副作用モニター情報(薬・医薬品の情報)

2022年2月8日

副作用モニター情報〈568〉 エンレスト錠による腎障害(高カリウム血症)

 現在、日本において心不全の患者は徐々に増えています。人口は年々減少しているにもかかわらず、心不全患者数は増加傾向にあり、「心不全パンデミック」とも言われています。
 そんななか、2020年8月に慢性心不全治療薬エンレスト錠が発売となりました。サクビトリルとバルサルタンを1:1のモル比で含有する結晶複合体です。サクビトリルによるネプリライシン阻害作用と、バルサルタンによるAT1受容体遮断作用によって、体液量と血圧が低下することで心負荷を軽減し、心不全の悪化を抑制します。使用している事業所も増え、副作用の報告も上がっています。

症例)70代 男性
・慢性心不全悪化に伴い入院となる。入院時K値:4.5、CCr:32.9。入院中よりエンレストを開始
・3週間入院し、退院。外来診察となる。K値:4.4、CCr:34.2
・エンレスト開始後39日目 K値:
5.7、CCr:28.8となり、カリウム値上昇。服用中だったセララを中止するが、その後も血圧低下・頻脈・浮腫が続き、再入院となる。K値:7.2、CCr:12.5
・アミオダロン以外の内服を中止し、ケイキサレートを投与開始
・K値:6.4となったため、エンレスト以外の内服を順次再開。その後、K値:4.1となり正常範囲内に回復

* * *

 今回の症例ではセララの副作用も疑われましたが、中止後もK上昇が続いたため、エンレストの副作用と推定されました。バルサルタンのRAA系抑制作用により腎機能障害を引き起こし、高カリウム血症につながった可能性が示唆されます。本症例では腎機能の面でリスクの高い患者であったことも、副作用発現に繋がったと考えられます。
 今後使用量が増えると思われるエンレストですが、使用に関しては「高カリウム血症」「腎機能障害」「低血圧」などの副作用のリスクがあること、併用薬の薬剤調整も必要であることなど、注意すべきことがいくつかあります。また、ネプリライシンの長期的阻害が、アミロイドβの蓄積をもたらすことも危惧されています。心不全の新たな選択肢となりますが、今後の使用実績や評価も注視していく必要があります。
(全日本民医連医薬品評価作業委員会)

(民医連新聞 第1753号 2022年2月7日)

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