民医連新聞

2022年2月8日

これでばっちりニュースな言葉 情報を集め考えよう 「改憲」で幸せになれるのか!? こたえる人 弁護士 伊藤 真さん

 昨年の衆院選後、にわかに再び持ち上がった「改憲」論議。コロナ禍で苦しむ国民を尻目に、国会議員の口から平然と語られる軍拡や9条の破壊に、違和感、危機感を抱く国民は少なくないはずです。憲法を守るたたかいは夏の参院選に向けて正念場を迎えています。自民党改憲4項目について、弁護士の伊藤真さんの解説です。

 2018年3月、自民党はわが国が直面する内外の諸情勢に鑑みた改憲案として、(1)自衛隊の明記、(2)緊急事態条項、(3)合区解消・地方公共団体、(4)教育充実の4項目について条文イメージを公表しました。

■自衛隊の明記

 自衛隊違憲論を解消するため、戦力を持たず、国の交戦権を認めないとした9条2項を維持した上で、9条の2として自衛隊の保持を明記し(第1項)、自衛隊の行動を国会などの統制に服させる(第2項)としたものです。
 ですが、違憲論は、自衛隊の実質が軍隊であり、それが2項の「戦力」に当たるという主張ですので、解消するには、2項を削除するしかありません。
 改憲案で9条は維持されますが、日本をまったく別の国にしてしまう危険性があります。違憲論が軍事力行使に対して果たしてきた立憲的な歯止めがなくなり「後法は前法を破る」ため、自衛隊に9条はおよばなくなったと政府が主張することも可能となります。改憲の国民投票で過半数に支持されれば、政府から教育現場で国防意識を強制されるなど、戦前のような「国防国家」へとすすみやすくなるでしょう。さらに「国防」という価値を憲法が認めることにより、徴兵制など国防目的の人権制約もできるようになります。

■緊急事態条項

 この改憲案では、大災害による国会の機能不全に備えるため、行政権限を一時的に強化し、内閣に法律と同じ効力を有する政令を制定することを可能にし、国政選挙の実施が困難な際に議員任期を延長できるとしています。
 しかし、現行法でも、地震などの大災害には「災害対策基本法」、コロナウイルスのような感染症には、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」、有事には「国民保護法」などの個別の法制が整備されており、緊急政令を憲法化しないと困るようなことはありません。災害対策の基本は、「準備していないことはできない」という点にあります。安倍首相による全国一斉休校、アベノマスクなどの政策をみれば、権限が集中しても、肝心のトップに適切な危機管理能力がないと、かえって大変な混乱を招いてしまうことがわかるでしょう。

■合区の解消・地方公共団体

 現行の公職選挙法は、都道府県単位で選挙区を定めており、住所地による投票価値の不平等が著しかったため、2016年参院選から導入されたのが、鳥取と島根、徳島と高知の選挙区をそれぞれ1つにする合区です。
 これに対して改憲案では、合区が有権者の投票の機会を奪うとして、参議院議員を「広域の地方公共団体」、すなわち各都道府県から、少なくとも一人を選出できると憲法に明記し、合区を解消すべきだとしています。
 しかし、投票価値の平等が民主主義の基本であるにもかかわらず、都道府県単位の選挙区制を憲法に明記してしまえば、投票価値が改善される余地がなくなってしまいます。さらに、国会議員は「全国民の代表」(43条1項)であり、参議院を都道府県の代表とするのはそれと矛盾し、衆議院とは違う性格の議会にしてよいか、 ひいては二院制のあり方そのものも問題になります。
 都道府県にこだわらなければ、ブロック制と比例代表制とを組み合わせることで合区を解消し、投票価値の平等の問題も同時に解決できます。

■教育無償化の明記

 高等教育の無償化を内容としますが、もともと教育を受ける権利(26条1項)には生存権的側面、すなわち、国民が教育をなるべく安く、そして均等に受けるための条件整備を国に求める権利が保障されています。その具体化立法を法律で定めればよいだけであり、憲法への明記は不要です。財源の面で実現可能性の乏しい人権を憲法に加えてしまうと、むしろ人権全体の保障度を下げ、有害ですらあります。

■無関係ではいられない

 昨年の衆院選では、憲法改正に前向きな改憲勢力が4分の3を占め、憲法審査会では実質的な議論が行われるようになりました。自民党の「憲法改正推進本部」は「憲法改正実現本部」に変わり、今年行われる参院選で改憲勢力が3分の2を超えれば、改憲発議に向けて本格的に動き出す可能性があります。
 今まで改憲に関心がなかった人も、憲法改正には無関係ではいられません。われわれ国民は、同審査会における議論に注意しながら情報を集め、それを自分の頭で考えておく必要があります。その改憲案によってどのように国のかたちが変わるのか、改憲が行われるのと行われないのと自分にとってどちらが幸せなのか、今からしっかり考えておくべきです。

(民医連新聞 第1753号 2022年2月7日)

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