声明・見解

2019年12月17日

【声明2019.12.17】利用者負担増と給付削減をもたらす介護保険見直しの撤回を求める

2019年12月17日
全日本民主医療機関連合会
会長 藤末 衛

 12月16日、厚生労働省は、介護保険の次期見直しに向けたとりまとめの「素案」を社会保障審議会・介護保険部会に示した。
 この中で、これまで審議の大きな焦点となり、利用者・家族、事業者から強い不安・疑問が寄せられていた「ケアプランの有料化」、「要介護1、2の生活援助等の見直し(総合事業への移行)」、「利用料2割負担、3割負担の対象拡大」については実施を見送ることが表明された。介護保険部会における当事者団体からの「高齢者に深刻な影響を与える」という批判や、見直しの撤回を求める世論の反映である。
 しかし一方、補足給付(低所得者と対象とした施設等の居住費・食費負担の軽減制度)の要件の厳格化については実施が方向づけられた。現行の補足給付では、単身の場合、預貯金などの金融資産が1千万円以下の利用者が対象となっているが、示された案では、資産基準を3区分から4区分に改め、例えば新たに設けられた「年収120万超」の区分では、金融資産要件を「500万円以下」に下げ、食費で新たに月額2万2000円を上乗せすることで、居住費・食費を合わせた自己負担額を約5万3000円に引き上げるとしている。対象者を絞り込み、負担の軽減を縮小する改悪であり、補足給付から外れることで施設からの退所を余儀なくされたり、費用を工面できずに入所の申し込みすらできない事態をいっそう広げることになる。補足給付の見直しの撤回を強く求めるものである。また、高額介護サービス費の見直しでは、「一般」区分(現行4万4400円)を3段階に細分化し、最高額を14万100円まで引き上げるとしている。高額療養費制度との整合を図ることが理由とされているが、いったん利用を開始すると生涯にわたって利用を続けることが必要な介護保険の特性をそもそも無視したものである。
 さらに、見送りとされた「ケアプランの有料化」、「要介護1、2の生活援助等の見直し(総合事業への移行)」、「利用料2割負担、3割負担の対象拡大」について、「引き続き検討を行うことが適当」と明記されたことは重大である。これらは、今後とりまとめが予定されている全世代型社会保障検討会議「中間報告」、および新経済財政再生計画「改革工程表」に盛り込まれ、実施に向けた検討が進められることが見込まれる。いずれも利用者にかつてない規模での利用困難をもたらすことは確実であり、到底容認できるものではない。検討の中止を重ねて求める。
 介護保険制度は施行20年目を迎えた。この20年間、政府は「制度の持続可能性の確保」を掲げ、財政事情を優先させた給付削減・負担増を先行させる制度の見直しを重ねてきた。施設等での居住費・食費の自己負担化、新予防給付の創設、総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)の開始、補足給付への資産要件・配偶者要件の導入、利用料の2割負担・3割負担の導入、高額介護サービス費の負担上限額の引き上げ、特養入所対者を原則要介護3以上に限定、多数回数利用の生活援助に対する届け出制の導入などが、利用者・高齢者の反対の声を押し切る形で次々と実施されてきた。こうした一連の制度の見直しの結果、必要な時に必要な介護サービスを利用できない「保険あって介護なし」というべき深刻な事態が広がっている現実がある。
 いま、政府が行うべきことは、負担増・給付削減一辺倒の制度改革を重ねることではない。「介護保険20年」という節目にふさわしく、現行の介護保険制度のもとで利用者・家族がどのような現状におかれているのか、自らの責任で真摯に検証を行い、経済的事情や家族の状況にかかわらず、介護が必要な時に必要なサービスが適切に保障される制度への改善に向けて、介護保険全般にわたる抜本的な見直しを行うことである。

以 上

PDF版

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ