民医連新聞

2003年7月21日

地域訪問で元気 福井・光陽生協病院

福井の職員が元気です。十数年間連続でほぼ全職員が平和行進に参加していることをはじめ、患者によりそい、生きいきと地域で行動するフットワークには目を 見張るものが。最近も光陽生協病院の一病棟の経験が寄せられました。入院してきた喘息の青年T君と家族の様子に看護師たちが気づき、一家が抱える問題を 知った職員が、地域や学校、自治体職員もまきこんで支援。T君は自立に向けて歩みはじめました。

(木下直子記者)

喘息(ぜんそく)もつ青年のSOSから

 【福井発】一八歳のT君が喘息の重積発作で光陽生協病院に救急搬送されてきたのは昨年のことでした。入院する までT君は「ひきこもり」の状態。中学生の弟も不登校。弟ともども喘息をもちながら、定期的な治療を受けていませんでした。両親が定職につけず、荒れ放題 で不潔な家に住む家族の、生活の崩れがうかがえました。
 医事課などの努力で生活保護は受給できましたが、母親と弟がT君の入院給食を食べていたり、家には帰らず病院に泊まるなど、気になる行動にスタッフは目を留めました。
 「喘息が改善しないのはなぜ? 生活は大丈夫?」、一家の様子を見にいった方がいいと判断したスタッフは、自宅を何度も訪問しました。しかし両親は立ち 入ることを拒絶。T君の退院後は連絡が取れなくなりました。
 そして今年春、T君はふたたび重積発作で、緊急入院してきました。前回は受給できた生活保護が、今回は「両親に働く能力があるから」という理由で受けら れません。病棟スタッフは「T君兄弟が生きていくには?」と、様ざまな場面で話しあいました。結論は「退院前に自宅を掃除しよう。そうしないと兄弟の喘息 は治らない。死んでしまうかも」。T君に相談すると、T君は「両親を説得してほしい」と。

民生委員や担任、様ざまな人を巻き込み
 さっそく民生委員や大家さん、弟の担任、社会福祉課など一家と関わりのある人たちに連絡しました。社会福祉課はゴミ廃棄料の減免を、大家さんや民生委員さんはゴミ袋などを用意、弟の担任は当日手伝いにくることに。
 T君と看護師五人が向かった家は想像を絶する状態でした。布団にこびりついた猫の糞、ゴミの山、虫、悪臭。寝る空間もないので、一家は膝を抱えて座ったまま眠っていたことも判明。喘息が悪化するのも当然でした。
 T君の弟の中学校の先生たちが休憩時間や授業の合間に次つぎに手伝いにやってきました。近所の人や、福祉事務所の職員もゴミ運びに加わるうち、父親も手伝いはじめました。
 三〇〇kgのゴミを運びだした大掃除は六時間もかかり、へとへとに疲れていましたが「これでT君を家へ帰せる」と皆笑顔に。深夜明け、準夜明け、休みの看護師も来たと知ってT君の目には涙が浮かびました。
 後日、T君は働く意志を固め、生まれて初めて履歴書を書きました。
 T君一家に大きな変化を起こしたこの事例は、新卒看護師の石川優子さんが、心を開かなかったT君にねばり強く接し、会話ができる関係をつくったところから。この石川さんの「何とかしたい」という思いを、病棟全体が受け止めて実現させました。

体験でつかむ方針・情勢

 今回のような話は同病院では珍しい話ではありません。毎週一度、担当地域を訪問し困難な人を援助する職員の姿に、地域の人は「困った時は光陽さんへ」と、信頼を寄せています。
 職員は生協支部の相談にのり、地域の人に困りごとがないか声をかけて歩きます。担当地域の情報は「事務長より各職場のほうが詳しい」ほど。
 「地域に出るのは楽しい。いい仕事をさせてもらってます」と三年目職員の平澤公さん(事務)。また、医事課主任の能登勇太郎さんは「僕らが見放したら、 生きていけない人がいる」と言い切ります。昨年から重症になってから受診する患者さんが目立って増え、同院のベッド五七床のうち一割は、医療費の支払いが 困難な患者さんが占めています。医事課では困難な患者さんのケースで、市役所に交渉に行くのが日課になりました。
 しかし最初からこういう職場だったわけではありません。「民医連のことを考えたこともなかった」「実務だけ」「専務以外は、社会資源の利用方法も知らな い」という状態から、「医療活動と社会保障のつながりを一人ひとりの職員が理解すること」を重視する職場に変化させたのは、地域訪問でした。職員が地域に 出て持ち帰った経験を、職場会議や職責会議などで報告し、病院全体で共有し、励ましあう努力を積み重ねてきました。
 訪問しても応答がないので留守だと思っていた組合員さんが、孤独死していたこと、自分の日常からは想像もつかない生活を送っていた人、共同組織の人たちがしている無償の助けあい活動、これらを知った驚き…。
 「方針は読むだけでは、職員には想像もできないことがほとんどです。体験から入るとわかるんです」と奥田育子さん(前医事課主任)。「患者さんと接して、情勢を実感した職員たちは、運動提起への反応も早いです。(地域に)行ったらみえてくるんですよ」。

(民医連新聞 第1312号 2003年7月21日)

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