きっかけは、一月に行われた法人の医療活動委員会キックオフ集会での日の出診療所の横尾洋美看護師長の報告。「はじめはうちでも昔からやってる…と思いました」と話すのは、看護師長の岩本明美さん。月一回、医師や非常勤職員も交えカンファレンスをしていたからです。「何が違うんやろう?」と考え、共有していた気になる患者情報の多くが、具体的な支援に結びついていないと気づきました。そこで、診療所目標として「気にカン」を位置づけました。
 回を重ねるたびに発言も増え、「気にカン」から友の会の買い物ツアーにつないだり、新たに囲碁や将棋、麻雀サークルもつくりました。「日々の“気になる”“そういえば”を、職種を越え気軽に発信できる場が必要だったんですね。始めてみれば患者さんからの“ありがとう”が増え、仕事へのやる気にもつながります」と岩本さんは振り返りました。

■SDH問診から「気にカン」へ

 二〇一七年三月、横尾さんは日本HPHネットワーク(J―HPH)コーディネーターワークショップに参加しました。そこでの経験から、日の出診療所では「健生会のSDHのとりくみ第一弾を日の出診から」と、六月からSDH問診活動を始めました。
 SDH(健康の社会的決定要因)とは、疾病や健康の背景に貧困や生活環境があるという考え方です。SDH問診では、貧困を抱える人も平等に安心して受けられる医療・介護を実現するためのアンケートであることを患者に説明。同意を得て、自宅にある日用品や住環境、支払いで困ったことがないかなど立ち入った質問もしました。
 問診の結果をもとに、数カ月後には日の出診の看護師や事務、併設介護部門の介護福祉士、ケアマネジャー、隣接する土庫病院のSW、診療録管理士が参加し週一回の「気にカン」を開始しました。「みんな~、カンファレンスするよ~」という横尾さんの声で突然始まった初回の「気にカン」。「師長のリーダーシップにみんなが巻き込まれた」と話すのは、事務主任の安田光徳さん。事務なら考える多職種間の調整や計画を脇に置き、「この患者さんのことで動こう」と結果を出す横尾さんのもと、気になる患者宅を訪問し大掃除をしたこともありました。

SDHをわかりやすく伝えたい

 日の出診療所の横尾洋美看護師長は「診療所の患者はほとんどが慢性疾患。普段の“気づき”を支援に“つなぐ”ことが大事と考え『気にカン』を定例化しました」と振り返ります。看護師たちは、「患者さんの普段の生活が気になるようになった」「つなぐ先の友の会や法人が何をしているか把握するようになった」「友の会の拡大や署名のとりくみも変わった」「他職種の視点に刺激され学習テーマも変わった」と話しました。

■医療活動委員会の活動

 昨年復活した県連の医療活動委員会では全事業所・職場での「気にカン」を提起。アンケートでは奈良民医連の事業所・職場のうち半数超が「実施」「準備中」です。未実施の理由として「時間がない」、技師・事務系職場で「対象事例がない」が多いことから、「多職種参加型『気にカン』の定例化が有効」と分析しています。
 奈良・健生会は、一月に行われた法人医療活動委員会キックオフ集会へ向け、日の出診療所の「気にカン」を再現ドラマ化したDVDを制作しました。企画したのは、横尾さんとともにJ―HPHコーディネーターワークショップに参加した土庫病院相談連携室の中山香奈子さん(SW)です。横尾さんと中山さんは現在、法人の医療活動委員でもあります。中山さんは、自身も参加していた日の出診の「気にカン」を通じ、「SDHって何? 民医連の活動とどうつながるの?」を視覚でわかりやすく伝えたかったと言います。
 SWとして社会保障を理解してもらう難しさを痛感してきた中山さん。日常的に患者の生活背景や社会に目を向け、現行制度では救えないケースに直面してきました。新しい概念かのように注目され始めたSDHには複雑な思いもあります。「SDHをひとつの窓として、民医連が当たり前にやっていること、昔からやってきたことにスポットを当てたい」と話します。
 DVDは七月、県連主催の「気にカン」開き方講座でも上映しました。他法人から「うちでやってもシーンとしてしまう。どうすれば?」と質問された横尾さんは、「それぞれ思いを持ち仕事をしているから、『○○さんはどう思う?』と一人ひとりに声をかけてあげて」とアドバイスしました。

(民医連新聞 第1680号 2018年11月19日)

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