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2020年6月8日

【会長声明2020.06.06】社会福祉法等の一部を「改正」する法律案の成立に際して

2020年6月6日 全日本民主医療機関連合会 会 長 増田 剛

 6月5日、「地域共生社会実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」が参院本会議において与党をはじめとする賛成多数(反対:立憲民主党等共同会派、日本共産党など)で可決・成立しました。コロナ禍で国民に様々な困難が生じている中、地域福祉の今後のあり方を左右する重要な法「改正」が十分な審議を尽くさないまま決定されたことに強く抗議します。
 社会福祉法「改正」では、地域共生社会の実現に向けて包括的な支援体制を構築することを目的に、「断らない相談体制」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」を目的とする「新しい支援事業」を創設するとしています。高齢者・障害者、子育て、生活困窮への対応に加え、「8050問題」と称されるように生活問題が世帯化・複合化している中で、「包括的」「重層的」な相談支援、アウトリーチ支援の体制をつくることはどの地域にとっても急がれる課題です。しかし「改正」案では、財政措置をふくめた政府の責任が明確にされていないため、市町村の対応に大きな格差が生じるおそれがあります。さらに、取り組みの主体が住民とされており、自治体の責任・公的支援を縮小させ、住民の活動に移し替えていく「互助」の制度化と環境整備を本格的に推進するものであるといわざるを得ません。
 「改正」案では、社会福祉法人を中心とする「社会福祉連携推進法人」を新たに創設するとしています。多くの小規模の社会福祉法人が経営上の困難を抱えている中で、複数の法人、事業体が相互協力を図り、地域での活動基盤を強めていくこと自体は否定されるものではありません。しかし、「改正」案では、資金力のある法人によって小規模法人が吸収されたり、連携推進法人に加わらない法人が淘汰されていくなど、地域の福祉体制の効率化・再編につながらないか危惧されます。経営困難を理由とした事業譲渡や合併が強制される流れがつくられることにならないのか懸念もあります。営利企業の参入を必ずしも否定していない点も問題です。また、前述の「新しい支援事業」を住民個人が担うことは実際上困難であり、地域の社会福祉法人が中心的な役割を果たしていくことが想定されます。
 「新しい支援事業」は自治体がその運営責任を担うとともに、自治体間の格差を生まないよう政府として必要な財政支援等を講じることが必要です。社会福祉連携推進法人についてはその非営利性、公益性をしっかり担保するとともに、小規模社会福祉法人が単独で事業を継続できるよう、介護報酬・障害サービス報酬の大幅な引き上げをふくめた対策を先行して講じることを改めて要請します。
 また、今回の「改正」は、介護保険法、老人福祉法との一括「改正」とされており、介護保険事業計画の記載事項として介護人材確保の取り組みを追加することなどが盛り込まれています。今般の新型コロナウイルス感染症は、介護現場の人手不足の深刻さを改めて浮き彫りにしています。従来の延長線にとどまらない、抜本的で実効性のある人材確保対策、処遇改善策を求めます。来年度予定されている介護報酬改定での報酬引き下げは絶対にあってはなりません。大幅な底上げが必要です。
 今般の社会福祉法「改正」は、政府が進める全世代型社会保障改革の一環として実施されたものです。全世代型社会保障は、「安上がり」な働き手の確保と社会保障費の削減を一体的に進めるものであり、すでに今国会で高年齢者雇用安定法、年金法などの改悪が行われました。社会福祉法「改正」は、働くことが困難な高齢者、障害者に対処する受け皿を整備するという点にその本質的な狙いがあります。
 新型コロナウイルス感染症は、公費抑制、営利・市場化という新自由主義の考え方を基本に推進されてきたこれまでの政府の改革が、いかに社会保障の基盤や雇用環境や劣化させてきたかを鮮明にしています。全世代型社会保障改革がこのまま推進されていけば、コロナ禍のもとで当事者、事業者に生じている深刻な困難、矛盾を加速させていくことは間違いありません。全世代型社会保障改革の撤回と、安全・安心の介護保障・地域福祉の構築、まともな年金、まともに働ける制度の実現をめざし、引き続き世論と共同を広げていく所存です。

以 上

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