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2019年12月3日

生きているうちに必ず起こる大地震 命を守り、つなぐ備えを 南海トラフ地震 学習交流会講演から 東京大学地震研究助教授 地震予知研究センター長 平田直さん

 30年以内に高い確率で発生が予想されている南海トラフ地震。その被害はどれほどか、どう対策をすればいいのか―。全日本民医連は11月2日、南海トラフ地震(広範囲の災害)を想定した学習交流会を開きました。東京大学地震研究所教授で地震予知研究センター長の平田直さんが「南海トラフ地震等、巨大地震災害に備える」と題して講演。その概要を紹介します。(丸山聡子記者)

 巨大地震がくることはわかっていますが、いつどこにくるか、現在の地震学では予知できません。6月に山形県沖で起きた地震は地震の規模を示すマグニチュード(M)6・7。住宅被害はありましたが、死者は出ませんでした。
 地震の大きさは同じM6・7ですが、昨年の北海道胆振(いぶり)東部地震では40人以上が亡くなりました。厚真町で大規模な土砂崩れが多発したためです。さらに、苫東厚真発電所が被災して電力供給がストップ、電力のバランスが崩れ、全道で数日間停電しました。病院では医療機器が動かなくなり、患者さんの命が危ぶまれました。
 地震の規模は同じでも、その社会環境によって影響は大きく違ってきます。これが都市部なら、被害の規模も停電の影響も大きくなります。
 昨年の大阪での地震はM6・1。震度6弱で、立っていられないほどの揺れです。2016年の熊本地震はM7・3。阪神大震災はM7・3。大阪の地震では6人が亡くなりました。熊本では250人超が亡くなりましたが、直接地震での死亡は50人でその4倍が災害関連死です。避難生活が長引くなどして、せっかく助かった命が失われています。救った命をつなぐ努力が必要です。

■被害想定は最大で死者32万人

 日本と周辺ではM6程度の地震は月1回の割合で起きています。
 8年前に東北で起きた地震は自然現象としても非常に大きく、熊本地震の1000倍のエネルギーを放出した地震でした。エネルギーは、強く揺れた、あるいは影響を受けた面積に比例しています。熊本地震は50キロメートルほど。東北の地震は東北から関東まで500キロメートル。長さで10倍ですから面積で100倍。熊本でずれた断層は2~4メートル、東北では20~40メートル。場所によっては50メートルもずれました。
 面積が100倍だと被害も100倍です。東北の地震での死者・行方不明者は2万人超。熊本は災害関連死含め250人。熊本では8600棟が全壊し、東北では12万棟が全壊しました。
 普通に考えれば、私たちが生きている間にM8~M9程度の地震は起こります。M8程度の地震はいつ起きてもおかしくないと、地震学では予想されています。西南日本でM9の地震が起きた場合、神奈川県から四国・九州まで非常に強く揺れます。長周期の地震が予想され、高層階は大揺れです。
 東北と同じように非常に高い津波がきます。高知の黒潮町の予想は34メートル。東日本も10メートルを超える津波です。30センチメートルの津波がくれば、大人でも引き波で沖にさらわれます。1メートルで車が、3メートルで家が流されます。3メートルの津波が内陸に入れば大きな被害となり、病院も1、2階は使えなくなります。
 内閣府の想定では、被害が最大の場合、32万人が亡くなるとしています。東北の地震の死者は2万人ですから1桁多い。平野が続くと内陸まで深く浸水するため、浸水地域は東北の2倍、人的被害は10倍です。強い揺れと高い津波にさらされる地域の人口と建物の数が多いためです。

■地域を知り、対応を決める

 どう予防し、回復するか。必要なのが防災リテラシーです。基本的な知識を身につけ、災害から生き延びる能力をつけてください。
 例えば熊本地震の時、「まさか地震でこんな目にあうとは」と言う人がたくさんいました。しかし、熊本城はたびたび震災で壊れていますし、明治熊本地震もありました。自分の地域の歴史を明治あたりまでさかのぼれば地震の記録が出てきます。まず自分の地域と近隣の歴史に学ぶことです。
 南海トラフ地震が想定される地域で耐震化、家具の固定、避難方法の想定などを100%行えば、死者は想定の32万人から6万1000人まで減らせます(図1)。しかし、それでも東北の死者の3倍です。
 以前は、経済的損失より人命が大切だから、巨大地震を予知したら経済活動を止めてでも予防する方針でした。3日後に大震災が起こると予想された場合、内閣総理大臣が警戒宣言を出し、新幹線を止め、小中学校は休校、病院も休診、デパートや映画館も休業…などでした。しかし、現在の地震学では予知は難しく、2017年の中央防災会議で見直しがはかられました。今後は自分の状態に合わせてあらかじめ対応を決めて行動せよということです(図2)。

■BCPがなぜ必要か

 まずM8を超える地震が起きます。気象庁は3分以内に「津波警報」を出します。2時間後、「高知県沖でさらに大きな地震が起きる可能性が高まった」などと記者会見をして、国から国民に警戒を呼びかけます。しかし、これは赤信号ではなく黄信号。経済活動は止めず、「日頃からの備えの再確認」を呼びかけます。
 日頃からの備えや避難経路を確認し、通常の避難では間に合わない可能性がある要配慮者は避難します。これはあらかじめ市町村が決められます。病院の院長や理事長も、患者の避難などについて決めることができます。
 1000人以上規模の企業は6割がBCP(事業継続計画)を持っていますが、全体では15%。病院のBCP策定は25%で、拠点病院にはあっても一般のクリニックはないところも多い(図3)。
 BCPとは、機能が落ちた場合に災害の影響を減らして、早く回復するために必要なものです。病院は特殊です。病院の機能などインフラは低下しますが、災害で患者さんは圧倒的に増えるからです。病院はとりわけBCPをきちんと整備する必要があります。

■確率ゼロはどこにもない

 国は地震調査研究推進本部をつくり、10年かけて「地震の起きやすさ+地盤の揺れやすさ」をもとに地震動予測地図をつくりました。確率ゼロのところは日本のどこにもありません。防災科学技術研究所の地震ハザードステーションのホームページに住所を入力すれば、30年以内に震度6弱になる確率が出ます。全日本民医連のある文京区湯島は47・7%。例えば30年以内に交通事故に遭う確率は15%、火災は1%。47%は低い確率ではなく備えが必要です。自分のところを確認してください。
 何も準備をしていなければ、南海トラフのような地震は国難になります。日本の西側全体が壊滅状態になります。それを避け、災害を軽減するために事前対策が基本です。科学の実力を生かして、社会全体で備えるとりくみをつづけてもらいたいと思います。

(民医連新聞 第1705号 2019年12月2日)

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