介護・福祉

2020年9月17日

【2020.09.15】令和3(2021)年度概算予算要求に対する要望書

厚生労働大臣 加藤 勝信 殿

2020年9月15日
全日本民主医療機関連合会
会 長 増田 剛

 新型コロナウイルス感染症の終息が見通せない中、各地の介護施設・事業所では、サージカルマスク、消毒用アルコール、手袋など感染防護具が不足する状態が続いており、「感染しないか」「感染させてしまわないか」という強い不安と緊張を常に抱えながら日々介護にあたっています。「第1波」の際の利用控えによる大幅な減収、感染対策に伴う費用の増加などによるかつてない経営的なダメージも抱えており、利用者のサービス利用が再開されてきたとはいえ、先が見ないまま推移しています。
 今般のコロナ感染症は、経営難、慢性的な人手不足に喘いでいた介護施設・事業所を直撃しました。多くの事業所では、低く据え置かれた介護報酬のもとで経営的にゆとりのない状態が続いています。特に加算に重きを置く報酬改定が繰り返される中で、算定が難しい小規模の事業所では事業の存続を左右しかねない事態も生じています。事業所の収支差率は改定のたびごとに低下しています。特にケアマネジャーが担う居宅介護支援事業では、厚労省の調査で介護保険スタート以後一貫して収支差率がマイナスになっており、事業としてそもそも成り立っていない極めて不正常な状態です。
 人手不足も深刻化の一途をたどっています。2025年には33万人の供給不足を生じると推計されていますが、必要な専門職を確保できるのか見通せません。特にヘルパーの不足は深刻です。高齢化も進んでおり20代のヘルパーは全体の1.0%という調査結果もあります。このままでは介護保険の基本サービスのひとつである訪問介護が消滅してしまうことになりかねません。人手不足解消のためには大幅な処遇改善が必要ですが、全産業平均給与と比較して月8.5万円(ヘルパーは10万円)もの開きがあるのが現実です。「人手不足が経営悪化をもたらし、経営悪化が処遇条件を劣化させ、処遇条件の劣化がさらなる人手不足をもたらす」という「負の連鎖」から抜け出すためには、大幅な処遇改善、介護報酬の底上げが不可欠です。
 今後、高齢化が進む中で75歳以上高齢者、独居・老々世帯、認知症高齢者が急増することが見込まれており、介護需要はいっそう高まっていきます。また新型コロナウイルス感染症の拡大・長期化や新たな感染症への備えも必要です。行き届いた介護を保障し、感染症などの不測の事態にゆとりをもって対応するために、介護事業基盤の抜本的な強化を図らなくてはなりません。経済的な事情や制度の仕組みによって必要な介護サービスの利用に困難が生じないよう、政府の手で「介護保険20年」の検証を行い、費用負担の軽減など現在の介護保険制度を見直すことも必要です。
 令和3(2021)年度の予算編成に際し、下記に関わる予算の計上等を要望します。

<要望事項>
1. 令和3(2021)年度予算において、社会保障に係る予算を大幅に増やすこと

2. 令和3(2021)年度介護報酬改定について
(1) 「介護の質の維持・向上」「経営の安定性・継続性の担保」「働き続けられる労働環境の確保・維持」が可能なるよう、各サービス事業の基本サービス費(基本報酬)を大幅に引き上げること
(2) 感染症予防に係る費用を基本サービス費に盛り込むこと、「密」の回避など新たな事業環境に適合できるよう、介護報酬、人員基準をはじめとする諸基準を見直すこと
(3) 「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて(第12 報)」による割増し算定は廃止すること
(4) 経営的に困難を抱える小規模事業所の現状や、新型コロナウイルス感染症の影響を適切に把握し、改定に反映させること
(5) 利用者のサービス利用に支障を来さないよう、利用料軽減などの対策を講じること

3.  介護従事者の処遇改善について
(1) すべての介護従事者を対象に、全産業労働者平均まで給与を引き上げること
(2) 上記の財源は全額公費とすること

4 介護保険制度について
(1) 保険財政における国庫負担割合を大幅に引き上げ、必要な時に必要な介護サービスを受けられるよう、利用料、介護保険料の軽減などをはじめとする制度の改善をおこなうこと
(2) 令和3(2021)年8月から予定されている補足給付等の見直しを中止すること、要介護者が介護予防・日常生活総合支援事業の利用を可能とする「弾力化」を実施しないこと

5 感染症対策について
(1) サージカルマスク、消毒用アルコール、手袋、ガウン・エプロン、ゴーグルなどの衛生・防護用品の安定的な確保、供給をはかること
(2) 施設・事業所内感染を防ぐために、PCR検査の体制を抜本的に強化し、利用者および介護従事者が迅速に検査を受けられるよう環境を整えること
(3) 地域に必要な介護提供体制を維持するために、新型コロナウイルス感染症に伴う利用者の減少によって生じた減収分に対する補填を行うこと
(4) 高齢者施設での感染、クラスターが発生した際、医療専門チームの派遣や職員の支援など、当該施設に対する支援体制を強化すること

以    上

PDF版

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ