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2019年12月3日

大飯原発運転差し止め判決で伝えたかったこと 福井地裁元裁判長 樋口英明さん 電気代より国民のいのちが国富

 福井県の関西電力大飯原発3、4号機は、2012年7月に再稼働しました。「運転差し止め」を求めて189人が提訴。14年5月21日に東京電力福島第一原発事故後、初めて差し止め判決が出されました。その時の福井地裁裁判長が、樋口英明さんです。原発をなくす全国連絡会は11月12日、樋口さんを招き「大飯原発差し止め裁判から学ぶ」と題した学習会を行いました。概要を紹介します。(代田夏未記者)

 福島第一原発事故後、地震を理由に原発の運転を差し止めた裁判長は2人のみ。18人は差し止めませんでした。私の答えに迷いはありません。原発の本当の危険性を18人はわかっていないのです。

■安全三原則は守られず

 危険性には2つの意味があります。事故が発生する確率が高いから危険なのか、事故の被害が大きいから危険なのか―。2つの“危険”の性質は同じではありません。大飯原発差し止め裁判のポイントはここにあると思いました。
 地震が来たときに原発がとるべき「安全三原則」があります。核分裂を「止める」、核燃料を「冷やす」、格納容器に放射能を「閉じ込める」です。すべて守られなければ甚大な被害が生じます。福島第一原発事故では三原則は守られませんでした。
 事故当時、4号機は点検中で貯蔵プールに使用済み核燃料がありました。隣の原子炉ウェル(上部の空間)との仕切りがなぜかずれて、工事の遅れにより抜き取られていなかった原子炉ウェルの水が、貯蔵プールに入り核燃料を冷やしました。
 1~3号機は地震の影響でモーターが停止。非常用電気も津波で使えず、冷却用の水が送れなくなり、核燃料は自らの熱で溶け落ちました。それにより2号機の格納容器は蒸気でいっぱいに。爆発すれば放射能が飛び出し、東日本壊滅も予想されました。ところが格納容器の底に欠陥部分があり、蒸気が抜けました。2、4号機の奇跡で、首都圏を含む半径250kmへの放射能被害は免れました。

■住宅より低い耐震性

 地震の大きさを示すマグニチュードと、地震の強さを示すガルがあります。2008年の岩手宮城内陸地震では、4022ガルを観測しました。
 住宅の耐震設計は、三井ホームの基準が5115ガル、住友林業は3406ガルです。それに比べて、大飯原発3、4号機は判決当時、700ガルでした。関西電力も「強い地震には耐えられない」というのです。しかし「大飯原発に限っては700ガル以上の地震はきません」と主張しました。争点は「強い地震は来ません」という予知が信用できるかだったのです。
 地震学は観察不可、実験不可、資料なしの“三重苦”と言われて、予測はできません。この訴訟は専門訴訟ではなく、良識と理性の問題だと思いました。

■原発はいのちの問題

 差し止めなかった18人の裁判長は、政府に忖度(そんたく)したと言われていますが、半数以上は自分が正しいと思って出した答えでしょう。最高裁判決を深く読み込むことなく、先例にとらわれて、リアリティーが欠落しているから正当な判断ができなくなるのです。
 南アフリカの人種差別の裁判で、ネルソン・マンデラ氏は「裁判とは心の強さが試されたたたかいであり、道義を守る力と道義に背く力とのぶつかり合い」と言いました。原発裁判もおなじです。道義も論理も住民側にあるのです。
 判決に書いたことは当たり前のことです。原発問題は自分や家族のいのち、日本の国富の問題です。みなさんにお願いがあります。この話を多くの人に伝えてください。原発由来の電気は使わないでください。そして、選挙では反原発の人に投票してください。危険な原発を次の世代に残してはいけません。今の時代に解決するべき問題です。

(民医連新聞 第1705号 2019年12月2日)

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